東京・馬喰町「トレインホステル北斗星」:長年愛された寝台特急がホステルで復活

・27年間愛された寝台列車「北斗星」が人気ホステルに
・寝台ベッドだけでなく、方向幕や車号札、照明まで再利用
・親子3世代で宿泊する人も

人気寝台列車のパーツをフル活用

2015年8月、惜しまれつつも姿を消した寝台特急「北斗星」。1988年から東京・上野駅と北海道・札幌駅の間を片道16時間掛けて運行し、多くのファンから愛された豪華寝台特急である。その北斗星の車両が、現在はホステルとなって人気を集めている。

2015年8月23日、多くの人に見守られ、上野駅に到着したラストランの北斗星 写真=時事通信フォト

2016年12月に誕生した「トレインホステル北斗星」は、JR総武快速線「馬喰町駅」に直結している。JR東日本都市開発が買い取った築45年のオフィスビル内にあり、遊休施設の活用を手掛けるR.projectが宿泊施設として運営する。

JR関連会社がオーナーなだけに、廃止になった北斗星の車両部品が最大限に活用されている。ホステルに入ると、1階のエントランスに掲げられているのは北斗星の方向幕。鉄道ファンなら、まずここで感激するに違いない。

JR馬喰町駅に直結するビル内にある

方向幕を再利用したフロント。北斗星の車体デザインを模した左の壁は、フォトスポットとなっている

鉄道ファンにはたまらない仕掛けがいっぱい

ホステルは6階建て。2階はゲストルームとラウンジ&共用キッチン、3~5階がゲストルーム、6階がシャワールームやランドリーといった構成。2~4階は男女混合のドミトリールーム、5階は女性専用フロアとなっている(女性フロアは2018年10月に2階に移動する予定)。

号車札を利用したフロア表示の上に車両番号札がある

号車札を加工したフロア表示の横にあるドアを開けると、北斗星のB寝台で使われた2段ベッドが並ぶ。そして窓際には、A寝台「ツインデラックス」にあった机と椅子も設置されている。

ドミトリーの2段ベッド。窓際に設置されていた折りたたみ式はしごも再現している

ベッドの側面には、折りたたみ椅子が備えられた場所もある。友人同士でおしゃべりしたい時に便利なこの椅子も、ソファの背もたれを引くとベッドになる仕組みも北斗星そのまま。壁に設置されたはしごを使って2段ベッドの上に登り、カーテンを閉めれば「ガタゴト」という音が聞こえてきそうだ。

便利な折りたたみ椅子に座って談笑

「マットレスは当時の物を使用しています。ただし、横幅が70センチと少し狭かったので、快適に使っていただけるように10センチ広げました。でも、北斗星ファンはこの違いに気付くようで、『ちょっと残念』と言われることもあります(笑)」と、同ホステルのマネージャーの岡崎明子さん。

トレインホステル北斗星マネージャーの岡崎さん

3階と5階には1室ずつ「A個室」が設けられている。室内のデスクもベッドも読書灯も、北斗星のA寝台「ロイヤル」にあったもの。壁の上部が抜けているため完全なる個室とはいえないものの、上野から北海道まで3~4万円もした最高級寝台の世界がそこにある。

半個室となる「A個室」は、茶色が基調で高級感が感じられる

2本の取っ手が斜めに付けられた、トイレのドアにも注目したい。

「食堂車の入り口に付いていたドアです。普通のドアよりもサイズが少し小さいので、このドアに合わせてフレームを作りました」(岡崎さん)

通路の壁にも折りたたみ式の椅子が取り付けられ、客室のテーブルの下には昔ながらの栓抜きが据えられている。細かく見れば見るほど、鉄道ファンにはこたえられない発見があるホステルだ。

ドアには食堂車「グランシャリオ」のプレートも残っている

通路の壁に取り付けられた折りたたみ椅子。音こそ出ないが、埋め込み式のラジオも気分を盛り上げてくれる

幅広い宿泊客に愛される観光拠点に

下は5歳から上は80歳まで、利用者は日本人の鉄道ファンが多いという。

「5歳のお子さんは、もちろん保護者同伴です。宿泊後に『北斗星に乗った日記』をまとめてくれたのはうれしかったですね。昔、北斗星を利用したことがあるという方、乗ってみたかったけれどかなわなかったという方、いろいろな方がいらっしゃいます。3世代で来られるケースもありますよ」(岡崎さん)

外国人客の割合は30~40%と低めだが、着実に増えているそうだ。馬喰町は成田空港にも羽田空港にも行きやすく、コンビニとスーパーが近くにあって、自由に使える共用キッチンまで充実している。鉄道ファン以外にも受けるのは当然かもしれない。

グランシャリオのパーツをふんだんに使った共用キッチン。取材時には、インドからの観光客が自炊をしていた

そして、各フロアの廊下やエレベーター、トイレなどの空間を使って、写真展を開催するなど情報発信にも熱心だ。

「オーナーの親会社がJR東日本ということもあって、このホステルを東京と東日本地域をつなぐ観光拠点にしていきたいと思っています」(岡崎さん)

ふと通路の壁を見ると在りし日の北斗星の写真も飾られていた。ここに滞在した鉄道ファンから、「大事な写真ですが、ぜひ飾ってください」と寄贈されたものだという。多くの人に愛された優雅な寝台特急は、温かい空気が満ちたトレインホステルに生まれ変わり、さらにファンを増やしている。

宿泊客から寄贈された北斗星の写真

【DATA】

Train Hostel 北斗星

  • 住所:東京都中央区日本橋馬喰町1-10-12
  • Tel:03-6661-1068
  • アクセス:JR総武線快速「馬喰町駅」4番出口直結、都営浅草線「東日本橋駅」より徒歩3分、都営新宿線「馬喰横山駅」より徒歩3分料金:1泊 ドミトリー2段ベッド=2500円~ A個室=4500円~
  • 公式ホームページ:http://trainhostelhokutosei.com/

取材・文=三田村 蕗子
写真=コデラ ケイ

鉄道 観光 東京 関東 中央区 ホテル 宿 ホステル 寝台列車