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グローバルJAPAN -2050年 シミュレーションと総合戦略-

経済・ビジネス

経団連21世紀政策研究所では、レポート「グローバルJAPAN-2050年シミュレーションと総合戦略-」を取りまとめ、4月16日に公表した。

プロジェクトの狙い

先進国から脱落の危機に立つ日本

わが国は、名目GDPがおよそ20年前の水準に止まるという「成長なき経済」に陥っている。政府債務はGDP比約200%に達し、財政や社会保障が危機に瀕している。2011年3月には、未曾有の東日本大震災に見舞われ、長期的なエネルギー制約の問題も浮上した。このような状況下で、わが国は本格的な人口減少社会に突入する。世界最速での少子高齢化・人口減少の進行は、経済社会全体に甚大な影響を及ぼす。このままでは先進国としての地位から転落し、極東の一小国に逆戻りしかねない恐れすらある。わが国は、人口減少、超高齢社会への対応、成長力強化、財政・社会保障改革などの多くの国が抱える課題に直面するいわゆる「課題先進国」と言える。

危機克服のチャンスは目の前にある

21世紀はアジア太平洋の世紀と言われる。とりわけ巨大な人口を有する中国は、今後も高い成長を続ける。米国も、先進国としては異例の人口増と経済社会のダイナミズムを維持し続ける。こうした中、わが国はいかにして経済社会の活力を維持し、豊かな国民生活を実現していくかが問われている。他方で、わが国がアジア太平洋地域の中心という絶好のポジションにあることも確かである。まずはわが国が置かれた状況を虚心坦懐に直視し、山積する諸課題の解決に国を挙げて取り組む必要がある。一人ひとりが「がんばる」ことのできる環境を作り、アジア太平洋地域の活力を取り込むことは不可欠である。これらにより、子子孫孫に課題を先送りせず、豊かで魅力ある日本を引き継いでゆかねばならない。

今や議論ではなく、実行を

このような問題意識に立ち、21世紀政策研究所では、2050年の世界経済・日本財政のシミュレーションを行うとともに、わが国が取り組まねばならない課題を明らかにし、広く問題提起を行うこととした。経済・産業・雇用、税・財政・社会保障、外交・安全保障の各分野において、各界の有識者との議論等を精力的に行い、報告書として取りまとめた。強い日本を創ることは、政治に課せられた責任である。しかるに、わが国では政治が混迷している。政治のリーダーには、この報告書を真摯に受け止め政策を前進させることを強く期待している。

世界経済シミュレーションの前提

まず、2050年に向けて日本の取り組むべき課題の前提として、2050年に向けた世界経済・日本財政のシミュレーションを実施した。世界経済シミュレーションは、2050年までという長期間について世界50カ国の経済予測を行うため、為替レートの変動を考慮しつつ、供給サイド(1.労働=人口、2.資本=投資、3.生産性)から潜在成長率を推計したものである。

この供給サイドの前提を一つずつ見てみる。まず第1に労働=人口については、日本は世界最速で少子高齢化が進行、総人口は2050年に1億人割れとなり、2050年には65歳以上が全体の38.8%となる。労働力人口は2,152万人減少、4,438万人となり、総人口以上にその減少のペースは速い。

日本の総人口予測(単位:千人、%)

  2010年 2020年 2030年 2040年 2050年
日本の総人口 128,057 124,100 116,618 107,276 97,076
    2011-20 2021-30 2031-40 2041-50
年平均伸率   ▲0.31 ▲0.62 ▲0.83 ▲0.99

(資料)社会保障・人口問題研究所中位推計(2012)

日本の労働力人口予測(単位:千人、%)

  2010年 2020年 2030年 2040年 2050年
日本の労働力人口 65,904 61,775 57,227 50,334 44,380
    2011-20 2021-30 2031-40 2041-50
年平均伸率   ▲0.65 ▲0.76 ▲1.27 ▲1.25

(資料)社会保障・人口問題研究所中位推計(2012)

第2に、資本ストックについては、高齢化とともに貯蓄の減少=投資が減少し、資本蓄積が鈍化することとなる。第3に生産性については、最も基本的なケースでは、先進国の生産性上昇率が、先進国の2000年代の平均である1.2%に収束することとした。

以上が基本的な前提となっているが、日本経済については、4つのシナリオを設定した。

  1. 「基本1」は生産性上昇率が先進国平均並みの1.2%(GDP成長率0.8%相当)に回復する
  2. 「基本2」は、失われた20年が継続、すなわち生産性上昇率が2050年まで、1991年から2010年の平均値である0.5%(GDP成長率0.3%相当)に留まる
  3. 「悲観シナリオ」は財政悪化による経済成長下振れを想定し、基本シナリオ1からGDP成長率1%ポイント低下(生産性上昇率1.5%ポイント相当)と想定した(※1)
  4. 「労働力率改善シナリオ」は女性労働力率がスウェーデン並みに向上することを想定したものである(例:40-44才女性労働力率 2020年72.5%→2040年90.5%)

日本経済のシナリオ別生産性上昇率(カッコ内はGDP成長率に換算した値)

  2011-20年 2021-30年 2031-40年 2041-50年
基本1(生産性上昇率が先進国平均並み) 1.05%(0.7%) 1.15%(0.8%) 1.2%(0.8%) 1.2%(0.8%)
基本2(「失われた20年継続」) 0.5%(0.3%) 0.5%(0.3%) 0.5%(0.3%) 0.5%(0.3%)
悲観(財政悪化による成長率下振れ) ▲0.45%(▲0.3%) ▲0.35%(▲0.2%) ▲0.3%(▲0.2%) ▲0.3%(▲0.2%)
労働力改善 1.05%(0.7%) 1.15%(0.8%) 1.2%(0.8%) 1.2%(0.8%)

なお、本シミュレーションで使用している為替レートは、2005年基準購買力平価(PPP)レートをベースに、一人当たりGDPの伸びとPPPレート/市場レートの相関関係を加味して変動させている。例えば、05年の中国の市場レートとPPPレートは0.42倍の開き(一人当たりGDPは市場レート換算で1,731ドルに対してPPP換算で4,115ドル)があるが、実際には豊かになるにつれ、市場レートとPPPレートの差が縮まる傾向にある(シミュレーション上、2050年には0.68倍となる)。

世界経済シミュレーションの結果

GDP-2030年代以降マイナス成長の可能性

まず、日本のGDP成長率についてみてみると、生産性が回復しても少子高齢化の影響が大きく、どのシナリオでも2030年代以降の成長率はマイナスとなる。万が一財政破綻が生じれば、恒常的にマイナス成長の恐れがある。また、GDP成長率の寄与度分析をみると、日本は人口減少の影響を甚大に被り、中長期的に労働・資本の2要素により、成長率の下押し圧力に恒常的にさらされることが分かる。GDPの実額を見てみると、2050年には中国、米国、次いでインドが世界超大国の座に位置することとなる。日本のGDPは2010年規模を下回り、世界第4位(基本シナリオ1)も、中国・米国の1/6、インドの1/3以下の規模となり、存在感は著しく低下する。

日本のGDP成長率

 

日本のGDP成長率の寄与度分析(単位:%)

    2011-20年 2021-30年 2031-40年 2041-50年 2011-50年
基本1 日本のGDP年平均成長率 0.43 0.28 ▲0.30 ▲0.47 ▲0.02
労働人口寄与度
基本寄与度
生産性寄与度
▲ 0.43
0.20
0.70
▲0.51
0.14
0.77
▲0.86
▲0.35
0.80
▲0.84
▲0.57
0.80
▲0.66
▲0.14
0.77
基本2 日本のGDP年平均成長率 0.17 0.03 ▲0.69 ▲0.86 ▲0.35
労働人口寄与度
基本寄与度
生産性寄与度
▲0.43
0.20
0.33
▲0.51
0.14
0.33
▲0.86
▲0.43
0.33
▲0.84
▲0.66
0.33
▲0.66
▲0.19
0.33
悲観 日本のGDP年平均成長率 ▲0.28 ▲0.43 ▲1.14 ▲1.32 ▲0.80
労働力改善 日本のGDP年平均成長率 0.43 0.41 ▲0.17 ▲0.46 0.05
労働人口寄与度
基本寄与度
生産性寄与度
▲ 0.43
0.20
0.70
▲0.33
0.14
0.77
▲0.69
▲0.33
0.80
▲0.85
▲0.55
0.80
▲0.58
▲0.13
0.77

 

GDP世界ランキング(単位:10億PPPドル、カッコ内は日本を1とした相対比)

  2010年GDP 2050年GDP
基本シナリオ1 基本シナリオ2 悲観シナリオ 労働力改善シナリオ
1 米国
13,800
(3.38)
中国
24,497
(6.04)
中国
24,497
(6.91)
中国
24,497
(8.24)
中国
24,497
(5.87)
2 中国
7,996
(1.96)
米国
24,004
(5.92)
米国
24,004
(6.77)
米国
24,004
(8.08)
米国
24,004
(5.75)
3 日本
4,085
(1.00)
インド
14,406
(3.55)
インド
14,406
(4.06)
インド
14,406
(4.85)
インド
14,406
(3.45)
4 インド
3,493
(0.86)
日本
4,057
(1.00)
ブラジル
3,841
(1.08)
ブラジル
3,841
(1.29)
日本
4.171
(1.00)
5 ドイツ
2,800
(0.69)
ブラジル
3,841
(0.95)
日本
3,546
(1.00)
ロシア
3,466
(1.17)
ブラジル
3,841
(0.92)
6 イギリス
2,087
(0.51)
ロシア
3,466
(0.85)
ロシア
3,466
(0.98)
イギリス
3,229
(1.09)
ロシア
3,466
(0.83)
7 フランス
2,025
(0.50)
イギリス
3,229
(0.80)
イギリス
3,229
(0.91)
ドイツ
3,080
(1.04)
イギリス
3,229
(0.77)
8 ロシア
1,941
(0.48)
ドイツ
3,080
(0.76)
ドイツ
3,080
(0.87)
フランス
3,022
(1.02)
ドイツ
3,080
(0.74)
ブラジル
1,897
(0.46)
フランス
3,022
(0.75)
フランス
3,022
(0.85)
日本
2,972
(1.00)
フランス
3,022
(0.72)
10 イタリア
1,708
(0.42)
インドネシア
2,687
(0.66)
インドネシア
2,687
(0.76)
インドネシア
2,687
(0.90)
インドネシア
2,687
(0.64)

 ※日本経済4つのシナリオのほか、新興国悲観シナリオならびに欧州悲観シナリオを作成

 一人当たりGDPー韓国に抜かれる可能性

日本財政シミュレーションの前提・結果

2050年に向けた日本財政について、2023年度までは内閣府の中長期試算の成長率等、2024年度以降は前出の世界経済シミュレーションの成長率等を前提として、シミュレーションを実施した。その結果、2015年度までに消費税率を10%に引き上げても、その後2050年までさらなる収支改善を実施しなければ2050年の政府債務残高は対GDP比約600%まで発散することとなる。なお、これは国債発行余力を考慮しない機械的試算である。政府方針である2020年度以降の債務残高安定化のためには、さらに2016年度以降10年間にわたり毎年GDP比1%(2011年価格で5兆円規模)、計9.5%の収支改善が必要(仮に消費税率のみにより同様の目標を達成するために必要な引き上げ幅を機械的に計算すると、24.7%ポイントの引き上げに相当)である。ただし、歳出削減や他の税で対応すれば消費税率引き上げ幅は抑制可能である。

2050年の世界に影響を与える基本的変化

2050年の世界に影響を与える基本的変化として、以下4点挙げられる。

(1)世界の人口増

(2)グローバリゼーションとITのさらなる深化

(3)中国を含むアジアの世紀の到来

(4)資源需給の逼迫

まず、(1)世界の人口増については、世界の総人口が2010年の約70億人から2050年には90億人を突破する。(2)グローバリゼーションとITのさらなる深化については、国際的相互依存が深まりリーマンショックや東日本大震災によるサプライチェーンへの影響など特定国のショックがグローバルに伝播する時代となる、高度スキルの人材が重視されるようになり格差拡大の要因にもなり得るといった影響がある。(3)中国を含むアジアの世紀の到来については、中国は2025年に米国を追い抜き世界最大の経済大国になる、ただし政治リスク、中進国の罠等のリスクもある。(4)資源需給の逼迫については、エネルギー資源、食糧・水資源の需給逼迫が顕在化することとなる。

2050年時点で日本の65歳以上は全体の38.8%、75歳以上は24.6%と割合が倍以上に。アジアが成長を持続出来れば2050年に世界のGDPの半分まで拡大、中進国の罠に陥ると成長は限定的。

論点と提言

世界経済・日本財政のシミュレーション結果、ならびに2050年の世界に与える基本的変化を踏まえ、日本が豊かで誇りある国家として存立していくために取り組むべき課題、長期ビジョンを以下の通り示している。

(1)人材:切磋琢磨を通じて成長を目指す「全員参加型」「一億総努力」社会の確立

資源のない日本を成長させるカギは究極的には「人材力」である。仕事か育児かの選択、定年後は悠々自適といった20世紀型概念を根本から改め、若者、女性、高齢者、外国人はじめ誰もが「がんばり」「働く」ことのできる環境を早急に整えることが必要となる。シミュレーション結果の通り、少子高齢化による労働力の減少は経済に甚大な影響を及ぼす。この労働力減少の影響を最低限に留めるために、女性・高齢者を問わず、人材を最大限活用しなければならない。生産性向上の観点でも、新たなイノベーションを産む高度な人材の育成は必須である。

提言1 女性と高齢者の労働参加、生涯を通した人材力強化を促進せよ、海外高度人材を受け入れよ

提言2 環境変化に対応した新たな人材を育成せよ、若者が「がんばる」ことのできる環境を整備せよ

提言3 教育現場の創意工夫と公的支援強化で抜本的教育改革を実施せよ、大学秋入学も有効に活用を

(2)経済・産業:アジア太平洋の活力取り込みと日本経済の成長力強化

シミュレーション結果の通り、人口減少のインパクトは甚大である。日本が成長するためには、成長するアジアの活力を取り込むとともに飛躍的な生産性向上努力が必要となる。具体的には、高齢化に伴う資本蓄積の鈍化の影響を和らげるため、海外からの投資を受け入れる必要がある。また、需要を拡大するため、TPPは推進、アジアの成長を内需とするような取組みが必要である。併せて生産性向上のため、日本の強みを活かした成長フロンティアを開拓すべきである。

提言4 TPPは進め、中国などアジア新興国の成長を取り込め、投資対象国として魅力を高めよ

提言5 「洗練性」等日本の強みを活かした成長フロンティアを開拓せよ

提言6 「ポスト3.11」のエネルギー制約を総合的・漸進的・効率的の3原則を踏まえ解決せよ

(3)税・財政・社会保障:先送りはやめよう、財政健全化・社会保障制度改革は待ったなし

シミュレーションの「悲観シナリオ」(財政悪化に伴う成長率下振れ)を日本が辿ることなきよう、速やかな財政健全化が必須である。経済成長と両立し得る税制、持続可能な社会保障制度、高齢社会に対応した社会システムの構築、格差是正に早急に取組む必要がある。

提言7 財政健全化は先送りせず政府方針を守れ、消費税は引上げ、給付付き税額控除で再分配強化を

提言8 若者の信頼を回復し、安心で持続可能な社会保障制度を確立せよ

提言9 高齢社会に対応した社会システムに地域主体で変革せよ、元気な高齢者を社会の支え手とせよ

提言10 所得格差・貧困問題は就業促進と所得再分配で緩和せよ

提言11 国と地方の役割分担を見直せ、地方を広域行政体に再編せよ、より自律的な地方行財政運営を

(4)外交・安全保障:日米関係を基軸とした国際秩序形成とアジア太平洋の繁栄への積極的関与

2050年の日本は、GDP規模6倍の二大超大国(米国・中国)に挟まれることになる。その中で、「自助」と「共助」により安全保障環境を確保しつつ、アジア太平洋の安定と繁栄を主導していく必要がある。

提言12 グローバル・ガバナンス-「ルールに基づいた開かれた国際秩序」に新興国を取込み維持せよ

提言13 リージョナル・ガバナンス-「安定し、繁栄するアジア」を強化せよ

提言14 ナショナル・ガバナンス-日本は「自助」と「共助」で安全保障を確保せよ

(※1) ^ Reinhart & Rogoff, "Growth in a Time of Debt," American Economic Review : Papers & Proceedings 100, 2010, p.573-578 によれば、債務残高GDP比率が90%以上の国は経済成長率が1%ポイント程度低下することを踏まえ、相当分の生産性上昇率を引き下げたもの

OECD データ