バリエーションは無限大 毎日食べたいおみそ汁 : 土地の個性を味わい、ブレンドを楽しむ
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味見をして好みのみそを選ぶ
日本人にとってはあって当たり前のみそ汁。しかし、健康長寿の国・日本を縁の下で支える発酵食品として、世界がみそに注目し始めている。改めてみそとの付き合い方、おいしいみそ汁を楽しむにはどうすればよいのか、1934(昭和9)年創業、東京・亀戸の佐野みそ(江東区)を訪ね、佐野記子さんに話を聞いた。
佐野みそ本店は、日本各地の蔵元のよりすぐりのみそ70種類以上を取りそろえる。特注のとんがり帽子型のフードをかぶったみそ樽(たる)がずらりと並び、都内では珍しい量り売り販売をしている。
味の好みを伝えると、スタッフがお勧めのみそをいくつか選んで、つまようじの頭でちょこっとすくって味見をさせてくれる。「木樽で2年以上熟成しているので味に深みがあります」「今のはちょっと濃厚すぎると感じるのでしたら、こちらは甘みとうまみのバランスがとれた万能選手です」と、分かりやすくナビゲートしてくれる。普段、スーパーでパック入りのみそを買っている身には、一つひとつの味わい、個性の違いが新鮮だ。
みそのテロワール
みそは、蒸し煮にしてすりつぶした大豆に、麹(こうじ)と塩を加え、発酵、熟成させたもの。基本となる材料はたった3つなのに、その色、香り、味わいは多彩だ。米麹を使えば米みそ、麦麹を使えば麦みそ、大豆麹を使えば豆みそとなる。麹菌、酵母菌、乳酸菌などの微生物の働きで熟成し、塩味、甘み、うまみ、苦み、酸味などが複雑に絡みあい深い味わいを作りだす。
ワインやチーズがその土地土地の気候風土に根差した風味や味わいを持つことをフランス語で「テロワール」という。みそにもその地域の気候風土・製法によって、さらには醸造する蔵ごとのテロワールがある。
みその8割は米麹を使う米みそだが、大まかには北海道から南下するにしたがって、色は赤から白くなり辛口から甘口になる。愛知県岡崎市の「八丁みそ」に代表される中部地方の豆みそは黒に近いこげ茶色。九州や本州四国の西端は麦みそ文化だ。
佐野さんが醸造蔵を訪ねると、蔵の中で立ち止まり、「あの壁の向こうが菌が降りてくる場所なんだよ」と説明してくれる蔵元もいるという。目には見えないが、蔵に長年すみついている菌が独特の風味、その蔵でしか生まれないうまさを醸してくれるのだ。
自由な発想でみそ汁を楽しむ
みそ汁の調理手順はいたってシンプル。
(1)鍋にだし汁を入れる(もちろん自分でだしをとってもよいし、便利な顆粒だしやだしパックを活用すれば手間も時間も圧縮できる)
(2)好みの具材を入れて煮る
(3)具材が煮えたらみそをとき入れる
佐野さんは「好みに合うみそを選んだら、あとは難しく考えず、自由な発想で楽しんで」と話す。だしや具材の組み合わせは「何でもよい」そうだ。
伝統的なだしの食材と言えば、かつお節、昆布、煮干し(いりこ)、干しシイタケなど。具材は、豆腐、ワカメ、油揚げ、ダイコンなどがあるが、佐野さんは「みそに合わない具材はない」と言い切る。チコリなどの西洋野菜や生で食べることが多い野菜も具材になる。
「冷蔵庫にちょっとずつ残っている野菜をなんでも刻んで鍋に入れていけば食品ロス対策にもなります。そこに肉類を追加すれば、具だくさんでおかずがわりにもなる」という。また、変化球では、八丁みその汁に、半割のアボカドを入れて少しずつ崩しながら食べるのもおすすめだという。椀によそった時に、種を除いたあとのくぼみにプチトマトを置くと、八丁みその黒に緑と赤が鮮やかで見た目も楽しげだ。

佐野みそのイートインコーナーで人気の具だくさんのみそ汁。6種類のみそから好みのものを選ぶ。2種類のブレンドもリクエストできる
お椀1杯分なら、だし汁160ccに対してみそ16グラム(大さじ1杯弱)のバランスが目安。濃い色のみそは少なめにし、白いみそはやや多めにするとよい。顆粒だしやだしパックに塩分が含まれている場合は、しょっぱくなりすぎないように調整する。
気をつけたいのはみそを入れたらグツグツと沸騰させないこと。せっかくの香りが飛ばないように、鍋のふちの汁が軽くフツフツと沸いてきたら火をとめることが大切だと佐野さんは強調する。
椀に盛り付けた後に、「吸い口」を足してもよい。「吸い口」は汁もののトッピングのことで、青ネギや三つ葉など彩りが美しいものや、七味、山椒やゆずの皮など風味がたつものなど、視覚、嗅覚、味覚を刺激して食欲を増進させる。これも佐野さんにかかれば、驚くほど幅が広かる。「黒コショウや粉チーズをパラッとふりかけると味変が楽しめます。ナッツを軽く刻んで散らしてもいい。最後にオリーブオイルを回しかけたり、バターをひとかけ入れたりするとコクが出ます」
悪者にされたみその再評価
みその生産量は半世紀にわたって漸減してきた。業界団体によると2025年の生産量は36万トンあまりで、ピークだった70年代前半の約6割まで減少した。食生活やライフスタイルの変化に加え、高血圧・脳卒中を招く塩分過多の要因としてやり玉にあげられたこともマイナスに働いた。消費量が減少するなか、事業の継続を断念した蔵元もあった。
みそ汁1杯の塩分量は1.5〜2グラムで、健康な人であれば毎朝食べても問題にならない程度であるとの認識が広まる一方で、発酵食品の健康効果が脚光を浴び生産量は下げ止まりつつある。輸出は米国向けを中心に上向きで、2025年の輸出量は2万3825トンと過去最高を更新した。
佐野さんは夫で代表取締役である正明さんとともに会社を切り盛りしているが、「蔵元が代々引き継いできたこだわりのみそ作りを守ることが使命」だと言う。
「蔵元さんが、高齢でおみそが売れなくなったとか、後継者がいないとかで廃業してしまうのは本当にもったいない」
3日間昼夜にわたって麹作りをする蔵、先祖が守ってきた井戸の水をくみ上げて使う蔵など、それぞれの蔵にこだわりやストーリーがあるという。「土地土地に個性的なみそがある、そういう文化を継承していきたい。そのためにも、おみそは楽しいということを伝えていきたい」
ブレンドで広がるみその世界
みそをもっと楽しんでもらうために同社が提案しているのが、ブレンドだ。「米みそと麦みそ」など種類の異なるもの、「東北と関西」など離れた地域ものをブレンドすると、お互いのない部分が補いあって味に深みが出る。3種類ほどストックしておき、その日の気分で使うみそを決めたりブレンドしたりすれば、みそ汁のバリエーションがさらに広がる。
みそは中の微生物が生きているため常温保存すると発酵が進んでしまう。冷蔵なら半年が保存のめどだが、佐野さんは冷凍保存を勧める。冷凍室に入れても固く凍らないのでそのまま使え、1年間は保存できる。
「買ってきたみその塩気が強すぎるとか、こんな甘いみそ汁は好みではないとなると、冷蔵庫の奥に押し込んで、しまいには捨ててしまう人もいるようですが、それはもったいない。ぜひ、違うみそとブレンドしてみて」と提案する。
みそ汁以外にも応用範囲は広い。マヨネーズに混ぜたり、オリーブオイルと酢にみそを加えて撹拌(かくはん)すればドレッシングにもなる。マンネリのサラダもみそドレッシングで普段の味に変化が出る。すりつぶした豆腐やヨーグルトにみそを加えてディップやソースとして活用もできる。みそはうまみやコクがしっかりあるので、塩だけの味付けより塩分量を減らしやすいと佐野さんは話す。
隠し味に使えば、家庭料理もワンランクアップする。ビーフシチューには八丁みそ、ホワイト系には白みそを。スパイスカレーには白と黒のブレンドを試すのもお勧めだという。佐野みそのウェブサイトには、「そんな組み合わせもありなのか!」と驚くような具材のみそ汁など楽しいレシピを紹介している。
写真撮影 : 野村和幸
バナー写真:佐野みそのイートインコーナーで提供している具だくさんのみそ汁のセット





