【踊る縄文人】ライカ北紀行 ―函館― 第70回

30年まえ、函館の市街地から30分、津軽海峡をのぞむ「戸井貝塚」から縄文の骨角器が発掘された。

戸井貝塚出土品(有形文化財・市立函館博物館所蔵) 撮影 :小川忠博
戸井貝塚出土品(有形文化財・市立函館博物館所蔵) 撮影 :小川忠博

釣り針、貝を加工した腕輪などの装飾品、海に漕ぎだした小舟をかたどった舟形の土製品も出土、4千年まえの縄文時代後期の生活が目に浮かぶ。 

そのなかで、エゾ鹿の角から作られ、体に沢山の穴が開けられた人型の角偶(かくぐう)が、損傷もなく完全な形で世に現れた。

エゾ鹿の角で出来た角偶。大きさは5センチほど(有形文化財・市立函館博物館所蔵)
エゾ鹿の角で出来た角偶。大きさは5センチほど(有形文化財・市立函館博物館所蔵)

この角偶を一目見たとたん、想像がふくらんだ。

縄文人がモダンジャズを踊っている!  ピアノを弾いているのは、オスカー・ピーターソン?

時は縄文の世――戸井の対岸、津軽海峡をはさんだ下北半島の方角から、今日も朝日がのぼり一日が始まった。

波もおだやか。皆で力をあわせ舟をだし、釣り糸をたらすとたちまちにして釣れる。サケの入れ食いだ。時には、マグロが浜に押しよせ、こん棒でたたいて仕留めることも。事実、明治と大正のころ、マグロの大群が戸井の浜に押し寄せ、なぎさ近くまで突っこんだこともある。

陽がかげりはじめ、浜辺の一段と高い平らな空地に集まり、今日の恵みを太陽に感謝しようと車座になった。エゾ鹿の皮を張った太鼓をたたき、円陣をくんで踊りに踊る。生きるだけの毎日から解放され、自然とともにゆとりある暮らしであった。 

角偶は、体を左にかたむけつま先をたて、太鼓にあわせて脚でリズムをとっている。まさに、オスカー・ピーターソンの名演奏「A列車で行こう」。 

縄文の世から変わらぬ営みが続く戸井の浜。対岸は青森県下北半島の大間。海峡をはさんでわずか18キロの距離だ(2021)
縄文の世から変わらぬ営みが続く戸井の浜。対岸は青森県下北半島の大間。海峡をはさんでわずか18キロの距離だ(2021)

●道案内
戸井の浜 函館市街から車で30分(地図へ

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