地方自治から見た「石原新党」

政治・外交

東京都の石原慎太郎知事(80)が辞任、新党を結成し次期衆院選に出馬する急展開をみせた。尖閣諸島の東京都による購入計画などで注目を浴びた石原氏の動向が民主、自民両党に対抗するいわゆる「第三極」の結集問題にどう影響するかが焦点だ。

3大都市圏で「首長新党」

これで奇しくも東京、大阪、中京の3大都市圏の首長や経験者がそろって既成政党に弓を引くことになった。住民から直接選ばれ知名度も高い大都市圏の首長がこぞって国政に攻勢をかける新たな構図の出現である。

新党結成に向け、たちあがれ日本の全国拡大支部長会議で気勢を上げる石原慎太郎前東京都知事。写真提供=時事

石原氏による新党構想はかねて平沼赳夫衆院議員らが検討しており、想定の範囲内の出来事だ。だが、99年以来13年にわたり都政を預かってきた石原氏が即時の知事辞任に踏み切ったことはメディアに「サプライズ感」を与えた。

石原氏は新党結成の理由に「明治以来の中央集権、官僚制度のシャッフル」を掲げ、橋下徹大阪市長が率いる日本維新の会との連携を探る狙いを示した。有権者の反応はなお未知数だが、民主、自民両党の党首選びに埋没し失速気味だった「第三極」が再度注目される契機となったことは間違いなかろう。

石原氏辞任に伴う東京都知事選は11月29日告示、12月16日に投開票される。東京都は国内総生産(GDP)でオランダに比肩する大自治体であり、タレント議員の草分けだった青島幸男氏が95年に特定政党の支持を受けずに当選して以来、相当の全国的知名度を持つことが知事選に挑戦する事実上の資格要件となっている。今回のような短期決戦はなおのことだろうが、一方で「脱原発」などエネルギー政策を争点とするような候補擁立の有無も焦点になる。

既成政党の組織力に頼らず個人的なアピール度で地位に就くことが知事や市長らが国に対抗する力の源泉でもある。「中央とのパイプ」を売り物に自治体の首長が地方政界を牛耳ったかつての構図は中央の財政難や公共事業の圧縮とともに崩壊した。10年ほど前、行革や行政刷新に取り組むいわゆる改革派知事が脚光を浴びたゆえんである。

その後、大都市圏を中心に知名度の高い知事や市長が国政に対立構図を描くことで存在感を国民に認知させるケースが目立ってきた。

結局、石原氏の進出で橋下大阪市長と松井一郎大阪府知事による「日本維新の会」、大村秀章愛知県知事、河村たかし名古屋市長と3大都市圏の首長がいずれも新党の旗振り役となった。行政トップである首相が議院内閣制や「ねじれ国会」の下で必ずしも強い権限を発揮できないのと裏腹に、直接公選である「大統領型」の首長は地方議会との関係で優位に立ち、メディアに強い発信力を確保している。国、地方の行政トップの選出方法の違いが一種の逆転現象を現出しつつある。

「大都市VS地方」浮上も

第三極問題は今後、石原新党、日本維新の会、みんなの党の3党で政策協議がどれだけ進展するかがまずは焦点となる。原子力発電の再稼働、新増設などエネルギー政策、消費増税の評価が注目されるが、政策が共通しているとみられがちな分権改革も火だねが無い訳ではない。

3勢力はいずれも都道府県を数ブロックに再編する「道州制」導入では一致するとみられる。だが、日本維新の会が重視する消費税の地方税化をかつて石原氏は「無理」と批判している。

消費税すべてを地方税化し地方交付税を廃止した場合、地域別の複数税率の議論が起きる可能性がある。また、単純に配分すれば税財源は大きく大都市圏にシフトするため何らかの財政調整機能は依然として必要となる。石原氏は現行の都道府県、市町村の体制でそうしたシステムを構築することの実現性に疑問を投げかけたのである。

橋下氏は地方税化について消費税を11%に引き上げ、うち6%を地方間の税収格差を是正するための財源とする考えを示している。「道州制」の実現を導入の前提とするかがひとつのポイントとなるが、いずれにせよ地方交付税の廃止論に過疎地の多い地方の警戒や反発は根強い。今回の「首長新党」攻勢は大都市圏と地方の地域対立に連動する可能性をはらんでいる点に留意すべきだ。

また、橋下氏は「大阪都構想」について府の名称を正式に「都」に改称するよう主張している。石原氏はこれにも「元首がいて、国会があるところが都」と強硬に反対している。こうした国家観にかかわる部分も無視できない要素かもしれない。

都知事選との絡みで言えば「道州制」を展望するにあたり、首都・東京をどう位置づけるかも非常に大きな論点である。

政府の第28次地方制度調査会が06年にまとめた道州制導入を適当とする答申では東京都を「南関東州」などに編入することを基本としつつ、現在の東京都域や23区分を単独州とすることも選択肢とした。首都の機能と役割をどう定義するかは道州制全体の制度設計にもかかわる。

通常の市町村に比べ東京の特別区(23区)の税源、権限などが制約されている点も住民自治のあり方として本来もっと積極的に議論されてしかるべきテーマだ。首長新党の国政進出、都知事の交代は自治の領域にも多様な課題を投げかけそうだ。

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