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進化する自治体アンテナショップ

ふるさとの特産品を販売する「自治体アンテナショップ」が進化を続けている。郷土の魅力をアピールするだけでなく、国際化にも対応し始めた。独自の存在感を増すアンテナショップの最新事情を探った。

特産品の販売や地域情報PRの拠点に

アンテナショップ(antenna shop)は、外国人には耳慣れない和製英語である。企業の場合、消費者ニーズを探る目的で自社製品を展示・販売する店舗をいうが、いま脚光を浴びているのは都道府県や市町村のアンテナショップだ。東京や大阪、横浜、福岡など大都市に店を構え、店舗数は年々増えている。

特産品の展示・販売が中心だが、店によっては飲食コーナーやレストランを併設している。買い物客にとってはスーパーや量販店にはない地方の珍しい食材を購入でき、自治体側は地元の魅力を都会の人々にアピールできる。地域情報の発信や観光案内のPR拠点としての役割も担う。大都市で働く地方出身者にとっては、同郷人同士の交流の場にもなっている。

都内には1990年代前半から登場

一般財団法人地域活性化センターが実施した調査では、東京都内で営業する自治体アンテナショップは2014年4月現在、道府県と市町村を合わせて52店。同年中にさらに6店(5県2市)が出店した。都内へのアンテナショップ開設は、1991年に設置した東京都を除くと1994年の沖縄県、熊本県が最も早い。

他地域ではなかなか買えない「ご当地商品」が並ぶ(北海道フーディスト八重洲店で)

これらのアンテナショップの運営は、自治体が第3セクターや財団などに運営を委託したり、民間企業やNPOに委託したりするケースが多い。いずれも民間企業などが持つ営業ノウハウなどを活かして魅力的な店舗運営を行っている。他方、自治体とは一線を画し、地元企業などが独自に店舗展開しているケースも多い。

例えば、北海道のショップの場合、JR有楽町駅前にある「北海道どさんこプラザ」は道庁が母体となり民間企業に運営を委託し、有楽町のほか池袋、相模原市、名古屋市、仙台市にも出店している。これとは別に、道内の民間会社が「北海道フーディスト」「北海道うまいもの館」を都内に計9店舗を展開している。他の自治体でも同様なケースは多い。このため全国に広がる自治体アンテナショップの実数は不明だが、かなりの数に上るとみられる。

「ふるさとの魅力」を前面にアピール

アンテナショップの激戦地東京を見ると、出店は銀座・有楽町・日本橋地区に集中している。

ためしにJR東京駅八重洲口から有楽町周辺まで歩いてみると、アンテナショップの看板が幾つも目に入る。例えば、「北海道フーディスト」「福島県八重洲観光交流館」「茨城マルシェ」「まるごと高知」「銀座わしたショップ(沖縄県)」「コウノトリの恵み豊岡」「富山で『ごっつお』」「かごしま遊楽館」…と今や花盛りだ。

エイサーの衣装を着て沖縄県産水産物を試食販売する店員(銀座わしたショップで)

近年では、都心の一等地だけでなく、東京都市圏に多店舗展開するところも少なくない。コンビニやスーパーの店内に「特産品コーナー」などの形で開設する例もあり、多様な営業形態を見せている。また最近の円安効果や2020年東京オリンピック開催などを背景に、訪日外国人の増加が見込まれるため、外国人旅行者の需要を取り込もうと「免税店」の看板を掲げ、英語の堪能者を配置する店も現れている。

入館者数が年間100万人超の店も

地域活性化センターの調査によれば、都内のアンテナショップの来店者数は年間10万~50万人程度のところが多いが、北海道、沖縄県などのショップには年100万人を超える客が来店し、売上高も7億~10億円に上る。

自治体にとって、アンテナショップ開設の狙いは何か。▽特産品の販路拡大、▽観光案内や誘客、▽地域情報の発信・自治体のPR、▽消費者ニーズを探る市場調査、▽地元出身者との交流、▽マスコミへの地域情報発信――など、目的はさまざま。その効果は一律ではないが、単なる観光物産案内所にとどまらず、特産品販売や飲食サービスを通じて地域の魅力をPRする総合拠点となっている。

自治体アンテナショップ設立の目的

開設目的店数割合
自治体のPR 45 86・5%
特産品のPR 52 100%
特産品の販路拡大 42 80・8%
市場調査・消費者ニーズ 26 50%
観光案内・誘客 44 84・6%
地元出身者との交流 8 15・4%
地域間交流 9 17・3%
地域情報発信(マスコミ等) 43 82・7%
田舎暮らし・UJIターン 10 19・2%
企業誘致 2 3・8%
地元住民の意欲拡大 5 9・6%
その他 2 3・8%

(注)地域活性化センターの2014年度自治体アンテナショップ調査結果より。 N=52、重複回答

アンテナショップに国際化の波も

自治体の中にはアンテナショップを海外展開する例もある。四国4県は2009年、中国の上海市に共同でアンテナショップを開設。富裕層に照準を合わせた食材の販路開拓が狙いだ。北海道・東北8県も、香港に共同出店し、日本への観光客誘致にも取り組んでいる。新潟県は2012年にロシアのウラジオストク、翌13年にハバロフスクにショップを開いた。このほか北海道はシンガポールに、大分市は中国・武漢にアンテナショップを期間限定で開設するなど、海外展開は広がりを見せている。

その一方で、地域活性化センターは5~6年前から、外国人を対象にしたアンテナショップ視察・セミナー開催に取り組んでいる。これまで受け入れたのは、ケニアやナイジェリア、ウガンダなどのアフリカ諸国、マレーシア、パキスタン、フィジーなどアジア太平洋地域の国々などさまざまだ。同センターの畠田千鶴広報室長は「数年前は途上国からの視察が中心だったが、最近は米国、カナダ、オーストラリアやフィリピン、韓国からも視察に参加している」と指摘。自治体アンテナショップに対する海外の関心の高さがうかがえる。

自治体アンテナショップを見学する外国人(東京・日本橋の「おいでませ山口館」で、提供・地域活性化センター)

外国人客向けに英文冊子作成

2015年2月。地域活性化センターは北陸新幹線の3月開業に合わせて、飲食店情報サイト「ぐるなび」と組んで都内のアンテナショップを紹介する英文冊子「local specialty shops 2015」を作成した。訪日外国人の増加が見込まれるため、英文でのPRが欠かせないためだ。英文冊子には、地図上に各アンテナ店の位置情報を示し、また飲食店の併設やWi-Fiの有無、免税店かどうかなどを表示している。

しかし、自治体アンテナショップは元々、国内消費者を念頭に置いていただけに、個別店舗での外国人客への対応策は十分とはいえない。外国語ができるスタッフの常駐店舗も一部で、レストランのメニューやHPの多言語化などは今後の課題だ。

文:原田 和義(編集部)

バナー写真:東京の「ららぽーと豊洲」にオープンした、熊本のアンテナショップ。人気のご当地キャラクター「くまモン」を前面に出し、2015年3月まで期間限定で営業する=2014年8月8日(時事)

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