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「江戸前」の魚 : 巨大都市の目の前の湾ですしネタが泳いでいる

社会

大都会東京の目の前で、今も漁業は続いている。

東京には「江戸前」をうたうすし屋や天ぷら屋が多い。元来、「江戸前」が意味していたのは、江戸城(現在の皇居の場所)の目の前の海のこと。羽田と旧江戸川の河口(現在の東京ディズニーリゾートの東側)を結んだ線の内側あたりだ。当時は江戸城のすぐ近くまで入り江が入り込んでいたので、すぐそこで水揚げした新鮮な魚が、将軍家や武家の食卓に上がっていたことになる。

しかし、江戸の人口増加とともに湾岸の埋め立てや開発が進み、幕末には品川台場が建設された。明治期にかけては、東京港の水深を確保するためのしゅんせつ工事で発生した土砂で月島、勝どきエリアが埋め立てられた。現在タワーマンションが林立する豊洲は、関東大震災のがれき処理でできた土地だ。詳細な地図を見ると、元来の「江戸前」海域は相当部分が埋め立てられ、ほとんど漁ができなくなってしまった。それでも、いまだに「江戸前」の魚と言われるのは、「江戸前」の範囲が徐々に広がっているためだ。

水産庁が2004年に設置した「豊かな東京湾再生検討委員会食文化分科会」の中で、「江戸前」の定義を議論し、「江戸前は東京湾全体をさし、東京湾で取れる鮮度の良い魚介類を江戸前の魚」とすることに落ち着いた。

東京都水産課によると、2013年の都内漁協の東京湾内での水揚げ量は422トン。漁獲量が多いのは「スズキ」「アサリ類」など。量はそれほど多くないが、「江戸前」の代表格と言えば、穴子。屋形船で揚げたての穴子など江戸前の魚の天ぷらを楽しむ東京湾内のクルーズツアーも人気だ。

都内漁協の東京湾の生産量・生産金額(2013年)

生産量(kg) 生産額(万円)
サバ 484 5
真アジ 499 15
カレイ類 28,710 2,262
スズキ 131,369 9,537
穴子 11,949 2,082
コノシロ 1,044 2
アサリ類 206,635 6,230
その他 41,999 2,551
合計 422,689 22,684

コノシロはコハダとも呼ばれ、酢〆にしてすしネタとして使う。江戸前のすしに欠かせない「光りもの」。
東京都水産課の公表資料を基に編集部作成

千葉県側ではノリの養殖が行われているほか、外海に近い東京湾の出口付近ではマダイやクルマエビの水揚げもある。横浜では希少なシャコ漁も行われる。

東京湾に面する1都2県の漁港近くでは、江戸前の魚を使った定食を出す店も多い。工業地帯にあり、大型タンカーが行き来する東京湾だが、豊かな水産資源に恵まれ、漁師町の食文化がしっかりと受け継がれている。

バナー写真 : 時事

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