【幻の津軽そば】かね久山田 ライカ北紀行 ―函館― 第86回
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津軽そばの旨さを味わうために、いつも「かけもりセット」を注文する。それにご飯も。
道内の幌加内で採れたソバを手打ちする。水でふやかした大豆をすり鉢で50分ほどすりおろした呉汁(ごじる)をつなぎにつかう。
これが津軽そばの特徴。コシがあり、大豆の甘みがほのかにする。ウルメイワシの丸干しでとったダシは、くせがないが深みがあり、甘みと香りがたってそばとの相性が良い。
津軽そばを全国に伝え歩いた職人が、大正のころ、東京以北で最大の都市で賑わっていた函館の末広町に落ちつき、そば屋を開業した。
その味に惚れこんで今の店主・中村さんの祖父が、職人に教えを乞い、雑貨店の片隅で振る舞ったのが「かね久山田」の始まり。1918(大正7)年であった。それから、そばの打ち方を頑固に守り伝えて100年あまりの月日が流れた。
函館山のふもと、銀座通りの現在地にそば専門店をかまえてから88年。祖父、祖母、母、そして四代目・中村るみ子さん。そば打ち50年あまりとなる。

「かね久山田」四代目の中村るみ子さん。初代が師匠から譲り受けた百年物の蕎麦包丁を今も使う(2020)
2年まえ、乳がんと診断され店をいったん閉めたが、がんを克服して常連の声にはげまされ、ふたたび店をあけた。仕込みを半分ほどにおさえ、週末3日間のみ営業している。以前にもまして、そばを打つ喜びが大きくなった、という。
そばを打ち終わった四代目が笑いながら「私が子供のころ、常連だった西野さんのお父さまに、お小遣いをもらったのよ」と。
そば打ちに手がかかる津軽そばの専門店は、発祥の地・津軽から姿を消して久しい。
弘前で復活の動きもあるようだが、未だ「幻の津軽そば」といわれている。わざわざ津軽から海を渡ってくるそば好きもいる。
●道案内
かね久山田 市電「宝来町」下車、徒歩2分(地図へ)

