ムスリムの現実 in JAPAN〜「IS」が生んだ誤解の中で

(1)ISはイスラム教と逆のことをしている

社会

「テロリストは入国させない」として、米国のトランプ大統領はイスラム圏などの市民の入国を禁止しようとした。米司法当局は「イスラム教徒に対する差別だ」などとして、これをストップ。しかし、欧州でも相次ぐテロの影響で、多くのイスラム教徒(ムスリム)は肩身の狭い思いをしている。ほとんどのムスリムはこう言いたいに違いない。「私たちはIS(過激派組織イスラム国)とは違う」と。日本でも「ムスリム排斥」の動きは起きているのだろうか。

推計15万人、まだ身近な存在にならず

ムスリム研究をしている早稲田大学の店田廣文(たなだ・ひろふみ)教授はこう話す。

「ごく少数ですが、モスクに嫌がらせをするケースは聞きます。でも、日本人が直接ムスリムに嫌がらせをするのは聞いたことがありません。日本人にとってムスリムの存在がさほど身近ではないということと関係しているかもしれません」

世界でみると、ムスリムは約16億人で、キリスト教徒の約22億人に次いで多い。米シンクタンクの予測では、ムスリムの数は2070年にキリスト教徒に追いつき、2100年には最大勢力になるとみられている。

ムスリム比率を地域別にみると、欧州6.1%、北米1.6%なのに対し、アフリカとアジアは高い。

世界のムスリム人口/地域別(2013年)

地域 地域人口 ムスリム人口 地域内の比率
アフリカ 11億1100万人 4億6300万人 41.7%
アジア 42億9900万人 10億7900万人 25.1%
欧州 7億4200万人 4400万人 6.1%
ラテンアメリカ・カリブ海 6億1700万人 202万人 0.3%
北米 3億5500万人 582万人 1.6%
オセアニア 3800万人 49万人 1.3%
合計 71億6200万人 15億9600万人 22.3%

出典:『イスラーム教徒人口の推計』店田廣文(2013年)

一方、店田教授の推計によると、現在の在日ムスリム数は14〜15万人で、人口比0.1%。世界の中でも最低レベルだ。

ムスリムの出身国をみると、ムスリムという言葉から連想しがちなアラブ諸国とは別の国名が上位に並ぶ。店田教授の最新の調査(2010年末)では、滞日ムスリム11万人のうち、インドネシア2万人、パキスタン1万人、バングラデシュ9000人、マレーシアとイランが各5000人。アラブ圏は4000人にすぎない。結婚してムスリムとなった日本人も1万人いるとみられている。ここ5、6年はムスリムも、モスクも増える傾向だという。

モスク運営を安定化させるために、税制面で有利になろうとムスリム団体を宗教法人化する動きも出ており、14年6月現在で、17の宗教法人が設立されている。

外国からやって来るムスリムだけでなく、イスラム教を「異文化」ととらえて関心を抱く人は増えているようで、東京・代々木上原にあるモスク「東京ジャーミイ」を見学する日本人は増加の一途だ。だが、相互理解が進んでいるとは言い難い。

「善行と助け合い」が本来の姿

モスク周辺に住む日本人住民の意識調査の結果を見ると、「ムスリムは怖い」というイメージを抱く人は多い。店田教授は「ISの影響で、ムスリムは誤解されている。寄付をまったくいとわないなど、助け合いの精神を持つ人がたくさんいるのに」と話す。

英ロンドンで現地時間6月14日未明に起き、多数の死者が出た高層マンション火災でも、ラマダン(断食月)中のために深夜に食事をしていたムスリムが出火に気づき、多くの住民を助けたと言われている。

ラマダン中の礼拝を先導する宗教者(イマーム)として、パキスタン・ラホールから来日しているモハンマド・サーエクさん(40)は、こう話す。

「イスラム教の名前を使って、イスラム教とまったく逆のことをしている。人殺しなんてありえない。善行をして神の前に戻らないといけないと思っているのがムスリムです。ISはどうしてあのような行動をとるのか、理解できません」

パキスタンからやってきたモハンマド・サーエクさん。日本に来るのは3回目で、「日本に住むムスリムは熱心に祈りを捧げると感心する」と話した

日本で暮らすムスリムの胸中にはどんな思いが去来しているのか。各地に住むムスリムを訪ねた。

文=河野 正一郎(POWER NEWS)
写真=今村 拓馬

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