マグロはトロだけじゃない! ホホ肉、中落ちなど「端材」に脚光:マグロマート&泉銀

日本人の魚食離れが進む中、旬の魚の水揚げも振るわず、築地時代から続く水産物取扱量の減少傾向は豊洲市場移転後も歯止めがかからない。そうした中、かつては廃棄されることもあった端材が注目されている。「希少部位」を有効利用する仲卸業者や飲食店、鮮魚店の取り組みを紹介する。

若者に人気の専門店「マグロマート」

マグロの希少部位に特化し、連日満員の料理店がある。東京都中野区にある「マグロマート」は、オーナーの平島瑠尉さんが「マグロの珍しい部位を、特に若い世代においしく手軽に味わってほしい」という思いで始めた店だ。

開店の午後5時から予約客がひっきりなしに訪れる。カフェ風のおしゃれな店内には、カップルや女性同士の姿が目立つ。

予約で席が埋まっていることが多く、飛び込みで入るのは難しいマグロマート
2フロアあるマグロマートだが、予約で席が埋まっていることも多い

カフェ風の店内は女性客に人気。壁にはたくさんのマグロのイラストが描かれる
カフェ風の店内は女性客に人気。壁にはたくさんのマグロのイラストが描かれる

平島オーナーと骨付きの中落ち
平島オーナーと骨付きの中落ち

マグロマート名物の中落ちは、豊洲で仕入れた生の本マグロ。骨ごとテーブルへ運ばれ、スプーンで身を削りながら食べる豪快なスタイルが話題となった。スマホで撮影してSNSにアップしてから味わう若者が多いそうだ。

スプーンで削って食べる「本マグロ中落ち」(時価、1880円~)。のりで巻いたり、ご飯にのせたりと、楽しみ方はいろいろ
スプーンで削って食べる「本マグロ中落ち」(時価、1880円~)。のりで巻いたり、ご飯にのせたりと、楽しみ方はいろいろ

中落ちをしのぐ人気メニューが、6種の部位を組み合わせた「マグロマート盛り」。定番の赤身と中トロに加え、脳天やアゴ肉、のど裏肉など聞きなれない部位が並ぶ。平島さんによると、希少部位の中にも赤身や中トロが含まれるそうで、「赤身はしっぽの方、中トロは頭の方の部位から切り出すことができる」と、ちょっとした企業秘密も明かしてくれた。

以前は、よそでは食べられない希少部位目当ての客も多く、丁寧に部位の特徴や食べ方を説明していた。客が増えた今ではそうした対応は難しくなったが、若い客の多くは単純に「安くておいしいマグロが食べられた!」と喜んで帰っていくという。

大人気の「マグロマート盛り」(1人前880円、注文は2人前から)。写真左から中トロ、赤身、天身(てんみ)、脳天、アゴ肉、のど裏肉。生でも、軽くあぶってもおいしい
大人気の「マグロマート盛り」(1人前880円、注文は2人前から)。写真左から中トロ、赤身、天身(てんみ)、脳天、アゴ肉、のど裏肉。生でも、軽くあぶってもおいしい

築地ではカラスの餌だった端材

マグロの希少部位とは、トロや赤身をサク取りした後に残った、いわば「端材」。頭部や中骨、ヒレや尾などに付いた身のことで、例えばマグロの頭部からは、カマや脳天、ホホ肉のほか、ゼラチン質の「目の裏」といった部位が取れる。太い中骨に付いた「中落ち」は、丼ぶりの具材としても使われることの多い、比較的メジャーな部位だ。ヒレや尾の周辺にある身も、少々手間をかけて切り出せばおいしく食べられる。

豊洲市場の仲卸店に並ぶ天然本マグロのトロが含まれたブロック
豊洲市場の仲卸店に並ぶ天然本マグロのトロが含まれたブロック

今でこそ希少部位と銘打っているが、豊洲市場(江東区)のベテラン仲卸は「景気の良かった頃、築地(中央区)ではマグロが飛ぶように売れ、1000万円の売り上げも珍しくなかった。そのため、サク取りした後の端材は、日々多くが捨てられていた」という。

その証拠に築地の通路の端では、マグロの頭や尾がごろごろ。人気がなくなる昼過ぎには、カラスの餌となることも少なくなかった。

旧築地市場の生マグロの卸売場。バブル期以降入荷は減少傾向
旧築地市場の生マグロの卸売場。バブル期以降入荷は減少傾向

豊洲仲卸や料理店も希少部位に着目

日本の新たな台所として2018年10月にオープンした豊洲市場で、こうした希少部位がもてはやされるようになったのは、魚の売れ行きが振るわないことが一因だ。

日本では2011年に国民1人当たりの水産物消費量が肉に追い抜かれ、その差は拡大する傾向にある。加えてサンマをはじめとする旬の魚の不漁が響き、旧築地市場時代から続く取扱量の減少傾向に、豊洲でも歯止めがかからない。

マグロについても御多分に漏れず、バブル期のような活発な取引はみられない。豊洲の集荷量が絞られる中、市場関係者は「今は量より質」と口をそろえる。競り落とされた生や冷凍マグロは仲卸店でさばく際、端材についても有効利用し、料理店や鮮魚店への提供の質を上げるように工夫する傾向が強まってきた。

豊洲市場のマグロ競り会場。築地時代から冷凍マグロの入荷も少しずつ減り続けている
豊洲市場のマグロ競り会場。築地時代から冷凍マグロの入荷も少しずつ減り続けている

経営が厳しいのは、すし店はじめ料理店でも同じだ。魚食離れが進む中、以前と同様にマグロの人気部位を仕入れて調理するだけでは、売り上げは伸びない。そこで「端材」が注目されるようになったのだ。中落ちや脳天、カマを安く仕入れ、手間をかけてでもメニュー化することで少しでも利益を上げようという店も増えてきた。

両者の思惑が重なったことで、豊洲仲卸では希少部位を切り分け、トロなどを仕入れに来る料理人に販売する。店頭では「刺し身用」「ステーキ用」「揚げ物に」「カルパッチョに」などと種類ごとにパック詰めにし、調理法を表示している例もあり、スーパーの店頭よりも親切なくらいだ。

仲卸の店頭で販売される、調理法が添えられたマグロの希少部位
仲卸の店頭で販売される、調理法が添えられたマグロの希少部位

マグロの有効利用へ、こだわりの店「泉銀」

マグロの希少部位に力を入れる町の魚屋もある。千葉県浦安市にある「鮮魚 泉銀(いずぎん)」は、豊洲市場からマグロを仕入れ、端材の利用にこだわりを持ち続けている老舗だ。

浦安魚市場内で営業していた泉銀の2号店として、2017年にオープンした堀江店。浦安魚市場の閉鎖により、現在はこちらの一店舗のみ
浦安魚市場内で営業していた泉銀の2号店として、2017年にオープンした堀江店。浦安魚市場の閉鎖により、現在はこちらの一店舗のみ

「森田釣竿」は芸名。ロックバンド「漁港」のボーカルとして活動する
「森田釣竿」は芸名。ロックバンド「漁港」のボーカルとして活動する

3代目店主の森田釣竿さんは、「日本の食文化を魚に戻し鯛」をスローガンに掲げて音楽活動もこなす異色の経営者。「マグロは工夫すれば、おいしく食べられる部位も多いため、細かく(調理法を)お客さんに教えながら、販売している」という。森田さんが推奨する希少部位の調理法はこうだ。

「カマは塩焼きか煮付け。ホホ肉はステーキがおすすめ。筋がある尾肉はから揚げやカレーなどがいい。表面の黒っぽい皮は、湯がいて千切りにし、酢みそで食べるとおいしい。腹の薄皮は、いいだしが出るから、お吸い物に最適」

値札にもアドバイスを表記するなど、きめ細かい対応で多くのリピーター客を獲得している。

泉銀では希少部位の加工品も販売している。写真は天然ミナミマグロの「尾肉もろみ漬け」
泉銀では希少部位の加工品も販売している。写真は天然ミナミマグロの「尾肉もろみ漬け」

こだわりの品ぞろえで、値段も安い。マグロと並ぶ泉銀名物・クジラにもファンが多い
こだわりの品ぞろえで、値段も安い。マグロと並ぶ泉銀名物・クジラにもファンが多い

マグロマート

  • 住所:東京都中野区中野5丁目50-3
  • 営業時間:月~土曜日=午後5時~11時15分(ラストオーダー)、日曜・祝日=午後4時~11時15分 ※日曜日が祝前日の場合は午後5時開店
  • アクセス:JR中野駅より徒歩6分、西武線新井薬師前駅より徒歩12分

鮮魚 泉銀

  • 住所:千葉県浦安市堀江3-25-1
  • 営業時間:月・火・金曜日=午前11時~午後5時30分、土曜日=午前8時~午後5時、日曜日=午前8時~午後2時
  • 定休日:水曜日
  • アクセス:東京メトロ・東西線「浦安」駅から徒歩12分

写真提供=川本 大吾
マグロマート写真=ニッポンドットコム編集部

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