モノクローム巡礼

弘法大師“一夜橋”伝説が残る「橋杭岩」:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(21)

Images 環境・自然・生物 文化

磐座(いわくら)や神奈備(かんなび)などと呼ばれ、神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は、紀伊半島南端の岸から沖へ真っすぐに並ぶ、世にも珍しい岩礁群を訪ねる。

大小の岩塔が海上に列を成す奇跡の景観

和歌山県串本町の海岸に「橋杭岩(はしぐいいわ)」という岩礁群がある。沖に浮かぶ紀伊大島の方向へ、大小約40の巨岩が一直線に並び、全長は約850メートルにも及ぶ。点々とそびえる岩柱が、まるで橋桁が崩落した橋脚(橋杭)のように見えるのが名の由来で、国の名勝および天然記念物に指定され、吉野熊野国立公園の一部となっている。

この独特の景観は、約1500万年前の火山活動と長い年月の海食作用によって形成された。地下から上昇したマグマが泥岩層の真っすぐな亀裂に入り込んで固まった後、柔らかい泥岩層が波で削り取られ、硬い火成岩だけが一列に残ったというわけである。

特異な形状をもつ巨石の多くは、古代より信仰の対象になってきた。圧倒的な自然の造形に、人々は神聖さを見いだし、神の依代(よりしろ)としてあがめた。この場所でもいにしえの人々は、巨大な岩礁群に海の安全や大漁の祈りをささげてきたのであろう。崇拝のかたちは時代とともに変わり、岩礁群の半ばにある弁天島には祠(ほこら)と鳥居がつくられ、陸地に接する元島には稲荷神社が鎮座している。

この神秘的な奇景には、いくつかの民間伝承も残されている。そのなかに、弘法大師(空海)と天の邪鬼(あまのじゃく)が「一晩で対岸の大島まで橋を架けられるか」という賭けをする話がある。大師が法力をもって次々に岩の橋杭(橋脚)を立てていったが、あまりの早さに慌てた天の邪鬼が朝告鳥(あけつげどり=ニワトリ)の鳴き声をまねて夜明けを偽装した。そのため大師は作業を中止し、橋杭だけが残ったという。

橋杭岩は時間帯や潮位、天気などによってさまざまな姿を見せてくれる。壮大な伝承話をも信じてしまいそうなほど、異形の景観美に圧倒されるだろう。

高さ10メートルもある奇岩が林立 撮影=大坂 寛

高さ10メートルもある奇岩が林立 撮影=大坂 寛

橋杭岩

  • 住所:和歌山県串本町鬮野川

本州最南端・串本町にある橋杭岩は、大小の岩柱が海岸から沖へと一直線に並ぶ名勝。約40ある岩礁は太古の火山活動で生まれた火成岩で、元々は板状の一枚岩だったが、波食作用により削れて現在の姿になった。分離した1000個以上の岩石が陸地側の潮干帯に散らばっており、巨大津波で流されたと推測されている。

風景は刻々と表情を変え、干潮時には岩礁群のほぼ中央にある弁天島まで歩くことができる。大小さまざまな奇岩を眼前にすると、ダイナミックな自然の営みに心奪われるだろう。特に日の出の名所として知られ、太陽を背にシルエットとなる奇岩の列が美しい。夜景も定評があり、例年秋には数日間、日没後にライトアップされて神秘的な雰囲気に包まれる。世界的にも珍しいジオサイトは、奇跡の絶景スポットとして観光客を引き付けてやまない。

一列に並ぶ岩の奥、緑に覆われた弁天島(中央右)には鳥居と祠がある 撮影=大坂 寛
一列に並ぶ岩の奥、緑に覆われた弁天島(中央右)には鳥居と祠がある 撮影=大坂 寛

稲荷神社、戎(えびす)神社、地蔵尊の3つの祠が祀(まつ)られる元島。高台から橋杭岩を見渡せる絶景ポイントである 撮影=大坂 寛
稲荷神社、戎(えびす)神社、地蔵尊の3つの祠が祀(まつ)られる元島。高台から橋杭岩を見渡せる絶景ポイントである 撮影=大坂 寛

橋杭岩近郊の古座川町にある「古座川の一枚岩」も約1500万年前の火山活動で生まれた。高さ100メートル、幅500メートルの巨岩で、国指定天然記念物である 撮影=大坂 寛
橋杭岩近郊の古座川町にある「古座川の一枚岩」も約1500万年前の火山活動で生まれた。高さ100メートル、幅500メートルの巨岩で、国指定天然記念物である 撮影=大坂 寛

古座川町にある「牡丹(ぼたん)岩」。高さ約10メートルほどの壁の一部には、風食作用により牡丹の花に似た大小の穴が生じた 撮影=大坂 寛
古座川町にある「牡丹(ぼたん)岩」。高さ約10メートルほどの壁の一部には、風食作用により牡丹の花に似た大小の穴が生じた 撮影=大坂 寛

取材・文・編集=北崎 二郎

バナー写真:紀伊半島南端の名勝「橋杭岩」 撮影=大坂 寛

天然記念物 名勝 写真 和歌山 空海