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シリーズ 現代ニッポンの結婚事情
シリーズ・現代ニッポンの結婚事情:(3)『逃げ恥』が提示した「仕事としての結婚」-作者・海野つなみさんインタビュー
[2018.11.02]

「結婚」を真正面から取り上げた漫画『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社刊)が、2017年のドラマ化(TBS系)をきっかけに大人気を博し、ブームとなったのは記憶に新しい。この作品が提示した新しい結婚の考え方とは何だったのか。人々にどのように作品は受け止められたのか。改めて、作者の海野つなみさんに聞いた。

なぜ「契約結婚」だったのか

『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)のヒロイン・森山みくりは、大学院卒で臨床心理士資格をもつ高スペック人材だが就職に失敗、派遣社員として働いていたもののあっけなく派遣切りに遭って失職し、途方に暮れる25歳の女性だ。背景には2012年の就職氷河期があり、さらには日本の大手企業のかたくななまでの新卒採用主義も、みくりを追い込んだ要因だろう。その不安定な社会的ポジションは、現代日本の女性労働者のサンプルのようになっている。

なんとか父親のつてで家事代行の職にありつくことができ、その”雇用主”として津崎平匡(ひらまさ)と出会う。京都大学卒のシステムエンジニアという最先端の人種だが、36歳童貞。感情をあまり表に出さず、他人からの必要以上の干渉をよしとせず、システマティックな思考をもつ「プロの独身」。こちらもいまどきの日本にありがちなキャラクターだ。

生来の工夫好きと勤勉さで、順調に平匡との信頼関係を築いていたみくりだが、家庭の都合で通いから住み込み勤務にシフトチェンジせざるを得なくなった。そこでみくりが提案したのは、「契約結婚」だった。二人で相談して、事実婚で戸籍はそのまま、ベッドも別だけれど、雇用主(夫)が、炊事や洗濯・掃除といった被雇用者(妻)の仕事にきちんと対価(ドラマでは月給19万4千円ほど)を払うことになった。そしてさまざまな出来事を経て、雇用主と被雇用者で始まった関係は、家庭の「共同最高経営責任者」に変化していく。

みくりが「契約結婚」を提案する場面(1巻47ページ) © 海野つなみ/講談社

海野さんはなぜこのような「契約結婚」を描こうと思ったのだろうか。

「結婚は恋愛として考えるより、仕事として考えたほうがうまくいくのではないかと思ったんです。恋愛だと、お互いに相手に対する期待があり、知らないうちに社会から背負わされたそれぞれの役割を演じないといけない。そのため、相手が言わないことまでやらなきゃいけないし、やりすぎたら怒られる。それでもお互い余計なことを言って嫌われたくないから、なかなか話し合いができない。でも仕事だと思えば、ビジネスライクに言えますよね。また、多くの人が大恋愛して結婚するのが素晴らしいと思わされているけれど、そうでしょうか? 例えば親友は、学校でたまたま出席番号が近かった子だったのが、仲良くなって気がついたら30年も付き合っていた、ということもあると思います。結婚も生理的に嫌じゃなくて、気が合って、一緒に暮らしていてある種の愛情が芽生えるなら、それはとても素敵だと思う。そのほうが選択肢も広がります。そう思って『逃げ恥』を描いたら、男性からも女性からも、こういう結婚ならしたいという声が多かったんです」

「愛情の搾取」に違和感も

「契約結婚」とはいえ、みくりは父親の紹介で平匡と出会うので、そのあたりは昔のお見合い結婚のようでもある。そのため海野さんのところには、ドラマを観た80代の女性からもこんな声が届いたという。

「『私たちが結婚した頃みたい』という感想をいただいたことがあります。二人がきちんと敬語で話してお互いに礼儀正しいので、そういう関係が自分たちの若い頃と似ていると。たしかに、スタート時点で恋愛が介在していないところはお見合いと同じだと思います。でもドラマで、平匡がリストラに遭い、みくりにプロポーズした場面で、みくりがその理由を『結婚すれば、みくりの家事に賃金を払わずに済む』ということだと受け取り、『愛があれば何だってできるだろって、そんなことでいいんでしょうか。愛情の搾取に断固反対します』と言う場面がありました。年配の女性の中には、その『愛情の搾取』という言葉には違和感を持った方もいたようです。『なんでこの子はお金がもらえないとイヤだとか、がめついことを言い出すの? 私たちは文句も言わずにやってきたのに』と。年配の方だけでなく、若い専業主婦の方でも、『私たち夫婦はうまくやっているのに、こんなことを言い出すのはがめつくない?』と言う人もいました。もちろん逆に、このシーンを『待ってました!』と言う女性もいましたが」

尽くすことに見返りを求めるのは、はしたないという時代もあった。いまもそういう風潮がないわけではない。

「家事や育児は全部一人でするのが美徳とされているところが、まだありますよね。海外で一般的なベビーシッターやお手伝いさんのように、外注するようになればいいのにと思います。もっと他人の手を借りてもいいと思います」

ワンオペ(ワンオペレーション)は、一人ですべての作業をすることで、ファストフードの深夜シフトなど、ブラックな労働環境を指す。しかしそれが、家庭においては美徳となってしまう。結婚を「仕事」と捉えると、そのおかしさが見えてくる。

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  • [2018.11.02]
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