鹿児島 桜島:活火山と人々が共生する島で地球の鼓動を感じる

霧島錦江湾国立公園にある世界有数の活火山「桜島」は、鹿児島のシンボル的存在。この島と共にある鹿児島の人々の暮らしは、火山と人との共生として世界的に注目されている。地球の鼓動が間近に感じられる旅に出掛けよう。

活火山と都市が隣接する世界でも珍しい地域

鹿児島市街から約4キロメートル、錦江湾に浮かぶ周囲52キロメートルの桜島。この島にはなんと、約4500人が暮らしている。単体の山のように見えるが、実は北岳と南岳という2つの火山が南北に連なった複合火山である。最高峰の北岳の標高は1117メートルだ。桜島の誕生は今から約2万6000年前。大規模な噴火を17回繰り返し、現在の姿になった。かつては離島だったが、1914(大正3)年に起きた「大正噴火」で溶岩が海へ流れ出し、大隅半島と陸続きになったという。

2つの火山が南北に連なる桜島。鹿児島市方面から眺めると、横長でどっしりとした山容だ

桜島は、毎日のように小規模な噴火を繰り返している。時には、「ゴォーッ」という鳴動(めいどう)や爆発音が聞こえることもある。2017年には、火口から1000メートル以上の噴煙が上がる「噴火」が406回、震動や噴石を伴う「爆発的噴火」が81回記録されている。そのため、ちょっとやそっとの噴火では鹿児島の人は動じない。日常の一部なのだ。鹿児島市の人口は約60万人。これほどの規模の都市が、噴火活動を続ける火山の間近にあることは世界的にも珍しい。

桜島一帯は日本ジオパークにも認定されている

鹿児島市内には桜島のビュースポットがいくつかある。中でも人気なのが、市の中心部に位置する、標高107メートルの小高い丘「城山」だ。1877(明治10)年に西南戦争最後の激戦地となり、西郷隆盛が自決した場所としても知られている。城山展望台に到着すると、鹿児島市街や錦江湾の先に雄大な桜島が姿を現す。思わず見とれてしまうほど迫力満点だ。

絶景が広がる城山展望台。撮影スポットとしても人気を集めている

フェリーに乗って、桜島を体感するプチクルーズへ

鹿児島市街地から桜島へ渡るには、フェリーを利用するのが便利。鹿児島港と桜島港を結ぶ「桜島フェリー」が24時間体制で運航されている。利用率の高い昼間は、1015分おきに出航。乗船前の手続きなどは不要で、料金は船を下りてから運賃箱に160円(小学生以下は80円)支払う。バスや電車と同じように気軽に利用できるのが魅力だ。

1日往復140便が運航されている「桜島フェリー」。通勤や通学で利用している人も多い

鹿児島港から桜島港まで約15分。船上から錦江湾と桜島を眺めながら、短時間の船旅が楽しめる。「運が良ければ、錦江湾を泳ぐイルカの群れに出合えることもありますよ」と言うのは、桜島フェリーを運営する鹿児島市船舶局営業課主任の増山かおりさん。自身も毎日フェリーに乗り、桜島港内にある事務所まで通勤している。「季節や時間帯によって、桜島はさまざまな表情を見せてくれます。私のおすすめは夕暮れ時。山肌が赤く染まる様子は幻想的ですよ」と、桜島の魅力を語ってくれた。

鹿児島港から出航するフェリー。約15分の船旅が始まる

観光客の人気を集めているのが毎日1便運航されている「よりみちクルーズ船」(大人500円、小児250円)。通常のフェリー航路より南下し、“寄り道”しながら約50分かけて桜島を目指す。鹿児島港を出航後、海に浮かぶ「神瀬(かんぜ)灯標」や小さな無人島「沖小島(おこがしま)」の近くを通過。さらに、大正噴火で流れ出した溶岩が固まった「大正溶岩原」を間近に眺めながら桜島港へ。桜島や錦江湾が織りなす絶景をより楽しめるクルーズだ。

「よりみちクルーズ船で桜島の景色をじっくりお楽しみください」と増山さん

桜島港へ到着したら、まずは「桜島ビジターセンター」に立ち寄って桜島の情報を入手しよう。館内では観光案内の他、噴火の歴史やメカニズムなどを分かりやすく紹介する展示があるので気軽に立ち寄ってほしい。

桜島の情報ステーションとして気軽に活用したい

噴火映像コーナーでは、迫力満点の映像と音響によって噴火を体感できる。パネルや模型で楽しく学べるコーナーやシアタールームもあり、まさに桜島のことなら何でも分かるミニ博物館である。

噴火の臨場感を体験できる噴火映像コーナー

火山がもたらす豊かな恵みを体感しよう

休憩するなら「桜島溶岩なぎさ公園」がおすすめ。桜島や錦江湾、鹿児島市街を見渡せる絶景スポットであり、公園内には全長約100メートルの足湯を備える。地下1000メートルから湧出する赤褐色の天然温泉に足を浸しながら、のんびり景色を眺めてみてはいかが。

すぐ目の前に錦江湾が広がる「桜島溶岩なぎさ公園」の足湯

北岳の4合目にある「湯之平展望所」にも足を延ばしたい。島内で最も高い場所にある展望台で、噴火口を近くで見学できる。間近に迫る荒涼とした山肌に圧倒されること請け合いだ。

標高373メートル地点にある「湯之平展望所」

360度の大パノラマが広がる「湯之平展望所」。北岳を背にすると、錦江湾越しに鹿児島市街から大隅半島まで見渡せる。天気が良ければ、薩摩富士と呼ばれる薩摩半島最南端に位置する開聞岳(かいもんだけ)まで見えることも。夕暮れ時、太陽が薩摩半島の向こう側に沈んでいく様子は息を飲むほど美しい。

「湯之平展望所」から鹿児島市街を望む

桜島では縄文時代から人々が生活していたといわれる。噴火の被害を受けながらも人々がこの地で暮らし続けたのは、温暖な気候と火山灰の土壌がもたらす恵みがあったからかもしれない。北岳のふもとに広がる火山麓扇状地は水はけが良く、野菜や果物の栽培に最適という。世界一重い大根としてギネスブックに登録されている「桜島大根」や小粒で甘みの強い「桜島小みかん」などの特産品を中心に、良質な農作物がたくさん作られている。

「道の駅 桜島 火の島めぐみ館」で人気の「桜島小みかんソフトクリーム」(250円)は、口の中に爽やかな甘さが広がる。旬を迎える冬場には、桜島大根や桜島小みかんも販売される

取材・文=佐藤 史(ポルト)
写真=草野 清一郎
(バナー写真:城山展望台から桜島を望む)

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