「免の石」が落ちたら“猫”が出現!?:熊本・阿蘇の絶景パワースポット

数万年もの間、熊本県の阿蘇南外輪山にある岩壁の割れ目に挟まっていた奇岩「免(めん)の石」。まるで宙に浮かんでいるように見える神秘的な光景で注目を浴びていたが、熊本地震で落下。しかし、落石後の空洞が「猫の形に見える」と再び話題を集めている。

太古の森に迷い込んだような、道なき原生林を進む

東西18キロ、南北が25キロと世界有数の規模を誇る阿蘇カルデラを形成する、南外輪山の一角に「免の石」がある。約7万年前に起こった阿蘇山大噴火の際に飛来し、岩壁の割れ目に偶然挟まったと推測されるが、地元には「天を舞う龍が産み落とした卵」という伝説も残る。“難や災いを免じる(免れる)石”という意味から、その名が付けられたという。

神秘的な光景がパワースポットとして人気となり、免の石を拝むためのトレッキングツアーには、全国各地から多くの人々が参加。“決して落ちない”として、受験合格や就職活動成就の祈願に訪れる人も後を絶たなかった。

ところが2016(平成28)年4月、最大震度72度記録した熊本地震により、数万年もの間落ちることがなかった免の石が落下。他にも岩石の崩落や木々の倒壊など危険な箇所があることから、トレッキングは一時休止された。その後、地元の有志によって懸命のルート整備や復旧作業が行われ、8月にはツアーが再開。今度は免の石が落下した後の空洞が「猫の形に見える」と再び話題を集めている。

熊本地震で落石する前の「免の石」。今見ると、まるで猫の首にかけられた鈴のように、岩壁の間に挟まっていた

かつて免の石があった「猫の空洞」は、南外輪山の険しい山道を登った先にある。私有地を通る上、遭難する危険もあるので、個人での入山は禁止。訪れる前に必ず、案内人同行のトレッキングツアーに申し込みをしよう。予約当日は「道の駅 あそ望の郷くぎの」敷地内にある南阿蘇村観光案内所で受け付けを済ませ、案内人と顔合わせ。車で約10分の登山口へ移動してトレッキングの開始となる。

「道の駅 あそ望の郷くぎの」敷地内にある南阿蘇村観光案内所

最初は舗装された緩やかな登山道が続くが、途中から険しい“道なき道”に変化。まるで太古の昔に迷い込んだかのような原生林の中を進む。一帯にゴロゴロと転がる苔(こけ)むした巨岩も、はるか昔に阿蘇山の噴火活動で飛んできた凝灰岩だという。トレッキングは通年実施されているので、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色など、四季折々の光景が楽しめるのも魅力である。

手付かずの原生林や苔むした巨岩が神秘の世界へいざなう

トレッキングの案内人は、ただ猫の空洞までのガイドをしてくれるだけではない。野の花や樹木など、それぞれの得意分野に関する豊富な知識を道中に披露してくれる。ベテラン案内人の柏田勲さんは、現役時代にサバイバル訓練を積んだ元陸上自衛官。阿蘇の山々や自然に精通し、参加者を楽しませることを第一に考えている。

コース途中には、落石した免の石と出合うことができる。縦3メートル、横2メートルで、重さは推定約5トン。斜面を約50メートルも転がり落ちたものの、砕けることなくほぼ原形をとどめているとは、不思議なパワーを感じずにはいられない。“落ちない石”が落ちたのは、受験生や就活生の身代わりになったからだともいわれる。何万年も宙に浮かんでいた神秘の石に触れて、パワーやご利益を頂こう。

パワフルでサービス精神旺盛な名物案内人の柏田さん。気さくな人柄と豊富な知識で参加者を魅了する

約50メートルも転がり落ちた免の石。ここまで来たら、最終目的地の猫の空洞まであと少しだ

いよいよ洞窟で巨大な“猫”とご対面

登山口から約40分。岩壁に設置された急勾配の階段を上り、奥行きわずか数メートルの洞窟に入って振り向くと、ついに“猫”が姿を現す。空洞の輪郭がお座りをした猫のようなシルエットなのだ。眼下には雄大な景色が広がっており、まるで巨大な猫が南阿蘇を見守っているかのようである。免の石が無くなったことで、今度は「通る」「見通しが良い」などという意味で、引き続き受験や就活にご利益があるという人もいるとか。猫の空洞の北東方向には、猫にまつわる伝説が数多く残り、別名「猫岳」とも呼ばれる根子(ねこ)岳が見えるのも不思議な縁だ。

洞窟内から見ると、南阿蘇の広大な風景が猫のシルエットに縁取られて浮かび上がる

猫の空洞でパワーを充填(じゅうてん)した後は、近くの展望台へ。眼下には南阿蘇の美しい田園風景が広がり、開放感満点だ。その奥には、ギザギザとしたノコギリ状の稜線(りょうせん)が特徴の根子岳のほか、現在も噴煙を上げる世界有数の活火山である中岳、阿蘇最高峰の高岳など阿蘇五岳が一望できる。

展望台から南阿蘇の田園風景や阿蘇五岳を望む。眺めているだけで疲れが吹き飛ぶ絶景だ

展望台から来た道を慎重に下り、登山口に到着したらトレッキング終了。ここまでは所要時間約2時間の「往復コース」を紹介したが、体力と時間に余裕のある人は、ぜひ4時間かかる「周回コース」に挑戦してみてほしい。樹齢200年を超えるカエデやケヤキなどが点在し、高さ3メートル以上ある岩壁を登るなど、南阿蘇の豊かな自然とアドベンチャー気分をより満喫できる。

大木のツルにつかまって“ターザンごっこ”も体験できる周回コース

周回コースの後半に現れる大きな風穴。心地よい風が吹き抜ける

体力に自信がない人は「鳥の小塚公園」でパワーをチャージ

「険しい山道は登れない…」という人は、登山口にある「鳥の小塚公園」を訪れてみよう。もともと免の石の望見所として整備された場所で、一般の観光客も気軽に立ち寄れる散策スポットとなっている。遊歩道を進むと、小高い丘の上に免の石の記念モニュメントや絵馬所、地蔵菩薩(ぼさつ)と馬頭(ばとう)観音が祀(まつ)られた石室などがある。

登山口にある鳥の小塚公園

丘の上から南外輪山の稜線近くを見上げてみよう。目を凝らすと、岩壁に縦長の空洞が豆粒大で見える。今は猫の空洞で、かつて免の石が挟まっていた場所である。眺めるだけでも十分にパワーをチャージできそうだ。

南外輪山をよく見ると、縦長の空洞があるのが分かる

高台にある鳥の小塚公園は見晴らしも抜群。ベンチに腰掛けながら、阿蘇五岳を堪能できる

●免の石トレッキングコース

  • 申し込み・問い合わせ:みなみあそ村観光協会 TEL 0967-67-2222
  • 料金:免の石往復コース(約2時間)中学生以上2000円、小学生1000円 免の石周回コース(約4時間)中学生以上3000円、小学生1500
  • 出発時間:12回(午前10時、午後1時) ※往復コースは11月〜2月、周回コースは10月〜3月の期間は10時出発のみ
  • 申し込み受付:希望日の3日前までに要予約、2人以上(1人の場合は2人分の料金が必要)

猫の空洞から撮影した夕景

取材・文=佐藤 史(ポルト) 写真提供=みなみあそ村観光協会

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