阪神・淡路大震災の記憶に触れ、防災を学ぶ:神戸港震災メモリアルパーク&人と防災未来センター

異国情緒あふれる美しい港町・神戸は、四半世紀前の阪神・淡路大震災によって大きな被害を受けた街でもある。訪れた際には、震災の記憶や防災の大切さを伝える遺構や施設にも、ぜひ立ち寄ってほしい。

人気の観光都市であり、震災から力強く復興した街

ランドマークの神戸ポートタワーが立つメリケンパークでは、神戸開港150年を記念して2017年に設置された「BE KOBE」モニュメントに、いつも長蛇の列ができている。

「BE KOBE」は、阪神・淡路大震災から20年が経過したのを機に発信された、神戸のシビックプライド・メッセージだ。インタビューやアンケートなどで集めた市民の思いを表現した言葉だという。

開港地として西洋文化をいち早く受け入れ、日本文化と独自に融合させた神戸には、国際性や先進性、柔軟性、創造力を育む土壌がある。震災からの復興のために立ち上がり、結束して苦難も乗り越えた。そんな街に誇りを持ち、これからも神戸人らしく歩もうといった気持ちが込められている。

神戸のシンボル・ポートタワーの右下にある建物が、帆船と波をイメージしたという神戸海洋博物館
神戸のシンボル・ポートタワーの右下にある建物が、帆船と波をイメージしたという神戸海洋博物館

順番を待つ人がシャッターを押すのが「BE KOBE」モニュメントで自然発生したローカル・ルール
順番を待つ人がシャッターを押すのが「BE KOBE」モニュメントで自然発生したローカル・ルール

「BE KOBE」モニュメントの近くにある「神戸港 震災メモリアルパーク」では、被災したメリケン波止場の岸壁を約60メートル、当時の状態のままで保存している。傍らには、神戸港の災害状況や復旧の過程を伝える模型や映像、写真なども展示。震災の壮絶さと、復興への努力を感じることができる場所だ。

「BE KOBE」モニュメントの北東方向にある震災メモリアルパーク
「BE KOBE」モニュメントの北東方向にある震災メモリアルパーク

最初にメリケン波止場が造られたのは1868年。震災で地盤が沈下し、冠水した
最初にメリケン波止場が造られたのは1868年。震災で地盤が沈下し、冠水した

被災当時から復興するまでの模型や映像、写真パネルなども展示する
被災当時から復興するまでの模型や映像、写真パネルなども展示する

阪神・淡路大震災の遺構を巡る

1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災は、戦後日本で初めて都市部を襲った直下型大地震。神戸市街地では観測史上初の震度7を記録し、市内の死者は4751人、負傷者は1万5000人に迫り、全半壊建造物は12万棟以上、火災による損傷も7000棟を超えた。横倒しになった高速道路、倒壊したビルやマンション、市街地に広がる火災の映像に、全国民が大きな衝撃を受けた。

倒壊して横倒しになった阪神高速道路(神戸市東灘区) 時事
倒壊して横倒しになった阪神高速道路(神戸市東灘区) 時事

現在の神戸は、四半世紀前に大災害に見舞われたとは思えないほど、美しく再生している。しかし、震災の傷跡、そして防災の大切さを伝えるモニュメントや施設、建物が点在している。震災から復興した街であることを意識しながら巡ると、神戸のまた違った魅力が感じられるだろう。

例えば、神戸商船三井ビル。外国人が最初に住むことを許された地域、居留地を代表する西洋風の石積み建築である。震災では致命的な被害はなく、気品ある姿は健在だが、その裏側をのぞくと趣ががらりと変わる。隣のビルとの隙間に見えるのは、耐震補強のために組み上げられた極太の鉄骨フレームだ。その迫力ある姿からは、地震の脅威と、それに備えて歴史的建造物を守ろうとする努力が伝わってくる。

中央が神戸商船三井ビル。1922年に完成した
中央が神戸商船三井ビル。1922年に完成した

裏通りになる前町線からのぞくと、耐震フレームがビルを支えている
裏通りになる前町線からのぞくと、耐震フレームがビルを支えている

国道2号線の歩道には、損傷した浜手バイパスの橋脚や接合部材などのモニュメントがある。高速道路と同様に、国道でも高架橋などで大きな被害が出た。「安全で災害に強い道づくり」を推進するために、被災の姿を忘れぬようにと兵庫県国道事務所が設置している。

崩れたRC橋脚、大きく変形した接合部材が、地震の強大さを物語る
崩れたRC橋脚、大きく変形した接合部材が、地震の強大さを物語る

慰霊碑やモニュメントが集まるのが、三宮の幹線道路・フラワーロード沿いの東遊園地だ。神戸市役所の南に隣接するのだが、市役所の建物自体も震災のモニュメントといえる。

8階建てだった2号館は、激しい揺れによって6階部分が崩れてペシャンコになった。「もし発生時間が昼間だったら」と当時、何度も新聞やテレビで取り上げられた。その後、6階より上を取り除いて、現在も庁舎として活用しているが、この事実を知らなければ、ごく普通の役所の建物として通り過ぎてしまいそうだ。

6階部分が崩れた被災後の神戸市役所2号館 時事
6階部分が崩れた被災後の神戸市役所2号館 時事

5階までを再活用した、現在の市役所2号館
5階までを再活用した、現在の市役所2号館

公園北側にある金色のマリーナ像は、左腕に時計を抱いている。その針は5時46分を指して動かない。

地震で像は落下し、その瞬間に時計の針も止まった。像を復元する際に、時計は修理せずそのまましたという。かつては市民に時を告げていた女神が、震災の記憶をとどめるために悲劇が起きた時刻を見つめ続けていると思うと、その表情も悲しげに見える。

震災で台座が折れて倒れたマリーナ像
震災で台座が折れて倒れたマリーナ像

園内にはひび割れた遊歩道や波打ってしまった花壇など、いくつかの遺構が保存されている。ひときわ目を引くのが、市民の寄付で建造された「慰霊と復興のモニュメント」だ。犠牲者を慰霊すると同時に、震災を記憶し、復興の歩みを後世に伝える。地下は瞑想空間で、水の流れる天井のガラスから差す光が、震災の犠牲者の名前が刻まれた銘板を照らす。

遊歩道の脇に残された震災の爪跡
遊歩道の脇に残された震災の爪跡

緑豊かな公園になじむ、れんがと芝生、水の流れでつくられた「慰霊と復興のモニュメント」
緑豊かな公園になじむ、れんがと芝生、水の流れでつくられた「慰霊と復興のモニュメント」

地下にある瞑想空間には、優しい光が降り注ぐ
地下にある瞑想空間には、優しい光が降り注ぐ

「慰霊と復興のモニュメント」の傍らでは、「1.17希望の灯(あか)り」がともる。被災10市10町から運んだ火と、47都道府県から寄せられた火を合わせて種火としたという。碑文には「震災が残してくれたもの やさしさ 思いやり 絆 仲間」と刻まれるように、この場所では毎年1月17日に、市民団体やボランティアによって「阪神淡路大震災1.17のつどい」が開催される。

毎月17日にボランティアが清掃している「1.17希望の灯(あか)り」
毎月17日にボランティアが清掃している「1.17希望の灯(あか)り」

大震災で得た教訓を未来に生かす

被災時の状況や復興までの過程などをもっと詳しく知りたい人は、防災学習施設「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」を訪れてほしい。震災の経験と教訓、防災の大切さを未来と世界に伝える目的で2002年4月に開館した。

阪神・淡路大震災関連の展示を主に行う西館。東館とは2階の連絡通路でつながる
阪神・淡路大震災関連の展示を主に行う西館。東館とは2階の連絡通路でつながる

阪神・淡路大震災のすさまじさを大画面映像や原寸大ジオラマなどで疑似体験でき、貴重な写真や資料、模型などの展示で、地震直後からの市民生活やボランティア活動などが詳細にたどれる。さらに阪神・淡路大震災と東日本大震災の比較や、南海トラフ・首都直下地震が発生した場合の被害想定などが展示され、防災や減災についての実践的な知識が身に付くフロアもある。

映像と音響で巨大地震を体感する「1.17シアター」の横には、「震災直後のまち」を再現した原寸大ジオラマがある
映像と音響で巨大地震を体感する「1.17シアター」の横には、「震災直後のまち」を再現した原寸大ジオラマがある

貴重な写真の数々や精細な模型を展示する、西館3階の「震災からの復興をたどるコーナー」
貴重な写真の数々や精細な模型を展示する、西館3階の「震災からの復興をたどるコーナー」

西館2階では、防災や減災のための備え、世界中で発生する自然災害について展示している
西館2階では、防災や減災のための備え、世界中で発生する自然災害について展示している

東館3階の「津波避難体験コーナー」。水圧のかかる中での歩行の難しさを体験し、避難の大切さを知る
東館3階の「津波避難体験コーナー」。水圧のかかる中での歩行の難しさを体験し、避難の大切さを知る

東館3階の「南海トラフ・首都直下地震展示コーナー」では、予想される被害を視覚的に伝えている
東館3階の「南海トラフ・首都直下地震展示コーナー」では、予想される被害を視覚的に伝えている

人と防災未来センターでは、被災者から収集した写真や物品、体験談など、一次資料を19万点以上所蔵する。

全壊した家の中を自らが撮影した写真、真っ二つに折れた愛用のゴルフクラブ、海外の支援者から贈られたぬいぐるみ、避難所でつづった日誌などに、提供者のコメントが添えられている。恐怖や悲しみ、怒り、希望など、被災者の “生の感情”が迫ってくる展示だ。

1995年は「ボランティア元年」と呼ばれる。阪神・淡路大震災の経験を基に立ち上がったボランティア団体やNPOが、東日本大震災や熊本地震などで活躍した。神戸の街を観光しながら、震災の記憶やモニュメントに触れることで、一人ひとりが防災を意識し、未来に生かすことは可能だろう。

人と防災未来センターでは、ボランティア活動や支援物資に関する資料収集や展示にも力を入れている
人と防災未来センターでは、ボランティア活動や支援物資に関する資料収集や展示にも力を入れている

阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター

  • 住所:神戸市中央区脇浜海岸通1-5-2
  • 営業時間:火-木、日曜日=午前9時30分~午後5時30分、金・土曜日=午前9時30分~午後7時 ※入館は1時間前まで
  • 定休日:月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)
  • 入館料:大人 600円 大学生450円 高校生以下は無料
  • アクセス:阪神電鉄「岩屋」駅、「春日野道」駅から徒歩10分、JR「灘」駅から徒歩12分

取材協力=神戸観光局
取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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