福島、元気です!

「福島」を自分の目で確かめ、新たな発見をしたい——「福島、元気?」企画者・陳昱築さん

社会

2017年11月、台湾で若者を中心企画展示された「福島、元気?」について、プロジェクト企画者で、Impact Hub Taipei社会影響力製造所代表の陳昱築さんに話を聞いた。

陳昱築 Rich CHEN

Impact Hub Taipei社会影響力製造所の創設者兼執行長。CreativeMornings Taipeiなどの共同MCでもある。大学では日本語と国際関係の2つの学位を取得。Impact Hub Taipeiを創設する以前、メドトロニック社でセールスマネージャーとして3年間従事。物事を思考するのが好きで、それを実際に生み出し、新しいものや変化を求めて持続可能な発展を目指す。また、自分の情熱で社会の多くの人々に影響を与えたいと望んでいる。

台湾の若者たちが、東日本大震災の後に発生した東京電力福島第一原発事故で大きな痛手を負った福島県の各地を現地取材した写真と映像の展示会を2017年11月、台北で開いた。

福島など周辺5県からの食品輸入規制は、世論の反対が根強く、まだ解禁されていない。その中で、なぜ、彼らはあえて自ら福島に足を運んで福島の状況を伝えようと考えたのか。

彼らは自分たちの行動を「福島、元気?」プロジェクトと名付けた。台湾でまちづくりや障害者問題、自然農法などに取り組む6団体のメンバーが17年8月、福島県に行き、1週間かけて各地の住民グループや農場、学校、高齢者施設などを取材した。

展示会は、若者に人気がある台北の文化商業施設「華山1914文創園区」で行われた。流された映像は全7本。それぞれの得意分野に応じて、農業や教育、伝統工芸などに取り組む人々の姿を各10~15分にまとめている。

その「福島、元気?」プロジェクトを立ち上げた陳昱築さんに台北で話を聞いた。

「福島」を自分の目で確かめ、客観的に語りたい

野嶋  「福島、元気?」の反響はかなり良かったようですね。

陳昱築さん  われわれもびっくりしています。日本人の方が多く駆けつけてくれて、涙を流して見てくれて、われわれに「ありがとう」と何度もお礼を言いながら帰る方々が多かったことには、二重に驚きました。これは本当に予想していませんでした。日本のメディアも、NHKも含めて、多くのメディアが取り上げてくれました。

野嶋  展示会はどのぐらいの観客動員でしたか?

陳さん  展示会は11月24日から始まり、その日は午後だけで1400人が集まりました。その次の日曜日の26日は、4000人が来てくれました。合計で1万3000人です。華山1914文創園区という場所も良かったのでしょう。ネットで盛んに宣伝して、日本に興味がある人、日本に行ったことがある人、福島に関心がある人が集まってくれたのだと思います。

アンケートへの反響も9割ぐらいは良いものでした。「本当の福島の状況が分かった」「福島を自分の問題として考えることができた」などの声がアンケートで寄せられました。もちろんマイナスの意見もありました。「日本政府のためにやっているのか」とか「食品の輸入を進めようとするのか」といった意見ですが、ごく少数でした。

野嶋  なぜ、このプロジェクトを立ち上げようと考えましたか?

陳さん  私は、台湾大学で日本語を学んだのですが、当時は台日学生交流会議を立ち上げて、日本の学生たちと交流していました。しかし、大学を卒業した後はしばらく日本との交流を離れていました。最近、自分で独立して起業したので、自分でも何かもう一度、台日交流について何かやってみたいと考えたのです。

台湾ではとにかく福島に対して、マイナスの報道が多く、情報が偏っているため、福島そのものに対する恐れや不安がとても強くなっていました。しかし、メディアですら、あまり実際に福島に出掛けて実情を伝えていませんでした。私たちは自分の目で確かめてみて、客観的に語ってみたいと思ったのです。できるだけ中立な形で「福島」を考えてもらうことを心掛けました。

専門家らが自ら情報を発信

野嶋  みなさん若者たちで、どんな人たちが日本に行ったのですか?

陳さん  6つの民間非政府組織(NGO)に声を掛けて、一緒に行きました。「教育」「地域づくり」「農業」などに取り組んでいる組織で、それぞれの分野のエキスパートを抱えています。彼らの仕事は普段は日本とは直接関係がないけれど、テーマについては専門家であり、独自のソーシャルネットワークグループの人々を持っています。彼らには、自分たちのグループにそれぞれ情報発信をしてもらうことを狙いました。

福島を訪問したのは2017年の8月21日から28日までです。寒い時期は台湾人が耐えられないので、夏を狙っていきました(笑)。訪問者は全部で38人です。各団体からは3人ずつ参加してもらい、うち1人は撮影担当で、それぞれにドキュメンタリーを作ってもらったのです。

野嶋  費用はどうしましたか?

陳さん  ファンディング(募金)を呼び掛けました。それから企業や公益団体にも声を掛けました。基本は全て民間の資金だけでやってみました。終わったら全部使い切ってしまいました。これから日本での展示も3月11日に合わせてやりたく、準備を始めようと思っています。

野嶋  このプロジェクトに参加した若者たちの反応はいかがでしたか?

陳さん  最初はみんな怖がっていました。でも農家を訪ねて、どのように作られているのか、どのように検査しているのか、それを見せてもらいながら農家の人たちの説明を受けました。農家の人たちがどれだけ安全を心掛けているか、もし検査でおかしな数値が出たら、農家の人たちも大変なことになるという話には、納得させられました。また泊まった民宿では出される料理の全てに、どの農家が作ったか分かるようになっていたのにも驚かされました。

野嶋  台湾社会では「福島=怖い」というイメージですね。

陳さん  はい、そうなんです。しかし、日本も台湾もどちらも自然災害が多く、地震も頻繁に起きます。福島で起きたような複合的災害が一体どういうものなのか、そこからの復興がどのように進むのか、私たち台湾人は知っておかなくてはならない。学ぶためのそのいい具体例が福島だと思いました。とにかく、自分たちで見て、考える事が大切です。その上で、例えば食品についても、輸入するかどうか、自分たちで決めればいいのです。

野嶋  台湾で今も禁止されている福島県などの食品輸入について、陳さん個人としては、どのように思いますか?

陳さん

 先ほど申しましたように、最後は自分たちが決めればいいのです。ですけれども決定権のある政治家や反対運動の人たちも福島を訪れていない。今、台湾では福島の食品問題は完全に政治的に操作される問題になっています。それは残念なことです。その状況を変えたいという思いがあります。
バナー写真撮影=野嶋 剛
動画制作及び提供=Impact Hub Taipei社会影響力製造所

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