【じゃがいもの花】ライカ北紀行 —函館— 第4回

中学生のころ、トラピスチヌ修道院の丘をこえて岩魚釣りに出かけたが、砂利道の急で長い登り坂に顎をだした。じゃがいも畑がひろがる修道院裏手の草地にごろっと横になり、寝入ってしまった。

このまま帰るのも癪だと、ぐらぐらと揺れる自転車のうえに立ちあがって、塀ごしに修道院のなかを不遜にもちらりとのぞいてみた。お祈りなのか、昼寝なのか、修道女の姿はひとりも見えない。そこには、畑がうねり、じゃがいもの白い花があたり一面に咲いていた。因みに、品種により淡い紫の花もある。

ようこそ、と慈しみの聖母マリア(2018)

『大和古寺風物誌』で知られる函館生まれの文芸評論家、亀井勝一郎。彼は、古里を懐かしんで『函館八景』の一つに「修道院の馬鈴薯の花」を選んだ。「馬鈴薯の花には健康な田舎乙女の溌溂さと清純さが感ぜられる……粗野のようにみえて、決して粗野でない……女子修道院の農場で激しく働いている若い修道女と馬鈴薯の花はどことなく似ている」と亀井は語っている。

王妃マリー・アントワネットはヴェルサイユ宮殿の窮屈な生活をさけて、庭園奥に農家の小さな集落をつくり、ときには農婦姿になるなど、安らぎとくつろぎの空間に身をひたしていた。じゃがいもの素朴で清楚な花を、夜会のときにしばしば髪飾りにしたという。

受胎告知(壁面のレリーフ)

●道案内
函館バス「トラピスチヌ入口」下車 徒歩5分(地図

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