モノクローム巡礼

琉球の古社・波上宮が鎮座する巨岩:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(16)

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神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は、古くから海のかなたの神々に祈る場であり、沖縄総鎮守の波上宮(なみのうえぐう、那覇市)が立つ巨岩を訪ねる。

ニライカナイに通じる浜辺の聖地

那覇空港からほど近い海岸に、浜辺から海へと突き出す巨大な岩がある。その上には、地元で「なんみんさん」と親しまれる波上宮(なみのうえぐう)が鎮座する。琉球王国(1429-1879年)で最上位の官社であったが、創建がいつ頃なのかは定かではない。

そもそも波上宮ができる以前から、この巨岩は祈りの場であった。浜辺を歩いて崖下へ近づくと、長年荒波に削られて大きくえぐれている。一見すると岩がむき出しで殺風景だが、よく見れば祭壇らしきものが置かれ、近寄りがたい厳かな雰囲気が漂う。古来、琉球の人々は海のかなたにある神々の住む理想郷「ニライカナイ」から、豊穣や幸福、命がもたらされると信じてきた。この巨岩の端は「竜宮」と呼ばれる拝所で、ニライカナイに通じているとされる。今でも女性らが拝所を巡り、地域の発展や家内安全、無病息災などを願う行事が受け継がれ、竜宮でも手を合わせる。

琉球王国時代には、日本本土をはじめ中国、朝鮮、南方との交易が盛んになり、那覇港が発展していく。その頃には波上宮が信奉を集め、出入りする船は巨岩に向かって航海の無事を祈った。また、琉球に居留する異国の人々は、崖の上で故郷の方角に香炉を置いて祈りをささげたという。

現在は崖の前の海上に「波の上橋」が架かっている。橋の欄干にもたれて眺めれば、青い海に巨大な岩塊が力強く突き出し、その上に立つ社殿は天守のようだ。琉球王国時代に「花城(はなぐすく)」とも呼ばれたこの巨岩は、海に向かって王国の威厳を示す城であり、まさにニライカナイへの祈りをささげる第一の聖地に感じられた。

海に臨む断崖は古来の聖地 撮影=大坂 寛

海に望む断崖は古来の聖地 撮影=大坂 寛

波上宮

  • 住所:那覇市若狭1-25-11
  • 御祭神:伊弉冉尊(いざなみのみこと)、速玉男尊(はやたまをのみこと)、事解男尊(ことさかをのみこと)

琉球王朝期に日本の熊野信仰の神をまつった古社。海上安全や豊漁豊作、子孫繁栄などで信奉される。鮮やかな朱色の社殿やシーサーのこま犬は沖縄らしさを感じさせ、市内唯一のビーチに面したロケーションからも観光客に人気が高い。

本殿がそびえる琉球石灰岩の崖は、創建以前からのニライカナイ信仰の拝所。また、崖の洞穴からは14~16世紀頃の人骨が出土しており、墳墓だったと考えられている。琉球の民間信仰と本土の神道が交わった祈りの場といえる。

竜宮と呼ばれる拝所。ニライカナイに通じていると信じられてきた 撮影=大坂 寛
竜宮と呼ばれる拝所。ニライカナイに通じていると信じられてきた 撮影=大坂 寛

波上宮は琉球王府の信仰もあつく、毎年正月に国王自ら参拝した 撮影=大坂 寛
波上宮は琉球王府の信仰もあつく、毎年正月に国王自ら参拝した 撮影=大坂 寛

「波の上橋」から見た波上宮の全景 撮影=大坂 寛
「波の上橋」から見た波上宮の全景 撮影=大坂 寛

取材・文・編集=北崎 二郎

バナー写真:波上宮が鎮座する巨岩 撮影=大坂 寛

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