【市電】ライカ北紀行 —函館— 第7回

現役最古参の市電は、いまだに窓枠が木製だ。この製造から65年ほどの車両に乗れば、高校生のころの我が姿が目にうかぶ。

朝は、イワシの缶詰みたいにぎゅうぎゅうの電車で登校。帰りは裏道を歩き、試験の出来がわるいと下駄を空に放り投げ、ときには垣根ごしに女子高のテニスコートを横目に、ぶらぶらと家路についた。

青柳町電停

函館名物の大火、鮭鱒の北洋漁業、イカ釣り、青函トンネル開業にともなう青函連絡船の廃止、函館山の自然と開発、赤レンガ倉庫の再生、北海道新幹線の開通……港町の栄枯盛衰を見守りつづける市電は、6年まえ、開業100周年をむかえた。お祝いの日、明治末期に製造された元チンチン電車の「箱館ハイカラ號」は、色とりどりの造花でかざられ大正時代の花電車のようで、市民の喝采をあびた。

今年も「さあさ 浮いた 浮いた 踊りゃんせ 踊る心はやっこらせのせ 波まかせ 波まかせ」と、電飾で彩られ、ハッピ姿の運転士が操る電車が、街をめぐって港まつり本番をむかえる。昔の如く、ハチ巻き姿の子供たちが太鼓をたたき、三味線を手にした芸者衆が花電車のうえで笑顔をふりまけば、往時の港町を彷彿とさせるのだが……。

ささら電車

大雪の市電

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