太平洋の親日国家・パラオの真実

レメンゲサウ大統領単独インタビュー:「日本とパラオは兄弟関係、私には日本人の血が流れている」

政治・外交

パラオのトミー・レメンゲサウ大統領に、日本との友好関係や自国の安全保障環境を巡る問題、台湾との国交関係、今後の観光施策などについて幅広く話を聞いた。

トミー・E・レメンゲサウ・Jr Tommy E. Remengesau, Jr.

パラオ共和国大統領。1956年生まれ。米国で犯罪学を学んだ後、28歳で上院議員に。2001年から2009年にかけて2期8年大統領を務めた後、12年に再選されて現在4期目。15年の天皇・皇后両陛下のパラオ訪問で接待役を務めた。毎年のように訪日しており、安倍晋三首相とも親しい関係で知られている。

パラオ

人口約2万人。首都はマルキョクだが、旧首都のコロールが商業や経済の中心になっている。透明度の高い海はダイビングの世界的な聖地であり、政府も環境保護を重要政策に掲げる。第一次世界大戦後、国際連盟の委任統治領として日本が約30年間統治。コロール島にはミクロネシア北部の島々(旧南洋諸島)を管轄する南洋庁が置かれ、パラオ人の人口を大きく上回る最大で2万5000人の日本人が暮らした。太平洋戦争の激戦地であるペリリュー島があり、戦後70年の2015年には天皇、皇后両陛下がパラオを訪れ、同島で慰霊祭に参加した。

今も強い日本との絆

野嶋

 パラオと日本の友好関係はよく知られています。大統領は、パラオと日本の関係はどのように形容しますか。

レメンゲサウ大統領

 パラオと日本との関係は「兄弟」と称してもいいものです。われわれからすれば日本は兄です。パラオの国旗は海の青色の下地に黄色い月で、日本の国旗は白地に赤い太陽。月と太陽が共存しているようなイメージです。パラオと日本の関係には長い歴史があり、昨日今日、急に近づいたわけではなく、太平洋戦争の前も後も、互いにを尊重し、理解に努める先人たちの功績がありました。

私たちパラオの社会には、いまも多くの日本語が使われています。料理などには日本語の語彙(ごい)が非常に多く、われわれは日本料理を日常的に食べています。日本が残したその文化は、パラオ社会と深く絡み合いながら、(戦前の人々を第1世代とすれば)第2、第3、第4世代にまで伝えられています。

野嶋

 パラオ人の4分の1が日本人の血統を有しているとも言われますが、大統領のご先祖にも日本人がいたそうですね。

大統領

 その通りです。私の祖母の家系には日本人の血が入っています。祖母の父が日本人だったのです。

野嶋

 パラオ社会で日本語が使われていると大統領はおっしゃいましたが、特にご自身で子ども時代から使い続けた印象深い言葉はありますか。

大統領

 多くの言葉が家庭の「しつけ」に関するものです(笑)。「しょうがない」や「直らない」など。「美味しい」はよく使いますね。「疲れた」も。政府関係でも「電話」「選挙」「大統領」などよく使います。パラオ語には3000以上の日本語の語彙が残っていると言われています。

天皇のパラオ訪問、観光にも波及効果

野嶋

 大統領も2期勤めていったん大統領職を離れ、そのあと返り咲いていま3期目を迎えていますが、安倍首相と大統領の親しい関係もよく知られています。

大統領

 安倍首相との関係は温かく、強いものです。2人とも長期政権ですからね。私は「2人の安倍首相」を知っています。2期目の安倍首相のほうが好きです。何と言っても1期目は短かった(笑)。1期目の経験から学び、成長したように思えます。私も含めて、一度目より二度目のほうがうまくやれるものです。安倍首相はオープンな人で、太平洋地域の重要性をよく理解している。太平洋地域の島しょ国との人的交流や持続的な経済成長を目指し、米国とも協力しながら、日本のリソースやテクノロジーを提供してくれています。

野嶋

 大統領は日本を何度、訪れていますか。

大統領

 20回は行っています。上院議員のとき、副大統領のとき、そして大統領のときも含めると。常に日本には行きたいし、行く必要があるからです。日本は安全で親切で清潔、そして魅力的な場所です。和食は、味も盛り付けも素晴らしい。しかし、何よりもわれわれパラオと日本の歴史的な結びつきから、人と人との交流が心地よく、常に日本滞在を楽しんでいます。

「第7回太平洋・島サミット」の記者会見を終え、安倍晋三首相(右)と握手するレメンゲサウ大統領=2015年5月23日、福島県いわき市(時事)

野嶋

 天皇陛下が来年退位されることになりました。天皇陛下は皇后陛下と共にパラオを慰霊のために訪れていますね。

大統領

 第1に、天皇陛下が、日本、パラオ、そして世界の海洋環境と生物多様性の保護に対して大きく貢献していることに深い敬意を覚えます。彼は特に魚類に対して非常に鋭い見識を持っておられる。彼のパラオ訪問は、パラオ・日本関係における素晴らしい瞬間でした。天皇皇后両陛下との交流の時間は、パラオの人々にとっても誇りと喜びであり、日本との特別な友人関係を象徴するものです。

パラオで多くの人が天皇陛下と握手を交わしました。日本でも、そこまで近づくことは大変難しいと聞いています。パラオで歓迎会が開かれた時、陛下は参加者やパフォーマーたちと一人ずつ握手してくれました。皆が「私、本当に天皇陛下と握手したの?」と感激していました。

彼の訪問によって、日本の方々がパラオにより注目し、日本からのツーリストも増えました。天皇が訪れたのと同じ場所に訪れたいという波及効果を生んでいます。戦争を二度と起してはならないという天皇陛下のメッセージは明確です。天皇陛下には引き続きご活躍してほしいところですが、お身体を休め、ご家族とゆっくり過ごされることも大切でしょう。

海洋警備、安全保障で日米と協力

野嶋

 海洋安全の問題に関する日本とパラオとの協力についてお尋ねします。このほど、日本財団から40メートル型の新造の最新型巡視船が無償供与され、運用開始にあたってセレモニーが2月13日に行われます。この巡視船がパラオの海洋警備に与えるインパクトはどのようなものでしょうか。

大統領

 巡視船の供与はパラオ・日本の特別な関係を示すものです。日本の民間団体が、われわれの海事警察部門と密接に協力し、パラオ人の未来の豊かな生活の実現にかかわる海の安全や海洋環境の保護を支援しているのです。

新たに提供される巡視船は、パラオの広大な排他的経済水域(EEZ)を守る力を強化するでしょう。パラオの陸地は、EEZの広さの1%に過ぎません。われわれの海上警備能力は限定的であり、外からの支援が必要です。豊かなパラオの海は、常に密漁者や違法操業に悩まされています。今後は、今回、日本で製造され、最高水準のテクノロジーを有した新しい巡視船は、監視モニタリングや海洋警察の取り締まりに大きな効果を生むはずです。

野嶋

 パラオの位置は、いわゆる「第二列島線」の南端に位置しているうえ、北朝鮮のミサイルの標的になっているグアムにも近い。パラオの地政学的な重要性がいま注目され、日米もパラオとの関係強化を重視しているようです。

大統領

 今回の北朝鮮をめぐる危機は、太平洋諸国の中でもグアムや日本に近い国々の安全保障に明らかな影響を及ぼし、懸念される状況を生んでいます。われわれは、われわれのなすべきことを行います。軍事面では米国と深い関係があり、米国は戦略的な理由があればわれわれの領土の利用が可能です。すでにパラオは米国と協力して、海と空の監視システム(レーダーサイト)の導入に動き始めています。これはパラオ周辺の海洋における違法操業の問題に加えて、密輸や違法な物資の運搬を防ぎ、海の安全を守っていく戦略的な意味を持っています。

野嶋

 昨年、米国のトランプ政権が米国とパラオの自由連合盟約(コンパクト)の延長のための改定に付随するパラオへの予算措置の法案を議会に送りました。コンパクトはパラオの軍事に関する権限を米国に預けるかわりに、予算補助をパラオが米国から受け取ります。共和党のトランプ政権は、太平洋地域の安全保障問題については民主党のオバマ政権時代よりも重視しているように見えます。

大統領

 コンパクトの改定がパラオと米国との間で2010年に合意されたにもかかわらず、予算措置がなかなか前に進まず、パラオにとっても非常にフラストレーションがたまる事態でしたが、議会に予算案が提案されたことは喜ばしいことです。

台湾との外交関係は安定

野嶋

 パラオと台湾は1999年に国交を結んでいます。しかし、中国から国交の樹立を求める外交圧力があることは周知の事実です。これは、パラオだけの問題ではなく、世界中の台湾と外交関係がある国に起きていることでありますが、この点について大統領はどう考えますか。

大統領

 パラオと台湾の国交は、ナカムラ大統領の時代に結ばれて以来、堅固で安定しています。もしも可能であれば、台湾と中国の両方とも外交承認したいものです。なぜなら、台湾も中国も私たちの敵ではないからです。しかし、「一つの中国」という問題については、台湾にとっても中国にとっても厳格に運用されていることを理解しなければなりません。

ただ、台湾との外交関係は中国を敵とするものではなく、われわれは中国とも協力関係を維持しています。パラオは国連のメンバーですが、中国は安全保障理事会の常任理事国であり、世界の安定に安保理の役割は非常に重要です。私たちは中国とも貿易・経済関係を促進させ、長期的なパートナーになろうと考えています。

パラオの新首都マルキョクに台湾の援助で建設された豪華な新政府ビル。馬英九前総統の署名がある。(野嶋写す)

野嶋

 台湾との外交関係を見直すつもりはないということですか?

大統領

 そのつもりはありません。確かに、パラオにはそう期待する人もおり、そうした主張を行っている政治家もいます。しかし、すでに私が述べたように、台湾との外交関係は安定しています。

野嶋

 中国との経済貿易協定についてはいかがでしょうか。昨年パラオの議会で締結を求める法案が提出され、5対5で辛うじて否決されました。一方で中国人観光客については、急増ぶりが話題になっています。

大統領

 全ての外国の訪問者にホスピタリティーをもって接すること、これがわが国の基本的なスタンスです。わが国にとって、観光業は貴重で主要な収入源でもあります。同時に、われわれは、大切な大自然を守らないといけない。あまりに急激な観光客の増加は、大自然に影響を及ぼします。われわれの願いと目標は、観光客の数量をバランスよく伸ばすことです。パラオにとっては、多様な国々から観光客を迎えることが望ましい。そうすることで、仮にあるマーケット(国)が減少しても、全体の観光市場はクラッシュしません。

香港などを経由してパラオを訪れる中国からの旅行者については、パッケージツアーの過剰な増加がわれわれの予想を超えた形で進みました。一つの国の観光客でホテルの部屋の予約で埋まることは、パラオの観光業に対し、長い目でみてプラスになりません。原則は、バランスをとることです。そのため、香港経由のパラオへのフライトを半減させました。

中心都市コロールの海岸とホテル。美しい景観と透明な海を求め、外国からの訪問客が増えている=2014年12月

フライトの減少により、中国の観光客は減りました。その結果、日本や台湾、韓国、欧州からの観光客とのバランスが取り戻され、過去の状況に戻りつつあります。地元のメディアは観光客が減っていると報じますが、それこそが私たちの意図するところなのです。

我々は、(外国人訪問客の)人数は必ずしも収入や税収には直結しないことを学びました。クオリティ・ツーリズムと言いましょうか、パッケージよりも自由旅行者の強化により注力することが大切です。観光客数は昨年減りましたが、観光関係の税収はかえって増えています。これはよい兆候です。量より質が大事だということを人々は分かってくれるはずです。

(インタビューは2018年1月18日、コロールの大統領オフィスで行った)

バナー写真:インタビューを受けるパラオのトミー・レメンゲサウ大統領

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