奈良「春日大社」:創建1250年を迎えた古都奈良の端麗な神社

・世界遺産に「古都奈良の文化財」の一つとして登録
・国宝や重要文化財に指定された建物が並ぶ境内
・鹿の図柄のお守りやおみくじがかわいい

“神の使い”として大切にされる鹿

奈良の都・平城京ができた710年頃、大きな政治権力を握っていた藤原不比等(ふじわらのふひと)が、藤原家の氏神である武甕槌命(たけみかづちのみこと)を鹿島神宮から春日の御蓋山(みかさやま)に迎えた。その後、768(神護景雲2)年に藤原永手によって、経津主命(ふつぬしのみこと)を香取神宮から、天児屋根命(あめのこやねのみこと)・比売神(ひめのかみ)を枚岡(ひらおか)神社から勧請(かんじょう)され、合わせて奉斎したのが「春日大社(奈良県奈良市)」である。

南門

主祭神である武甕槌命は、鹿島から白鹿に乗って奈良にやってきたと伝えられている。春日大社の神域と隣接する奈良公園を中心にたくさんの鹿が遊ぶのは、神の使いとして大切にされてきた証しである。春日大社で授与されるお守りやおみくじにも、鹿の図柄をあしらったものが多い。

神の使いとして大切にされている鹿

回廊に釣燈籠、参道に石燈籠

境内には国宝の本殿をはじめ、歴史的にも文化的にも貴重となる、重要文化財に指定された建物などが数々並ぶ。1998年には、ユネスコの世界文化遺産に「古都奈良の文化財」の一つとして登録されている。

春日大社を特徴づけるのは朱塗りである。正面の楼門、本社を取り囲む約52メートルの東回廊、81メートルの西回廊などには、鮮やかな朱塗りが施されている。その回廊には、約800年にもわたって奉納されてきた釣燈籠が約1000基並ぶ。また、参道には石燈籠が約2000基も連なる。鹿の意匠が刻まれた石燈籠も多いので、それを探すのも参拝客の楽しみの一つとなっている。

回廊に下がる釣燈籠

合計3000基の燈籠全てに火をともす「万燈籠」が、節分とお盆の年2回催される。暗闇に無数の燈籠の灯が浮かび上がる様子は幻想的だ。

藤原氏の威光で全国に広がる

日本の歴史上、家柄が高い4つの氏を「源平藤橘」と呼ぶ。中でも、最も古いものが藤原氏だ。不比等の父親である中臣鎌足が、権勢をふるっていた蘇我入鹿を倒し、政治権力を天皇家に取り戻す「大化の改新」(645年)を成し遂げた。その功績によって、天皇家から「藤原」の姓を与えられたのが始まりとされる。

幣殿・舞殿

鎌足の次男・不比等(ふひと)は、娘(光明皇后)を聖武天皇の后とし、史上6人目の女帝である孝謙天皇の外祖父となり、実質的な権力をすべて手中に収める。これ以後、藤原氏は代々天皇家の最も近くにあって、祭政ともに破格の関わりを持つこととなる。摂政・関白に任ぜられる近衛・九条・二条・一条・鷹司のいわゆる「五摂家」は、すべて不比等の子たちから始まった。春日大社は、藤原氏との関係から皇室の崇敬厚く、それにともなって全国に勧請され、総数は約3000社に及んでいる。

境内の藤

●交通アクセス

JR大和路線・近鉄奈良線「奈良駅」から奈良交通バス(春日大社本殿行)約1115分、「春日大社本殿」下車

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文:戸矢 学
写真:中野 晴生
バナー写真=中門・御廊(ちゅうもん・おろう)

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