豊洲でマグロの競り値はこう決まる:高値は天然・はえ縄の大型

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正月の風物詩ともなっているマグロの初競り。ご祝儀相場の高値が毎年ニュースになるが、いつもあんなに高いわけではない。見学するだけでは分からない、マグロの値段の付き方を解説する。

2020年1月5日早朝、東京・豊洲市場の初競りで青森県大間産のクロマグロに1億9320万円(276キロ/キロ値70万円)の値が付いた。19年の3億3360万円(278キロ/キロ値120万円)には届かなかったものの、築地市場(中央区)時代も含めて、2年連続で群を抜いた高値となった。

しかし、この価格はあくまでも正月のご祝儀で、新聞やニュースで取り上げられる宣伝効果を見込んだもの。豊洲では日常的にマグロが競りに掛けられ、競り人と仲買人との白熱したやり取りが展開されているが、通常はどんなに高くてもせいぜい1本500万円だ。

個体差があるマグロは目利きが重要

マグロは個体差が大きいため、1本ずつ競りに掛けて卸値を決めていく。一概には言えないが、種類別では本マグロ(クロマグロ)、ミナミマグロ(インドマグロ)、メバチマグロ、キハダマグロの順で高級といわれる。特に高価な本マグロは、早朝から競り人や仲卸は入念に品定めし、競りに臨む。

同じ本マグロでも、天然か養殖かで値段が大きく異なる。近年は養殖技術も進歩してきたとはいえ、天然上物に勝る養殖物は今のところ現れていない。天然の上物が1キロ当たり(キロ値)で7000円~3万円に対し、養殖は小ぶりなこともあって2000~3000円。本マグロでも時期や身質によっては、3000円程度になることもある。冷凍物のキハダマグロは、1キロ当たり数百円だ。

本マグロの品定めで、切り取られた尾の断面にライトを当てて、身の状態を確認する仲卸
本マグロの品定めで、切り取られた尾の断面にライトを当てて、身の状態を確認する仲卸 写真:筆者提供

「漁法」もマグロの質に影響する。本マグロの中でも最高級ブランドの青森県大間漁港では、「一本釣り」と「はえ縄」の2種類の漁法がある。はえ縄は、一本の長い縄(幹縄)に、一定の間隔で釣り針が付いた縄(枝縄)を結んで漁場に設置する。一本釣り同様、マグロを傷つけない漁法として知られる。素人考えでは、一本釣りの方が価値が高そうに思えるが、豊洲のベテラン競り人は、はえ縄に軍配を上げる。

一本釣りは1~2人乗りの船で行われることが多く、マグロとの“死闘”に時間がかかったり、船上での鮮度管理が行き届かなかったりするケースもあるという。はえ縄漁船はチームプレーで、水揚げ後の処理もスムーズにいくことが多く、「どちらかといえば、身の色変わりが少ない」のだという。もちろん、マグロの個体差もあれば、漁師の腕にもよるので、常に「はえ縄もの」が「釣りもの」に勝るというわけではないが、19年、20年の初競りで「億」が付いたマグロは共に「大間のはえ縄」だった。

これらに続くのが、定置網漁による「定置もの」、さらに巻き網漁の「巻き網もの」。魚群を一網打尽にする巻き網は、効率は良いが、網の中でマグロが暴れて体力を消耗したり、こすれあって傷が付いたりするため、身質が低下することもある。ただ、「夏の塩釜港(宮城県)や境港(鳥取県)の巻き網ものはうまい」(豊洲卸)など、産地や漁協によって高い評価を受けるところもある。

冷凍マグロの競り直前に、質の評価(下付け)を行う仲卸ら 写真:筆者提供
冷凍マグロの競り直前に、質の評価(下付け)を行う仲卸ら 写真:筆者提供

国産に迫る輸入マグロも登場

マグロは大きさも重要だ。市場では、体長よりも重量が目安になる。重いほど脂の乗ったトロが多く、価値が高い。ベテラン卸は「100キロ以上で250キロまでが上物かな」とみる。おおむね100キロを超えるものが「大型」として扱われ、30キロ未満は「小型」だ。これはあくまでも目安のようなもので、90キロの中型でも、身質の良い個体ならば、大型マグロより高値が付くこともある。

マグロの目利きに欠かせない尾の断面。仲卸などは脂の乗りのほか、赤身の質(粘り・うま味)、色合いなどをチェックする 写真:筆者提供
マグロの目利きに欠かせない尾の断面。仲卸などは脂の乗りのほか、赤身の質(粘り・うま味)、色合いなどをチェックする 写真:筆者提供

国産物と輸入物では、圧倒的に国産が人気。ただ、マグロ大国日本には世界各地から上質なマグロが生のまま空輸されてくる。最近の豊洲では、米国・ノースカロライナやボストンで水揚げした100キロ超の大型マグロに、国産をしのぐキロ値1万円、1匹数百万円の高値が付いたことがあった。

仲卸で切り分けられ、店頭に並べられた本マグロなどのブロック。産地も表記しすし店など料理店関係者が店に訪れるのに備えている
仲卸で切り分けられ、店頭に並べられた本マグロなどのブロック。産地も表記しすし店など料理店関係者が店に訪れるのに備えている 写真:筆者提供

伝統の手やりでキロ値を競い合う

生マグロの競りは、通常午前5時半の鐘の音を合図にスタート。競り値は、「手やり」と呼ばれる、指のサインのやりとりで決まる。

水産卸売棟に展示してある手やりの説明パネル 写真:筆者提供
水産卸売棟に展示してある手やりの説明パネル 写真:筆者提供

市場のけん騒の中で、価格交渉するための確実な手段として「手やり」は定着している。人さし指は「1」、人さし指と中指をそろえて出すと「2」。人さし指を立て、いったん下ろしてから、もう一度出すと「1・1(ピンピン)」。人さし指を立てたまま、中指を立てたり下ろしたりすると「1・2(インニー)」を表す。これが、1100円、1200円を意味するのか、1万1000円、1万2000円を意味するかは、魚種やその時々の相場によって変わってくる。

複数の「手やり」の中から、最も高い値段を出した人がマグロを競り落とすことができるが、勝負は一瞬で決まるわけではない。どうしても落としたければ、さらに高値を出して価格を釣り上げていけばいいのだ。それでも、マグロ1本の競りは早ければ5秒ほどで決着する。

初競りでは、すしチェーン「すしざんまい」を展開する喜代村が、数分間にわたる競り上げを制し、キロ値70万円で競り落とした。買い付ける側も真剣勝負だが、競り人もいくつも上がる手の中から、瞬時に最も高い値付けをしている人を見極めて価格を決めていかなければならない。豊洲を見学する際には、手だけで交わされる熱い会話に注目すると、より臨場感が味わえる。

本マグロの腹を見て質を見極める「すいしざんまい」の木村清社長ら 写真:市場関係者提供
本マグロの腹を見て質を見極める「すしざんまい」の木村清社長ら 写真:市場関係者提供

(バナー写真:2020年の初競りで1億9320万円で競り落としたマグロを披露する木村社長 時事)

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