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リニア新幹線が描く日本の未来図

経済・ビジネス

21世紀の夢の巨大プロジェクトが本格的に動き出す。JR東海が東京―名古屋間を40分でつなぐリニア中央新幹線計画で、走行ルートや中間駅の場所などを発表した。2014年度中には着工し、2027年開業をめざす。

東京―名古屋を40分、86%がトンネルの中

建設・営業主体となるJR東海は2013年9月18日、東京(品川)―名古屋間で2027年の開業を目指すリニア中央新幹線計画の詳細な走行ルートや中間駅の位置などを発表した。関係自治体の誘致合戦の末、最終決定したルートはほぼ一直線となり、総延長286kmの86%はトンネルの中を走る。来年度中には着工し、開業後は東京―名古屋間を40分でつなぐ。さらに2045年には、大阪までの全線が開通、東京―大阪間(438km)を最短67分で結ぶ計画だ。

リニア新幹線は、超電導磁気浮上式リニアモーターカー(超電導リニア)で走る鉄道。車体に搭載した磁石と走行路に取り付けた磁石の間に生じる磁力で車体を10cm浮上させ、超高速で走行する仕組み。最高設計速度は時速505km。1964年の東京オリンピック開催を機に開業した東海道新幹線が、20世紀後半の日本経済を支える社会基盤となったように、リニア中央新幹線は21世紀の日本の新たな鉄道インフラとなる可能性がある。

安倍首相もニューヨークでさっそくPR

国連総会出席のため訪米した安倍晋三首相は9月25日、ニューヨーク証券取引所で講演した際、アベノミクスの成長戦略を披露するとともに、さっそくこの超電導リニア技術に触れ、「この技術を活用すれば、ニューヨークとワシントンは1時間以内で結ばれる」と日本の技術力をアピールした。

しかし、リニア中央新幹線の開業は今から14年後と先の長い話である。日本社会にどのようなインパクトをもたらすのか、経済効果も未知数で、実現までには課題も少なくない。

JR東海など関係機関や自治体にとって、巨額の整備費用が一段と増える可能性がある。開業後の採算性や、環境への影響評価なども気になるところだ。名古屋のみならず、神奈川県相模原市、山梨県甲府市、長野県飯田市、岐阜県中津川市の各停車駅(予定地)周辺を含め、地域にどのような変化をもたらすのか。東京―名古屋間の人の移動がどう変わるのか。競合する航空業界などへの影響はどうか。確かな未来図は描きにくい。

河村たかし名古屋市長は「ひょっとしたら(名古屋にとって)どえらい危機になるかもしれない。名古屋市民が40分で東京に行き、歌舞伎を見て帰ってくるようになる」と感想を漏らした。専門家やシンクタンクの今後の予測や調査が注目される。

島国ニッポンはさらに狭くなる

1973年に「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」という言葉がはやった。交通安全運動の標語だったが、このフレーズは一般論として、現在も使えそうだ。今や既存の新幹線「のぞみ」でも東京―名古屋間は1時間40分、東京―大阪間は2時間30分である。リニアではそれがさらに半分以下に短縮される。島国ニッポンは時間的にさらに狭くなる。

その一方で、日本の総人口は今後も減少を続け、21世紀半ばには1億人を割り込む見通しだ。リニアで東京―名古屋を40分で行けるようになっても利用者がどれだけいるのか。さらに、リニア効果で東京一極集中が進む可能性を指摘する声もある。運用面でも緊急時にはどう停車するのか。首都直下型地震や東海地震など自然災害への備えは万全なのか…。

半世紀を超える研究開発の成果

リニアへの期待と不安が混在する中で、総額9兆円にも達する巨額の建設費を自前で負担するJR東海は、リニア新幹線建設の意義を力説する。“ドル箱路線”である東海道新幹線が既に過密ダイヤで、これ以上の本数増加などは難しい。大地震など災害で東海道新幹線が寸断し、マヒ状態になった時には、東京―名古屋―大阪の大動脈をつなぐ代替路線が必要である、と。

そもそもリニアモーターカー開発計画は、1962年(東海道新幹線開業の2年前)から旧国鉄の技術陣によって研究が始まった。1972年には有人浮上走行に成功し、1979年には最高速度の時速517km(世界最高速)を達成した。その後も山梨県内の実験線で走行テストを続けてきた。21世紀を見据えた半世紀にわたる粘り強い開発努力がもたらした成果であることは見逃せない。

(バナー写真=JR東海提供)

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