訪日外国人、過去最高更新、「年間2000万人」の政府目標も前倒し達成の勢い

社会 旅と暮らし

今年、8カ月間で約50%増

日本政府観光局が9月16日発表した2015年1~8月の訪日外国人客数は前年同期比49.1%増の1287万5000人となった。中国をはじめとしたアジアからの訪日客が急増したためで、今年9月10日の時点で昨年1年分(1341万人)を上回っており、田村明比古観光庁長官は記者会見で「通年で過去最高を更新するのが確実となった」と言明した。

2015年通年の見通しについて同長官は、不測の事態が起こらなければという前提付きながら「年間では1900万人に届く勢い」としているが、1-8月期の伸びを前年実績に当てはめれば1999万人となり、2020年の政府目標2000万人を前倒し達成する勢いを示している。

8月の訪日外国人客数は前年同月比63.8%増の181万7000人にとどまり、酷暑シーズンだけに単月では過去最高を記録した7月(191万8000人)に及ばなかった。しかし、伸び率は統計を取り始めた1964年以降で2番目の高い伸びとなった。

円安やビザ要件緩和が後押し

訪日客数が大きく伸びているのは、前月に引き続き1)円安で日本での滞在や買い物が割安になっていることに加え、2)政府によるビザ発給要件緩和、3)免税制度の対象拡大―などが後押ししたとみられる。

1~8月の訪日客を国・地域別にみると、中国が前年同期に比べ117%増の334万7000人で前月までと同様に首位。2位は韓国の255万4100人(43.6%増)、3位は台湾の246万8300人(29.9%増)で、香港、米国、タイが続く。

中国からの訪日客の大幅な増加は、日本政府が今年1月に入国回数に制限のない数次ビザの発給要件を緩めたことなどが背景にある。外務省の公表する中国向けビザ発給数は2014年は204万件と倍増している。

中国人旅行客、株価急落の影響みられず

中国については、今年6月以降株価の暴落や経済見通しの不透明感が強まったことから訪日する旅行客への影響を懸念する見方もあったが、今回の結果は少なくとも8月単月についても数量的にマイナスの影響はみられなかった。

逆に、今後の日中関係を占ううえで注目されていた8月の安倍首相による戦後70年談話(8月14日発表)に対する中国政府の反応が抑制的だったことから訪日旅行に弾みがついたとみられる。

今年の訪日旅行者数全体の伸びを月ごとにみると、1月の29.1%で始まったあとは2月(57.6%増)に急増、その後は一貫して43%〜51.8%と50%前後を推移してきた。

中でも中国からの旅行者は1月(45.4%増)と3月(83.7%増)を除けば、2月(159.8%増)、4月(112.9%増)、5月(133.5%増)、6月(167.1%増)、7月(105.1%増)と前年比倍増以上の勢いで増えていた。(6月までは暫定値、7月は推計値)

8月単月でみると、中国、韓国などが過去最高記録を更新したが、中国は2カ月連続の50万人台となる59万2000人とすべての市場の中で最大で、今後も「重要市場であり続ける」(観光庁)と受け止められている。

日本経済を下支え

政治的には8月の70周年談話に続く重要な節目と見られた9月3日の北京での戦勝国パレードも大きな波乱なく終わっている。今後株価急落が中国の経済実態の悪化につながらず、中国人旅行者の勢いが続けば通年の政府目標前倒し達成に大きく貢献するとみられる。

観光庁は、①訪日中国人は富裕層よりも中流層がかなり多い、②中流層は今後の中国市場の中でも成長が見込まれる、③出発地もこれまでの中国の沿海部から内陸に入りつつある——と分析している。

こうした結果、7月の国際旅行収支は7月としては過去最高、単月でも史上2番目となる1295億円の黒字となっており、政府は「日本経済を下支えしており、地方創生の観点からもますます重要となる。観光立国実現に向け取り組んで行きたい」(田村観光庁長官)としている。

執筆=nippon.com編集部・三木孝治郎

カバー写真=会見する田村明比古観光庁長官

訪日外国人 為替