
祝儀の相場やタブー…「結婚式」参列の心得:歴史は浅いが独特の慣習がいっぱい
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皇室にあやかった挙式スタイル
結婚式は新郎新婦が永遠の愛を誓う儀式。日本では2部制にして、親族やごく親しい友人だけが式に参列し、その後、大勢の友人・知人を招いて披露宴を催すケースが多い。
和装の結婚式では、新郎は最も格式の高い黒紋付き羽織に白黒ストライプの袴(はかま)を着る。何ものにも染まらない黒は威厳の象徴であり、一家の長となる覚悟を感じさせる。一方、新婦は白無垢(むく)を身にまとう。新たな家庭の担い手へと生まれ変わることや、嫁ぎ先の色に染まる決意を象徴するものとされた。ジェンダー平等の時代にそんな決意は不要だが、一生に一度の記念にと白無垢を着たい女性もいる。
婚礼衣装は室町時代の武家からの伝統である。しかし、神の前で契りを交わすスタイルは、意外と歴史が浅い。
明治時代まで新郎新婦のお披露目の場は、宗教とは無縁の「祝言(しゅうげん)」がほとんどだった。一族または集落の長が取り仕切り、新郎宅に集まった親類縁者が2人の門出を祝福した。そもそも「冠婚葬祭」と呼ぶ成人、結婚、葬送、先祖供養は民間の儀礼であり、コミュニティーに人生のシフトチェンジを知らせるイベントなのだ。
現代的な結婚式のルーツは1900(明治33)年、大正天皇が皇太子時代に宮中で執り行った婚儀。これにあやかって東京大神宮で一般の神前式が始まったが、その手本が小笠原流の武家礼法だった。最も重要な「三献の儀(式三献)」は、新郎新婦が酒盃(しゅはい)を酌み交わす「三々九度」として、簡易形式ながら現代に受け継がれている。
なお、当時の皇太子夫妻は成婚後、ご先祖への報告のために伊勢神宮や各地の天皇陵を行啓した。その模様が庶民に伝わり、挙式後のハネムーンへと発展した。
三々九度の由来は、日本の創生神イザナギとイザナミの婚儀にある PIXTA
現在の主流は、キリスト教のウエディングにならい戦後に広まった教会式。その次に人気なのが、参列者に対して夫婦の契りを誓う人前式だ。これを現代版の祝言だと考えれば、いかにも古風な神前式よりも歴史が古いスタイルといえる。
言葉と身だしなみのタブーに注意
結婚式の招待状は数カ月前には到着する。主催者側は早めに参加人数を把握して準備を進めたいので、速やかに返事を出そう。
返信にメッセージを添えるなら、夫婦の「別れ」や「終わり」を連想させる忌み言葉に注意を。「日々」「ますます」「いよいよ」などの重ね言葉も、繰り返しが再婚の意味につながるので避けること。これらは「言霊(ことだま)」といって、言葉が現実に影響するという一種のまじないに基づく習俗だ。
結婚にまつわる忌み言葉の例
- 別・分=わかれる
- 切=きる
- 離=はなれる
- 去=さる
- 終=おわる
- 冷=さめる
- 絶=たえる
- 縮=ちぢむ
- 短=みじかい
- 忘・忙=「亡(なくなる)」を含む漢字
※大切なのは祝意を伝えること。本番でうっかり口をすべらせても慌てないように
服装は新郎新婦との関係次第。モーニングやイブニングドレスなどの正礼装、タキシードやフォーマルドレスなどの準礼装は、ホスト側の親族が着用するもの。友人・知人は、ダークスーツやカジュアルワンピースといった略礼装、年配者なら準礼装でもOKだ。招待状に「平服でお越しください」とあっても普段着ではなく、略礼装でおめかしを。
洋装のドレスコードは国際基準と大きな違いはないが、大事なのは主役より目立たないこと。主役の装いである純白は避けよう。男性ならダークスーツに白タイ1本あれば事足りるが、女性の場合は小物にいたるまでNGが多め。本番までの数カ月、知人に相談したりファッション誌とにらめっこしたりして、おしゃれな装いで参列しよう。
NGな装いの例
- 花嫁より目立つ=派手なアクセサリーなど
- 弔事を連想させる=黒ネクタイ、黒ワンピース、黒ストッキングなど
- 殺生を連想させる=動物柄、爬虫(はちゅう)類素材など
なお、外国出身者が民族衣装を着るのも“主役より目立つ”ので避けた方がよい。ただ、カジュアルな宴席ならOKかもしれないので、あらかじめ主催者に相談を。日本の伝統衣装である和装の場合、礼装の格を見分けることや着付けが難しいので、着物店に相談するといい。
引き出物は「祝儀へのお返し」ではない
結婚祝いとして任意の金額を贈る「祝儀」は現代の慣習。かつての結婚祝いは、新婚生活で必要な物品を挙式前に贈る“現物支給”で、現金を式当日に持参するようになったのは、ホテルウエディングが主流になった高度成長期から。挙式準備で忙しい新郎新婦に手間をかけさせず、好みの品を自由なタイミングでそろえられるようにとの気遣いでもある。
多額になる挙式費用の足しにするため、友人・知人なら相場は3万円から5万円、年配の親族はより多めの額を。カップルやファミリーで招待された際には、人数に応じて上乗せする。ローカルルールもあるので、他の出席者とすり合わせするといい。
仕事関係者など知人に招かれる機会が多いのは、披露宴からであろう。ほとんどは着座式で親族、同僚、友人など関係に応じてテーブルが分かれ、指定された席に座る。2、3時間ほどのパーティーは主役2人のセレモニー、両家の親や上司等の祝辞、友人の余興など催しがめじろ押し。コース料理を楽しむうちに終わり、夜にカジュアルな2次会を設けることも多い。
定番会場は結婚式場やブライダルホテル。チャペルや神道式の神殿と、宴会場が一体になっている PIXTA
帰り際、新郎新婦から出席に感謝するメッセージと一緒に「引き出物」をもらうこともある。かつては婚礼料理のうち、タイや伊勢エビなどのメインディッシュには箸を付けず、折り詰めにして持ち帰る習慣があった。これが記念品に変化したのが引き出物だ。
ひと昔前は生活用品が主流だったが、昨今は好きな物を選べるギフトカタログが定番となった。紅白まんじゅうや焼き菓子といった「引き菓子」とセットのこともある。
引き出物は荷物にならないようにと、後日宅配することもある PIXTA
引き出物はあくまで新郎新婦からの「喜びのおすそ分け」。結婚祝いへのお返しは、縁起の悪い“繰り返し”につながるので、古くはなかった風習である。中身を見て「包んだ金額の割には…」と考えるのはお門違いだ。祝儀は参加費ではなく、喜びを込めて贈るものだから、会費制の場合でも別に用意してあげたい。
監修:柴崎直人(SHIBAZAKI Naoto)
岐阜大学大学院准教授。心理学の視点で捉えたマナー教育体系の研究を専門とし、礼儀作法教育者への指導にも努める。小笠原流礼法総師範として講師育成にも従事。
文=ニッポンドットコム編集部
バナー写真:PIXTA