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プーチン氏「領土問題解決先行も可能」と伝える?-佐藤優氏に聞く
[2018.10.26]

佐藤 優

佐藤 優SATŌ Masaru1960年東京都生まれ。作家・元外務省主任分析官。日本外務省切っての情報分析のプロフェッショナルとして各国のインテリジェンス専門家から高い評価を得た。イギリスの陸軍語学学校でロシア語を学んだあと、モスクワの日本大使館に勤務し、クレムリンの中枢に情報網を築きあげた。著書に『国家の罠』『自壊する帝国』(いずれも新潮文庫)など多数。

9月に明かした会話をあえて明らかに

ロシアのプーチン大統領は、保養地ソチで18日、「まず領土問題を解決して平和条約を締結したい」とした安倍発言について、「それも可能だ」と伝えていたことを明らかにした。プーチン発言の真意はどこにあるのか、外務省主任分析官を務めたロシア専門家、佐藤優氏に聞いた。

編集部 このプーチン発言は、例年、内外の有識者を招いて行われる討論会「バルダイ・クラブ」で披露されたものですね。

佐藤 そうです。プーチン大統領はこの席で、ウラジオストクで9月に安倍首相と交わした会話をあえて明らかにしたのです。停滞する日ロ交渉に何とか風穴を開けたいと考えたからでしょう。プーチン大統領は、9月の「東方経済フォーラム」で演説した後、安倍首相を誘って青年柔道の試合を共に観戦しました。この場で安倍首相と交わしたやり取りについてのプーチン大統領の説明を、大統領府がロシア語のテキスト18日に公表しています。それによれば、プーチン発言の詳細は次のようなものです。

「安倍首相は、『現時点では、日本としては、先に平和条約を締結するというようなアプローチは受け入れられない。まず、領土問題に関する基本的問題を解決し、その後に平和条約について話そう』と私に言った。それも可能だ(モージュナ・イ・ターク)」

編集部 ウラジオストクでのプーチン発言は、平和条約先行論と受け取られていましたから、注目すべき柔軟な発言ですね。

佐藤 その通りです。まず北方領土問題に決着をつけて平和条約をという日本側の主張について、「それも可能だ」と応じたのですから。日ロ両国はもう70年も議論を続けているがどうしても合意できない。全てが行き詰まりだ、とプーチン大統領は強い不満を示し、いまの事態を打開しようと安倍首相に促したのです。

11月の国際会議に向け両国が調整へ

編集部 9月のウラジオストクでのプーチン提案は、領土問題を棚上げにする「くせ球」だと受け取る向きもありましたが、手詰まりとなっている交渉を前に動かしたいという意欲の表れと受け取っていいのでしょうか。

佐藤 領土問題を解決して、平和条約を結ぶという「56年宣言」に反するものではないと思います。 さらに日ロの共同経済活動についても、プーチン大統領は「その理念は素晴らしいのだが、いまのところ、非常に小さな成果しか出ていない」と指摘し、日ロ双方が政治的なリーダーシップを発揮して作業を進めていくべきだと述べています。

編集部 日ロ両国は今後、どのように交渉を進め、打開策を探っていくのでしょうか。

佐藤 11月半ばにシンガポールで行われる国際会議がよい機会になると思います。すでに外交当局同士が、日ロ首脳会議の開催に向けて調整に動いています。プーチン大統領は、歯舞群島と色丹島の引き渡しを約束した56年の「日ソ共同宣言」は、両国の議会ですでに批准の手続きが終わっていると繰り返し指摘しています。いくつかの条件がクリアされれば、「56年宣言」に基づいて、平和条約の締結に動くとみていいでしょう。

漁業水域、米軍駐留問題での妥協・合意が鍵に

編集部 いま「いくつかの条件」と言われましたが、具体的には何を指すのでしょうか。

佐藤 56年当時と現在とは、北方領土に連なる「漁業専管水域」の解釈が異なっています。また歯舞群島と色丹島が日本に引き渡された場合、日米安保条約が適用され、米軍が駐留する可能性も排除できません。これにどう歯止めをかけるかも日ロ間でクリアにしておく必要があるでしょう。

編集部 国後、択捉の帰属については、今後どう交渉を進めていきますか。

佐藤 北方領土周辺の漁業専管選管水域の扱いについては、日ロ双方が歩み寄って妥協点を見出し、それをテコに国後、択捉の帰属については継続協議に持ち込むべきでしょう。平和条約の締結先行論や二島返還の先行論だけが新聞の見出しを飾り、その賛否を論じるだけでは解決策は見つかりません。「56年宣言」では、ロシア側のいう「寄贈」でもなく、日本側のいう返還でもない、歯舞群島と色丹島を「引き渡す」という中立的な表現が使われています。まさしく賢明な外交には狐のような知恵、つまり狡知が求められているのです。

バナー写真:柔道のジュニア大会「嘉納治五郎杯」をロシアのプーチン大統領(手前左)と観戦する安倍晋三首相(同右)=2018年9月12日夜、ウラジオストク(時事)

  • [2018.10.26]
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