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日本発の科学論文、世界シェアで落ち込み目立つ

科学

自然科学分野で日本人研究者が執筆する論文の本数、およびその引用件数が、10年ほど前から減少に転じている。他の主要国と比べた「シェア」でみると落ち込みが目立ち、「日本は将来、なかなかノーベル賞を獲得できなくなる」との懸念の声もある。

現在はノーベル賞ラッシュでも

学術研究で世界最高の栄誉とされるノーベル賞。2015年は生理学・医学賞で大村智さん、物理学賞で梶田隆章さんの2人が受賞者に選ばれ、日本の自然科学の水準の高さを示した。2014年も3人の日本人研究者が物理学賞に輝いている。毎年のようにノーベル賞受賞者が出る一方で、近年は日本人研究者による論文数は減りつつある。

自然科学部門のノーベル賞は受賞した年からさかのぼって10-30年前位からの研究が多いとされ、最近の受賞者も1980 年代、1990年代の業績が評価されたケースが大半。今後もこのペースで受賞できるかは、疑問符がつく状況だ。

中国、ドイツに抜かれ、韓国が猛追

自然科学分野での日本人研究者の論文本数は、トムソン・ロイター社とエルゼビア社のデータベースに示されている。トムソン・ロイターのデータベースでは、2000年ごろから日本の論文数が停滞。エルゼビアでは、2004年の国立大学の法人化の数年後から論文が顕著に減少している。

トムソン・ロイターが物理学、化学、生物学、物質・材料科学、宇宙科学の5部門でまとめた主要7カ国を対象に作成した統計によると、1982年に同社がデータベースに取り込んだ研究論文は全世界で12万1739本。うち米国からの論文が3万3744本と最多で、日本は1万2534本と第2位につけていた。

ところが2011年の統計では、トップが米国で7万8242本、次いで中国が7万6664本、3位はドイツで3万3517本。日本は4位の3万1487本で、韓国の急追を受けている。

この背景として鈴鹿医療科学大学学長の豊田長康氏は、国が支出する研究資金の減少や、大学教員が校務など研究以外の活動に費やす時間が増えたことなど指摘する。

2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏はかつて、「ノーベル賞は毎年9人か10人受賞するので、(日本から)1人ぐらい出るのは当たり前だ」と語ったが、この「理論」を大まかに裏付けるものとして、論文数における日本のシェアがある。2001年ごろまで主要国の間での日本の論文数シェアは約10-13%であり、第2位というポジションで健闘してきた。

三重大学の学長経験もある豊田氏は、自然科学分野の論文を増やすためには、フルタイム研究者のポスト増が必要だと強調。nippon.comの電話取材に対し、「10年後には、ノーベル賞受賞者に占める日本人の割合は20人に1人まで減少するかもしれない」と語った。

法人化の余波、研究資金が減少

日本の国立大学は法人化を機に、文部科学省からの「運営費交付金」が毎年1%ずつ削減されている。これが研究費の減少、事務職員削減に伴う教員の事務負担増につながり、研究論文という“アウトプット”の数にも影響が出ているとの指摘がある。

東京大学や京都大学など、研究費が潤沢なトップ大学はごく一部。他の国立大学の多くは、企業などからの外部資金の導入に熱心にならざるを得ない。こうした中での研究は、産業界からの要請が強い実用的で、短期的に成果が出やすいものになりがちだ。

世界大学ランキングでも苦戦

英国の教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が10月に発表した2015年世界大学ランキングによると、国内トップの東京大学が順位を下げ、前年のアジア首位から3位に転落。シンガポール国立大学と北京大学に次ぐ評価となった。

THE誌のランキングは論文引用数や外国人教員比率など13指標で評価されている。文部科学省は、2015年の評価指標では英語論文が重視されたことで、日本の大学には不利になったとみている。

世界の大学ランキング(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)

2014年 2015年
1 カリフォルニア工科大学(米) 1 カリフォルニア工科大学
2 ハーバード大学(米) 2 オックスフォード大学
3 オックスフォード大学(英) 3 スタンフォード大学
4 スタンフォード大(米) 4 ケンブリッジ大学
5 ケンブリッジ大学(英) 5 マサチューセッツ工科大学
6 マサチューセッツ工科大学(米) 6 ハーバード大学
7 プリンストン大学(米) 7 プリンストン大学
8 カリフォルニア大学バークレー校(米) 8 インペリアル・カレッジ ロンドン
9 インペリアル・カレッジ ロンドン(英) 9 スイス連邦工科大学チューリヒ校
10 イェール大学(米) 10 シカゴ大学(米)

100位以内に入ったアジアの大学

2014年 2015年
23 東京大学 26 シンガポール国立大学
25 シンガポール国立大学 42 北京大学
43 香港大学 43 東京大学
48 北京大学(中国) 44 香港大学
49 清華大学(中国) 47 清華大学
50 ソウル大学(韓国) 55 南洋理工大学
51 香港科技大学 59 香港科技大学
52 韓国科学技術院 85 ソウル大学
59 京都大学 88 京都大学
61 南洋理工大学(シンガポール)
66 浦項工科大学(韓国)

文: 村上 直久(編集部)

バナー写真:2015年のノーベル賞受賞が決まっている物理学賞の東京大宇宙線研究所・梶田隆章所長(左)、医学生理学賞の北里大学・大村智特別栄誉教授(中央)の表敬を受け、談笑する安倍晋三首相=2015年10月29日、東京・首相官邸(時事)

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