自然の神秘に包まれた祈りの空間・ガンガラーの谷:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(15)
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「性の象徴」に似た鍾乳石が祈りの対象に
沖縄県南城市を流れる雄樋川流域には多くの石灰石洞穴が点在している。その一つが数十万年の間に崩れてできたガンガラーの谷には、約4万8000平方メートルもの太古の森が広がる。谷への入り口になっている巨大な洞窟は「サキタリ洞遺跡」と呼ばれ、現在も発掘調査が続く。世界最古の約2万3000年前の釣り針をはじめ、土器片や人骨など数々の出土品は数万年にわたる営みを物語る。
洞窟を抜けて亜熱帯の森へ入り雄樋川に沿って進めば、この谷が太古の暮らしの痕跡を残すだけでなく、連綿と続く祈りの空間だと気付く。例えば、川を挟むようにある二つの洞窟は古くからの聖地。天井から乳房の形をした鍾乳石が垂れ下がる「イナグ洞」は良縁や安産、男性器を思わせる鍾乳石が連なる「イキガ洞」は命の誕生と成長を願う拝所である。神社のような建造物はないものの、聖なる谷そのものに祈りがささげられ続けている。
洞窟跡の崖に根を張る「谷の主」
さらに森の奥へと進むと、洞窟が崩れ落ちた痕跡をとどめる空間に出た。崖には、無数の気根(空気中の水分や酸素を吸収するために、幹や枝から生える根)を垂らす巨木が立っている。谷の主と称される「大主(ウフシュ)ガジュマル」だ。樹齢は約150年、樹高は20メートルに及び、近くで見上げるとその迫力に圧倒される。
気根はアスファルトやコンクリートも突き破るほど力強く伸び、支柱根に成長すればやがて幹と区別がつかない太さになる。生命力と威厳に満ちたその姿は、人知を超えた自然を前に太古の人々も祈りをささげざるを得なかったと想像させる。

岩壁から巨木が見守る祈りの空間 撮影=大坂 寛
ガンガラーの谷
- 住所:沖縄県南城市玉城前川202
料金や予約方法などの詳細は「ガンガラーの谷」公式サイトを参照
鍾乳洞の崩落で生まれた珍しい自然地形に触れながら、人類史や信仰文化を学べるガンガラーの谷は、予約制のガイドツアーでしか足を踏み入れられない人気観光スポット。隣接するテーマパーク「おきなわワールド」と併せて旅程に組み込めば、沖縄の歴史と文化、そして豊かな自然を一日で満喫できる。
出発地点となるカフェのある洞窟は、旧石器時代の人骨などが出土したサキタリ洞遺跡。その神秘的な雰囲気は、ツアーへの期待感をさらに増幅させる。所要時間は約1時間20分。太古の森を巡りながら、ガイドから発掘成果や研究内容についての解説も聞けるので、遺跡探索しているような気分が楽しめる。
鍾乳石が生み出すダイナミックな自然、有史以前からの歴史、祈りの文化が積み重なったガンガラーの谷は、静けさと発見に満ちた「歩いて体感する博物館」といえる。

サキタリ洞遺跡の入り口付近は、ツアー参加者が利用できる「ケイブカフェ」になっている 撮影=大坂 寛

谷の巡路は南洋の樹木に覆われ、太古の森を思わせる 撮影=大坂 寛
取材・文・編集=北崎 二郎
バナー写真:ガンガラーの谷にそびえる大主ガジュマル 撮影=大坂 寛

