政府「生活保護からの脱却」を国家戦略に

政治・外交

世界で第3の経済大国・日本で生活保護受給者が過去最多を更新し続けている。増加に歯止めがかからず、国や地方の財政を圧迫していることから、政府は生活保護制度の見直しを手掛けてきたが、ここにきて「生活保護からの脱却」策を国家戦略として策定する方針を決めた。働く世代への支援を軸に6月をメドに具体化し、来年の通常国会に関連法案を提出する構えだ。しかし、抜本改革は容易ではない。

受給者 過去最多の209万人

生活保護脱却を国家戦略に位置づける背景に、受給者の急増がある。過去のピークは戦後の混乱期、1951年度の月平均204万6646人だったが、その後は概ね減少し、95年は88万人に減った。それが再び増加に転じ、昨年7月には過去最多を更新、12年1月は209万1000人に達した。10年度の給付費は3兆4000億円に上る。負担割合は国が4分の3、地方が4分の1だ。

2000年度、世帯別受給者の割合は、高齢者(45.5%)傷病・障害者(38.7%)その他(7.4%)だった。それが2010年度は傷病・障害者が33.0%に減る一方で、その他は16.1%に増えた。高齢者は 42.9%で最も多かったが、その他の16.1%の中には「現役」が相当数いるとみられる。長引く不況や90年代の規制緩和で非正規労働者が全体の3分の1を超えたことが「その他」の割合を押し上げた。

保護申請を却下された北九州市の男性が2007年に餓死し、厚労省が翌年3月、申請受付基準を緩めたことも受給者増加に影響した。広がった間口に「派遣切り」にあった人たちが殺到した格好だ。

抜本改革に厚い壁

それでも、長年続いた制度を変えることには困難を伴う。

4月9日夕、首相官邸であった国家戦略会議。低所得者対策の強化を指示した野田佳彦首相に対し、小宮山洋子厚生労働相は「自立支援策です」と切り出し、「就労収入積立制度(仮称)」を説明した。生活保護受給者が働いて得た収入の一部に当たる保護費を自治体が積み立て、保護を抜ける時に本人に返して自立用の資金に回せるようにする仕組みだ。生活保護受給者が働いて収入を得ると、原則、保護費はその分カットされる。この点が受給者の労働意欲を失わせ、自立を阻害しているとの指摘が絶えないことから、労働収入に相当する分の一部を本人に戻すことにした。

厚労省は国家戦略会議とは別に、昨年5月から生活保護に関する地方との協議を続けている。受給者の医療費が全額保護費(医療扶助)で賄われていることなどが問題となっており、地方側は昨年末の中間まとめで「医療費への自己負担導入」や保護に期限を設けて自立を促す「有期保護」など給付カットの改革案を打ち出した。

しかし消費増税の痛み隠しに「ばらまき」へと走る民主党はこうした給付カットを許さず、抜本改革を見送った。しかも、その挙げ句、月10万円の支給と無料の職業訓練を組み合わせた現行の「求職者支援制度」活用という妥協策に流れてしまった。

今後、国家戦略会議は医療扶助の見直しなども議論するが、民主党内からは就労収入積立制度に対してさえ「受給が長引けば生活が苦しくなる」との異論が出ている。

一方、自民党は民主党政権が就労収入積立制度を発表したのと同じ9日、「自助」色を鮮明にする戦略に基づいて「保護費の削減」などを次期衆院選公約に掲げる方針を確認した。衆参のねじれが続く中、選挙が近づくほど両党の接点は失われていく。「日本の社会保障制度で最も見直しの余地がある」と指摘される生活保護だが、改革の方向性は一向に定まらない。

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