大村智氏に2015年度ノーベル医学・生理学賞-寄生虫特効薬の発見で

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2015年度のノーベル医学生理学賞は、寄生虫による感染症の治療薬開発に貢献したとして、大村智(さとし)北里大学特別栄誉教授(80)、アイルランド出身で米ドリュー大学のウィリアム・キャンベル名誉研究フェロー(85)、中国中医科学院の屠ユーユー主席研究員(84)の3氏に贈られることが決まった。

日本のノーベル賞受賞は2014年、青色発光ダイオード(LED)を開発した赤崎勇・名城大学教授、天野浩・名古屋大学教授、中村修二・カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の物理学賞受賞に続き、2年連続。日本人(外国籍含む)の受賞者は、大村氏が23人目。

土壌中の菌から抗生物質発見、年3億人の感染防ぐ薬品に

大村氏は1970年代から、各地の土壌を採取して微生物を分離・培養し、その微生物がつくり出す化学物質に有用なものがないか調べる研究を継続。静岡県の土壌の中から発見した新種の菌から、寄生虫が激減する抗生物質「エバーメクチン」を発見した。同物質を使い、米製薬大手メルク社との共同研究で開発した薬品「イベルメクチン」は、熱帯地方でまん延する「オンコセルカ症(河川盲目症)(※1)、「リンパ系フィラリア症(象皮病)」(※2)などの特効薬となった。

世界保健機関(WHO)がアフリカなどでイベルメクチンを無償配布したことなどにより、感染の危機から救われる人が世界で年3億人にも及ぶとされる。ノーベル財団はこの業績について「人類への計り知れない貢献」と称えた。

定時制教師しながら大学院へ

大村氏は1935年山梨県生まれ。山梨大学を卒業後、定時制高校で教師をしながら東京理科大学大学院修士課程を修了。山梨大助手を経て65年に北里研究所に入所した。米ウェスレーヤン大学に留学後、75年に北里大学教授に。90年から2008年まで北里研究所所長を務めた。

ガートナー国際保健賞(2014年)など、これまでも内外で多くの受賞歴がある。大村氏は受賞が決まった10月5日夜、北里大学で記者会見し、「微生物の力を借りただけで、私が偉いことをしたのではない」などと、謙虚に喜びをかみしめていた。

日本のノーベル賞受賞者は23人に

今回の受賞決定で、湯川秀樹氏(1949年物理学賞)から連なる日本のノーベル賞受賞者(外国籍含む)は総計23人となった。内訳は物理学賞10人、化学賞7人、医学・生理学賞3人、文学賞2人、平和賞1人。

日本人のノーベル賞受賞者

受賞年 氏名、業績
2014 物理学賞 赤崎 勇(あかさき・いさむ)
名城大学教授、名古屋大学名誉教授
業績:青色発光ダイオード(LED)の開発に貢献
天野 浩(あまの・ひろし) 名古屋大学教授
業績:同上
中村 修二(なかむら・しゅうじ)=米国籍 米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授
業績:同上
2012 医学・生理学賞 山中 伸弥(やまなか・しんや)
京都大学iPS細胞研究所長・教授(受賞時)
業績:さまざまな組織の細胞になる能力がある「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を開発
2010 化学賞 根岸 英一 (ねぎし・えいいち)
米パデュー大学特別教授(受賞時)
業績:「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング」に成功
鈴木 章 (すずき・あきら) 北海道大学名誉教授(受賞時)
業績:同上
2008 物理学賞 南部 陽一郎 (なんぶ・よういちろう)
米シカゴ大学名誉教授(受賞時:米国籍)
業績:「自発的対称性の破れ」の発見
小林 誠 (こばやし・まこと)
高エネルギー加速器研究機構名誉教授(受賞時)
業績:「CP対称性の破れ」を理論的に説明した「小林・益川理論」を提唱
益川 敏英 (ますかわ・としひで)
京都大学名誉教授(受賞時)
業績:同上
化学賞 下村 脩 (しもむら・おさむ)
米ボストン大学名誉教授(受賞時)
業績:「緑色蛍光タンパク質(GFP)」の発見・開発
2002 化学賞 田中 耕一 (たなか・こういち)
島津製作所フェロー(受賞時)
業績:生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発
物理学賞 小柴 昌俊 (こしば・まさとし)
東京大学名誉教授(受賞時)
業績:岐阜に建設された素粒子観測装置、カミオカンデで素粒子ニュートリノを世界で初めて観測
2001 化学賞 野依 良治 (のより・りょうじ)
名古屋大学理学部教授(受賞時)
業績:ルテニウム錯体触媒による不斉合成反応の研究
2000 化学賞 白川 英樹 (しらかわ・ひでき)
筑波大学名誉教授(受賞時)
業績:電気を通すプラスチック、ポリアセチレンの発見
1994 文学賞 大江 健三郎 (おおえ・けんざぶろう)
作家
業績:『個人的な体験』(1964)などの作品を通じ、現実と神話が密接に凝縮された想像の世界をつくりだし、現代における人間の様相を衝撃的に描いた
1987 医学・生理学賞 利根川 進 (とねがわ・すすむ)
米マサチューセッツ工科大学教授(受賞時)
業績:「抗体の多様性生成の遺伝的原理」の発見
1981 化学賞 福井 謙一 (ふくい・けんいち)
京都大学工学部教授(受賞時)
業績:化学反応と分子の電子状態に関する「フロンティア電子理論」を樹立
1974 平和賞 佐藤 栄作 (さとう・えいさく)
元首相
業績:非核三原則を提唱するなど太平洋地域の平和に貢献
1973 物理学賞 江崎 玲於奈(えさき・れおな)
米IBMワトソン研究所主任研究員(受賞時)
業績:半導体におけるトンネル現象の実験的発見
1968 文学賞 川端 康成 (かわばた・やすなり)
作家
業績:代表作『伊豆の踊子』(1927)や『雪国』(1935-1937)を通じ、微細な感受性をもって日本人の心の神髄を表現した
1965 物理学賞 朝永 振一郎 (ともなが・しんいちろう)
東京教育大学教授(受賞時)
業績:水素原子のスペクトルの観測データと予測値のずれの解決に超多時間理論が有効であると考え、これを発展させた「繰り込み理論」を完成
1949 物理学賞 湯川 秀樹 (ゆかわ・ひでき)
京都大学理学部教授(受賞時)
業績:原子核の陽子と中性子を結びつける粒子、中間子の実在を理論的に予言した

バナー写真:ノーベル医学生理学賞に決まり、笑顔を見せる大村智・北里大特別栄誉教授=2015年10月5日夜、東京都港区の北里大学(時事)

(※1) ^ オンコセルカ症 ブユ(黒バエ)などが媒介してミクロフィラリアと言う寄生虫が感染し、角膜の炎症が起きる疾病。アフリカ、中南米の熱帯で流行し、患者の2割が失明する恐れがあるとされる。

(※2) ^ リンパ系フィラリア症(象皮病) 蚊が媒介する線虫がリンパ系の働きを阻害し、足が象のように大きく腫れるなど身体障害を起こす疾病。熱帯・亜熱帯で1億人以上が感染しているといわれる。

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