自民党総裁選、無投票で安倍再選
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実績で「無投票再選」果たしたのは3人だけ
9月8日告示された自民党総裁選は立候補者が1人しかなく、安倍晋三首相(総裁)が無投票で再選された。これまで41回あった党総裁選出の歴史の中で、総裁や党長老の裁定による選挙見送りを除くと、「無投票再選」したのは鈴木善幸、中曽根康弘、海部俊樹、河野洋平、橋本龍太郎、小泉純一郎元首相に次いで7人目となる。しかし、実績で無投票再選を果たしたのは、中曽根、小泉両元首相と安倍首相の3人しかいない。
安倍総裁の任期は18年9月末までの3年間。任期いっぱい首相を務めれば、安倍内閣は第1次(2006年9月~07年8月)、第2次(12年12月~14年12月)、第3次(14年12月~)を合わせ約7年の長期政権となる。戦後の歴代首相で最も在職日数が長いのは、佐藤栄作(2798日)がトップで以下、吉田茂(2616日)、小泉純一郎(1980日)、中曽根康弘(1806日)、池田勇人(1575日)の順。安倍首相は現在6位で、既に敬愛する祖父の岸信介元首相(1241日)を抜いている。
自民党の人材不足、野党のふがいなさの反映
「1強多弱」といわれる政治情勢の中で、安倍政権は本当に盤石なのか。再選は過去3年間の経済政策(アベノミクス)、外交(地球儀を俯瞰する外交)、安全保障政策(安保法制)などが評価された結果といえる。同時に「現状維持」を是認する国民意識の反映とも分析できるだろう。
しかし実態は、「維新の党」の分裂騒動に象徴されるような野党のふがいなさと、自民党内の人材不足、党組織の弱体化などに起因しているといえる。派閥の弊害や金権選挙批判を受けて小選挙区比例代表制が導入されてから4半世紀、自民党のかつての活力の源であった「派閥間競争」は鳴りを潜め、派閥の領袖による疑似的な政権交代も困難になっている。ポスト安倍の有力候補が存在しない「安倍1強」状態は、自民党の人材不足の象徴といえるだろう。
次期候補・石破の不出馬が「無投票」の流れを決める
総裁選挙をめぐっては、自民党7派閥が8月末までに相次いで「首相再選支持」を表明した。最後まで立候補に意欲的な姿勢を見せていた野田聖子前総務会長も、推薦人20人の確保ができず立候補できなかった。野田氏は8月27日のインターネット番組で、「無投票はよくない。何となくもやもやした中で首相が選ばれるのは健全ではない」と発言していた。
また、ポスト安倍の筆頭候補と見られていた石破茂地方創生相も8月18日に立候補断念を決めた。前回の12年9月の総裁選に立候補し、1回目の投票で地方票を集めて1位になった石破氏の撤退は、安倍再選の流れを加速した。
転機は2014年の内閣改造。石破氏は党幹事長留任を希望したが受け入れられず、安倍首相が要請した安保法制担当大臣のポストを拒否した。にもかかわらず、主戦論を貫き通すことなく、石破グループの融和派の意見を入れて地方創生担当相として入閣した。このブレが、今回の出馬の足かせとなった。安倍派サイドからの、石破支持派議員に対する“公認外し”の恫喝も影響した。
経済再生優先の中で不透明な「憲法改正」問題
では、今後の安倍政権が目指す政治とは何か。安倍首相は9月1日、視察先の東京都立川市で、アベノミクスを軸とする経済政策の継続、地方創生、少子化対策など“内政重視”の政策課題推進を強調した。17年4月には消費税の10%への再引き上げも控えている。
外交面では、遅々として進まない日中・日韓関係の改善、ウクライナ情勢を受け曲折する日ロ首脳外交、経済外交のカギを握る環太平洋経済連携協定(TPP)の妥結、さらに日米同盟強化に影を落とす沖縄普天間基地移設問題などに取り組む。
政策課題が山積する中で、安倍首相のライフワークでもある「憲法改正」問題にどこまで踏み出すのか、これまで以上に厳しい決断とリーダーシップが求められる。今後3年間の政治日程も、16年夏の参院選、さらに次期衆院選(任期満了18年12月)が控えている。総裁任期を全うするのは容易ではない。
過去の自民党総裁選び
年月日 | 総裁選の有無 | 総裁選出者 | 次点など、他の主な候補・備考 |
---|---|---|---|
1956年4月5日 | ○ | 鳩山一郎 | 岸信介 |
1956年12月14日 | ○ | 石橋湛山 | 岸信介 |
1957年3月21日 | ○ | 岸信介 | 松村謙三 |
1959年1月14日 | ○ | 岸信介 | 松村謙三 |
1960年7月14日 | ○ | 池田勇人 | 石井光次郎 |
1962年7月14日 | ○ | 池田勇人 | 佐藤栄作 |
1964年7月10日 | ○ | 池田勇人 | 佐藤栄作、藤山愛一郎 |
1964年12月1日 | × | 佐藤栄作 | (池田勇人総裁が裁定) |
1966年12月1日 | ○ | 佐藤栄作 | 藤山愛一郎 |
1968年11月27日 | ○ | 佐藤栄作 | 三木武夫、前尾繁三郎 |
1970年10月29日 | ○ | 佐藤栄作 | 三木武夫 |
1972年7月5日 | ○ | 田中角栄 | 福田赳夫 |
1974年12月4日 | × | 三木武夫 | (椎名悦三郎副総裁が裁定) |
1976年12月23日 | × | 福田赳夫 | (両院議員総会の話し合いで選出) |
1978年11月26日 | ○ | 大平正芳 | 福田赳夫 |
1980年7月15日 | × | 鈴木善幸 | (西村英一副総裁が裁定) |
1980年11月27日 | ○ | 鈴木善幸 | 無投票 |
1982年11月24日 | ○ | 中曽根康弘 | 河本敏夫、安倍晋太郎 |
1984年10月30日 | ○ | 中曽根康弘 | 無投票 |
1986年9月11日 | × | 中曽根康弘 | (両院議員総会で任期延長を了承) |
1987年10月31日 | × | 竹下登 | (中曽根康弘総裁が裁定) |
1989年6月2日 | × | 宇野宗佑 | (竹下登総裁が裁定) |
1989年8月8日 | ○ | 海部俊樹 | 林義郎、石原慎太郎 |
1989年10月31日 | ○ | 海部俊樹 | 無投票 |
1991年10月27日 | ○ | 宮澤喜一 | 渡辺美智雄、三塚博 |
1993年7月30日 | ○ | 河野洋平 | 渡辺美智雄 |
1993年9月30日 | ○ | 河野洋平 | 無投票 |
1995年9月22日 | ○ | 橋本龍太郎 | 小泉純一郎 |
1997年9月11日 | ○ | 橋本龍太郎 | 無投票 |
1998年7月24日 | ○ | 小渕恵三 | 梶山静六、小泉純一郎 |
1999年9月21日 | ○ | 小渕恵三 | 加藤紘一、山崎拓 |
2000年4月5日 | × | 森喜朗 | (両院議員総会で選出) |
2001年4月24日 | ○ | 小泉純一郎 | 橋本龍太郎、麻生太郎 |
2001年8月10日 | ○ | 小泉純一郎 | 無投票 |
2003年9月20日 | ○ | 小泉純一郎 | 亀井静香、藤井孝男 |
2006年9月20日 | ○ | 安倍晋三 | 麻生太郎、谷垣禎一 |
2007年9月23日 | ○ | 福田康夫 | 麻生太郎 |
2008年9月22日 | ○ | 麻生太郎 | 与謝野馨 |
2009年9月28日 | ○ | 谷垣禎一 | 河野太郎 |
2012年9月26日 | ○ | 安倍晋三 | 石破茂 |
2015年9月8日 | ○ | 安倍晋三 | 無投票 |
バナー写真:自民党総裁選挙への出陣式で、支援者らと気勢を上げる安倍晋三首相(中央)=2015年9月8日午前、東京都内のホテル(時事)