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シリーズ ムスリムの現実 in JAPAN〜「IS」が生んだ誤解の中で
(6)日本で生まれ育った娘と「ムスリムの父」
[2018.03.26]

子どもは親の背中を見て育つ。日本社会に生きるイスラム教徒(ムスリム)の家庭でも、それは同様だ。しかし、日本で生まれ育った子どもたちが、必ずしも親と同じようにムスリムになるわけではない。

パキスタンの親の反対押し切って結婚

千葉県習志野市に住むユースフ・サァーラさん(22)は子どものころから水着を着たことが一度もない。夏でも、同じ年ごろの女性が着るような肌の露出が多い服は着ない。スカート丈もひざ下だ。彼女自身はムスリムではないが、イスラム教徒の父、ユースフ・アリさん(56)の気持ちをおもんぱかって、そうしている。幼い頃からずっとそうなので、いまさら肌を露出した洋服は恥ずかしくて着られないし、着たいとも思わない。

父親のアリさんは、パキスタンで「香水の都」として知られるハイデラバードで、10人兄弟の7番目として生まれた。パキスタンの治安が悪化したことから1986年3月に、友人を頼って単身で日本へやって来た。知り合った日本人女性に「猛烈にアタックして」(アリさん)、91年に結婚する。その相手が今の妻であり、サァーラさんの母親となる女性だ。だが、アリさんにとって、この結婚に至るまでの過程が日本での最初の試練となった。

というのも、パキスタンのイスラム教徒の家庭では、親の決めた相手と結婚するしきたりがあるからだ。日本人の、しかもムスリムでない女性との恋愛結婚などもってのほかだ。実家を通じてパキスタンの独身証明書を取り寄せようと試みたが、いくら待っても届かなかった。結婚に反対する両親が邪魔していたのだ。そこで、弟に頼み込んで証明書を手に入れ、親の許可を得ないままなんとか日本での結婚にこぎつけた。両親がこの結婚を許してくれたのはつい最近、5年前のことだった。

イスラムの教えが身につくと思っていたら…

やがて、2つ上の兄とサァーラさんが生まれた。

アリさんにとって、サァーラさんは「宝石」のような存在だ。2018年春、大学を卒業して希望の仕事に就くことが決まっている。そんなサァーラさんの話をするとき、アリさんは目を細めて本当にうれしそうだが、悩みがないわけではない。

「ムスリムの子どもは成長すると自然にムスリムになると信じていたのに、そうではなかったようなんです……」

食事や服装など、家ではイスラム教の習慣にしたがって暮らしていた。豚肉の入った料理はもちろん食べない。それだけではない。イカ、タコ、エビ、カニもみんなダメだ。飲酒もしない。神社やお墓で手を合わせてもいけない。他にもいろいろ決まりがある。だが、アリさんが家族にムスリムになることを強制することはなかった。アリさんは言う。

「妻は日本で生まれ育った人ですから。子どもたちも、ずっと日本で暮らすことになる。日本の生活習慣に沿ってできるだけ自由に育って欲しかった。私自身、お寺巡りが好きで、子どもを連れてお寺や神社に行くこともありましたから。でも、大人になれば自然とイスラムの教えが身につくと思っていたんですね。でも、それは間違いでした。今になって急に宗教のことを言っても、もう遅かった……」

アリさんとサァーラさんでハラール料理を作る

鶏肉と野菜のカレーが出来上がった

父を気づかって集会に

アリさんの思いは複雑だ。でも心の中で、やはり自分と同じ宗教を信じてほしいと考えるのは自然だろう。長男と妻は、最初からどうも難しそうだった。そこでひそかに期待をかけていたのがサァーラさんだった。

幼い頃からサァーラさんは、アリさんが属するイスラム教の宗派の集会によく連れて行かれた。そこにはパキスタンだけでなく、カナダやインドなどさまざまな国から来た人がいたという。日本に住むムスリムの仲間が家族連れでやって来る。お祈りなど宗教的な行事の後は、楽しい食事会などがあった。そこで同じ年ごろの友だちもできた。成長すると、お姉さんのような存在として小さい子どもたちにも慕われた。サァーラさんはこう語る。

「母も兄も行かないと言うので、私が行かなければという使命感みたいなものでしょうか。ムスリムになりたいという気持ちがあったわけではありません。父の友人たちはみんな奥さんや子どもと一緒に来ているので、父だけ一人ではかわいそうだと幼心に思ったのだと思います。小さい頃は家でのお祈りも、朝だけは父に付き合っていました。父も私に気を使って、『改宗しなさい』とは絶対に言わなかった」

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