毛越寺の歴史にふれ、浄土庭園を歩く:世界遺産 岩手・平泉

・毛越寺の歴史を知り、奥州藤原三代が描いた浄土思想に触れる
・仏の世界を表現した、美しい浄土庭園を散策する
・精神修養になる坐禅や写経を体験できる

日本国無二の霊場と称された毛越寺

2011年にユネスコの世界文化遺産に登録された「平泉 —仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺産群—」は、5つの資産で構成される。その要の一つである毛越寺(もうつうじ)は、中尊寺と同じく850年に天台宗の高僧・慈覚大師円仁(じかくたいしえんにん)によって創建されたと伝わる。 

平安時代の建築様式を基に1989年に再建された本堂

その後、荒廃していた毛越寺だったが、12世紀中頃(平安時代末期)に奥州藤原氏の2代・基衡(もとひら)が再建に着手。基衡は周辺で金が採れる平泉の潤沢な財力を惜しみなく注ぎ、父・清衡(きよひら)が描いた仏教による平和な国造りを発展させていった。

毛越寺の本堂にあたる「金堂円隆寺(こんどうえんりゅうじ)」の本尊は、仏師・雲慶に制作を依頼した。完成するまでの3年間にわたり、基衡は砂金や絹、駿馬などの御宝を贈り続けたという。仕上がった薬師如来像は素晴らしく、当時政治の実権を握っていた鳥羽上皇(とばじょうこう)は、その完成度に感嘆し、平泉への仏像の持ち出しを禁じた。そのことを知った基衡は、仏堂に閉じこもり断食をするなどして祈願し、その上で関白の藤原忠通にもとりなしてもらい、ようやく仏像を平泉に迎えることができたそうだ。 

毛越寺の再建は、基衡の死後、3代・秀衡(ひでひら)に受け継がれ、最盛期には堂塔40、僧坊500を越える大寺院となった。その繁栄は、13世紀後半から14世紀初頭に編纂された歴史書『吾妻鏡(あずまかがみ)』に「霊場の荘厳はわが朝無双」と記述されている。

基衡が建立した金堂円隆寺跡

その後、毛越寺は度重なる火災に遭い、雲慶作の薬師如来像を含む寺院の全てが焼失した。しかし、礎石や基壇といった寺院の遺構や平安時代の作庭様式を残す浄土庭園から、当時の面影は今もうかがい知ることができる。

毛越寺山門をくぐってすぐにある「宝物館」には、毛越寺に伝わる平安時代の仏像や発掘遺品、調査資料などを展示している。拝観の最初に立ち寄ると、往時を偲びやすくなるのでおすすめだ。

地上に仏の世界を表現した浄土庭園を散策

浄土庭園「大泉が池」の出島

奥州藤原氏が目指した浄土世界を美しく表現するのが、平安時代(7941192年頃)に書かれた日本最古の造園書『作庭記』に基づいて築かれた「浄土庭園」である。東西約180メートル、南北約90メートルの「大泉が池」を中心に、枯山水風の築山(つきやま)や玉石を敷き詰めた州浜(すはま)、高さ2メートルの立石がシンボルとなる出島などが配されている。

大泉が池の築山の近くには本堂が建つ

池へ水を注ぐのが、平安時代の貴重な遺構である「遣水(やりみず)」と呼ばれる全長80メートルの曲がりくねった水路。庭園を眺めながら歩くと、周囲の山や自然を借景として巧みに取り入れていることに気付く。 

毎年5月には、遣水を舞台に平安装束姿で和歌を詠む
行事「曲水の宴」(ごくすいのえん)が行なわれる
写真提供:毛越寺
 

心穏やかになる坐禅、写経を体験

身体と心がひとつになれる坐禅体験
写真提供:毛越寺

毛越寺の本堂では、「坐禅」や「写経」を体験することができる。姿勢を正して坐禅を組み、ゆっくりと呼吸することで、心が落ち着いて集中力が高まっていく。また、経典を一字一字書き写すことで、仏の教えがより感じられる「写経」体験も精神修養に効果がある。

【DATA】

  • 住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉大沢58
  • アクセス:JR平泉駅から徒歩10
  • TEL:0191-46-2331
  • 開館時間:8:3017:00115日〜34日は〜16:30
  • 定休日:無休
  • 料金:大人500円、高校生300円、小・中学生100
  • 坐禅・写経体験:どちらも一人から。3日前までに申し込みが必要
  • 多言語対応:HP…英語/中国語(簡体・繁体)/韓国語/タイ語、パンフレット…英語/中国語(繁体)/韓国語、施設内案内表示…英語、音声ガイド(音声ペン)…英語/中国語(簡体)/韓国語/フランス語/ドイツ語/スペイン語

●周辺情報

お休み処 松風庵

名物のもりそば700円毛越寺の境内、山門近くにある「お休み処 松風庵」では、絶品のそばや甘味が味わえる。北海道と山形の玄そばを丁寧に挽いて打ったそばは、香りが豊かでのどごしも爽やか。団子やわらび餅などの甘味もおいしいので、抹茶とともに楽しもう。

【DATA】

  • 住所:岩手県西磐井郡平泉町平泉大沢58 毛越寺境内
  • アクセス:JR平泉駅から徒歩10
  • TEL:0191-46-2331(毛越寺)
  • 営業時間:10:0015:00
  • 定休日:無休
  • 料金:もりそば700円、団子・抹茶セット500円、わらび餅・抹茶セット500
  • 多言語対応:HP…英語/中国語(簡体・繁体)/韓国語/タイ語 

取材・文・写真=シュープレス
(バナー写真=極楽浄土を表現した毛越寺浄土庭園)

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