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2018/8/7

上国料勇『Purus Terrae浄土』:大徳寺真珠庵「襖絵プロジェクト」絵師紹介(1)

一休さんゆかりの寺「大徳寺真珠庵(しんじゅあん)」(京都市北区)で、400年ぶりとなる襖絵(ふすまえ)制作が行われている。その歴史的事業に挑む現代絵師6人の作品と制作風景を、真珠庵に住み込む映像作家が紹介していく。第1回はイラストレーターで、ゲーム『ファイナルファンタジー』のアートディレクターを務めた上国料勇(かみこくりょう・いさむ)さん。

「まだ100カ所は直したい」「完成は60歳」

真珠庵に書生として居候している筆者が夕方の作務(さむ)から本堂に戻ると、蚊取り線香の匂いがツンと鼻を突く。「ああ、まだ描いているんだな」と思って客間をのぞくと、やはり上国料さんが下を向いて黙々と筆を動かしている。一般公開に向けたパンフレット用の写真を担当するカメラマンも、終わる気配のない創作の様子を見ながら、どのタイミングで撮った写真を使うべきなのか決めかねている。

世界的な大ヒットゲーム「ファイナルファンタジー」のアートディレクターを務めた上国料さんは、東京の座禅会で真珠庵の山田宗正住職と知り合った。住職からは「未来の観音菩薩」というテーマを与えられ、2017年秋に襖絵の制作に取り掛かった。本堂「礼の間」の8面の襖絵は、一般公開が1カ月後に迫った8月に入ってもなお「完成」には至っていない。

本堂「礼の間」に飾られる上国料勇『Purus Terrae浄土』

上国料さんの制作現場は時として驚くほど華やかになる。「EXILE」のダンサー2人を真珠庵に招き、パフォーマンスを披露してもらったこともある。襖絵の風神・雷神が躍動しているのは、プロのパフォーマーの動きを写し取っているからにほかならない。

また、ある時は、住職と一緒に行ったバーの美しい女性スタッフに、観音菩薩のモデル役を依頼した。さらには、ともに襖絵制作に取り組んでいる「新世紀エヴァンゲリオン」のプロデューサー山賀博之さんをモデルにして不動明王を描いているのだ。神々に宿る独特の生命観と宇宙にもつながるようなスケール感は、必ずや、見る者を引き込むに違いない。

だが、華やかなのはほんの一瞬のこと。上国料さんは、今日も1人、気難しい面持ちで襖絵に手を入れている。「まだ100カ所は手直ししたい」そうだ。48歳になったばかりだが、「完成のめどは60歳くらいかな」と遠くを見てボソッとつぶやく。

客間で襖絵の制作をする上国料さん

絵師としてのプライド、そして使命

今では押しも押されもせぬ超一流のアートディレクターにも下積み時代はあった。20歳代の頃は、日の目を見ることなく、悔しさから泣きながら絵を描いていたという。

「自分の絵は世界で一番だと思ってた。だから世間に認められないはずがない」

「若い頃の話だけどね」と前置きをしつつ、そんなことを語ってくれた。

アルバイトで生活費を工面し、食事は二の次にして絵の具を買い込み、ひたすら描き続けた。コンペに出品して賞をもらうこともあったが、本当に「絵で食べられる」ようになるには、10年ほどの年月を要した。

「絵描きとしての才能をもらっておきながら、それを世の中へ還元しないなんて、ただのばか野郎ですよね」

山賀さんがモデルとなった不動明王を仕上げていく

上国料さんが言う「才能の還元」という言葉からは、「自らに与えられた使命」ともとれる覚悟が伝わってくる。自信家ではあるが、傲慢(ごうまん)さは感じない。ストイックに自らの作品に向き合い、襖絵と格闘する姿からは、絵師として一切の妥協を許さない、息が詰まるほどのプライドを感じる。

少し意地悪な質問をしてみた。「『若い頃は』とおっしゃいましたが、本当は今も自分の絵は世界で一番だと思っていらっしゃいませんか?」と。アハハと笑うばかりで、返答はうやむやにされてしまった。その答えは観賞する者に委ねましょう、ということかもしれない。

歴史ある寺と調和する「未来の観音菩薩」

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写真=浅野 敏(襖絵)、角田 龍一(制作写真)

大徳寺真珠庵 特別公開

  • 住所:京都府京都市北区紫野大徳寺町52
  • 拝観期間:201891日~1216日 ※1019日~21日は休止日
  • 拝観時間:午前930分~午後4時(受付終了)
  • 拝観料:大人1200円、中高生600円、小学生以下無料(保護者同伴)未就学児は書院「通僊院」と茶室「庭玉軒」の見学は不可
  • アクセス:「京都駅」から地下鉄烏丸線に乗り、「北大路」で下車。「北大路バスターミナル」から市バス1101102204205206系統で「大徳寺前」下車し、徒歩約7分。(所要時間:約35分)
  • 「大徳寺真珠庵 特別公開」公式ホームページ
  • 京都真珠庵クラウドファンディング