見学再開の豊洲市場:にぎわい戻りつつある飲食エリアや江戸前場下町、格安新メニューも

社会

コロナ流行でこの春、見学者の受け入れを一時休止していた東京・豊洲市場(江東区)。一般利用を再開してから1カ月近くが経過し、少しずつ活気を取り戻している。現在の見学状況や、すし店のおすすめメニューなどに加え、今年1月のオープン直後にコロナの影響を受けた「江戸前場下町」も紹介する。

日本の新たな台所として、休業することなく生鮮食品の供給を続けてきた豊洲市場で6月上旬、約3カ月、100日ぶりに一般客の受け入れが再開された。国内で新型コロナウイルスの感染者が増加し始めた2月末から、同市場では関係業者を除き、見学などの一般利用者の入場を禁止していた。

緊急事態宣言中も、ライフラインである豊洲市場では取引を継続。マグロやウニの競りも行われていたが、外出自粛の影響で、国内の多くの飲食店が時短営業や休業に追い込まれ、高級魚を中心に需要が低迷、豊洲も大きな痛手を受けた。通常通りの営業が可能だった市場内の飲食店も、訪日観光客を含む見学者相手の場合が多く、市場関係者の来店はあまり見込めないために休業する店が目立った。

コロナ対策万全、競り見学はまだ

早朝5時から可能だった一般見学者の入場は、再開して当面は午前9時からで、午後2時には終了となる。活発な取引が行われる早朝に混雑するのを避け、終了時間も3時間早めた。来場者はマスクの着用が必要で、市場入り口で手を消毒し、サーモカメラによる検温も受ける。その際、体温が37.5度以上の人は入場できない。(※7月9日より、見学時間は午前5時から午後3時に変更)

再開初日は、早くから数十人が間隔を空けて列を作り、久々の豊洲を心待ちにしていた。競り風景の見学はできないため、来場者のほとんどはすし店など飲食エリアへ向かう。

ゆりかもめ「市場前」駅の出口に置かれる一般見学者への注意点を知らせる看板
ゆりかもめ「市場前」駅の出口に置かれる一般見学者への注意点を知らせる看板

入場時は、マスク着用が条件で検温も行われる 写真:筆者提供
入場時は、マスク着用が条件で検温も行われる 写真:筆者提供

「ようやく営業が再開できた。お客さんから『待っていたよ』という声を聞いて、涙が出そうだ」

人気すし店「大和寿司」の入野光広社長は、築地時代も含め、これまでにない長い休業期間を経て、喜びを隠しきれなかい様子だった。久々の営業で気がはやるのと同時に「安全、安心には万全を期してやっていきたい」と気を引き締めていた。

青果棟エリア1階にある「大和寿司」は、いつも長蛇の列ができる人気店の一つ。客と職人の間にビニールシートを設置するなど、感染対策もしっかり施されていた 写真:筆者提供
青果棟エリア1階にある「大和寿司」は、いつも長蛇の列ができる人気店の一つ。客と職人の間にビニールシートを設置するなど、感染対策もしっかり施されていた 写真:筆者提供

人気すし店の待ち時間が短縮

豊洲一番の人気を誇る水産仲卸棟3階の「寿司大」は再開初日から終始大勢の客で埋まり、「龍寿司」がある管理施設棟の飲食エリアもにぎわった。久々に一般客を迎え、胸をなでおろす店員が多かったが、その後はコロナに対する警戒感や入場開始が市場にしては遅いことなどから、以前のような客足には至っていない。当然、高級食材に惜しみなく金を使ってくれる訪日観光客の姿はほとんどなく、不満げなすし職人などもいる。

一般客の入場が解禁された翌日、寿司大を訪れた神奈川県在住の40代の男性は、「以前なら何時間も待たなければならなかった人気店が、あまり待たずに入店できた」と満足げだった。

今だけ? 新メニュー続々

基本的に以前と同じメニューで営業している店が多いが、中には新たな格安料理を用意している例もある。見学休止中に市場関係者向けに開発したメニューを継続して提供している場合や、訪日観光客向けの高額商品だけでは生き残れないと考えている店もあるようだ。

管理施設棟3階の和食店「丼匠(どんたく)」では、国産生マグロやアナゴ、ホタテ、サーモンなどをたっぷりと乗せた「バラちらし」を、期間限定として1000円で提供。「以前1500円で出していたメニューをむしろグレードアップさせた」(同店職人)と、お得感たっぷりだ。

市場関係者限定のワンコイン丼も提供している「丼匠」。見学者には期間限定の「ばらちらし」がおすすめ
市場関係者限定のワンコイン丼も提供している「丼匠」。見学者には期間限定の「ばらちらし」がおすすめ

イクラを散りばめたゴージャスな見た目で、1000円とは思えない!
イクラを散りばめたゴージャスな見た目で、1000円とは思えない!

水産仲卸棟では「岩佐寿し」が、初めて握り以外のメニューを用意。数量限定で国産天然本マグロや、カニやイクラ、甘エビなどを使った高級海鮮丼を2000円で出し、人気を呼んでいる。同じフロアのすし店「晶(しょう)」でも海鮮丼(2000円)や、ヒラメの漬け丼(1000円)やアナゴ丼(800円)といったお得なメニューを提供し始めた。

一足先に再開の江戸前場下町

豊洲市場の敷地内に今年1月下旬にオープンした商業施設「江戸前場下町」は、市場関連棟よりも一足早い、6月1日から営業を再開した。

開業すぐの2月に中国からの観光客がいなくなり、市場の見学休止後も営業を続けていたが、緊急事態宣言を受けて4月9日から全21店が一斉に休業。23年春開業予定の観光拠点「千客万来」ができるまでの期間限定の施設だけに、コロナに出鼻をくじかれたのは痛く、これからの巻き返しが期待される。

ゆりかもめの「市場前」駅の改札を出てから、青果棟がある南側の地上へ下りると「江戸前場下町」
ゆりかもめの「市場前」駅の改札を出てから、青果棟がある南側の地上へ下りると「江戸前場下町」

営業時間は午前9時から午後6時まで。すしや海鮮丼、うどん、ラーメンなどの飲食店のほか、マグロのサクや干物、つくだ煮、土産物を販売する店などが軒を連ねる。一部店舗は、休業や営業時間短縮を続けているので、公式ホームページなどで確認してから出掛けよう。

平屋の建物はコの字型で、中央が和風のテラス席になっている。天気が良い日には、注文した料理を持ち出して、屋外で楽しむのもおすすめだ。

真冬のオープン当初でも、晴天の日にはにぎわっていたテラス席 写真:筆者提供
真冬のオープン当初でも、晴天の日にはにぎわっていたテラス席 写真:筆者提供

土産物も充実、ぜひお立ち寄りを

豊洲のマグロ専門仲卸が営業するすし店「鈴富」は、豊富な種類のマグロネタが乗ったにぎりや、鉄火丼、海鮮丼などがリーズナブルな値段で食べられる。中でも一番人気は、本マグロとミナミマグロ、メバチマグロの赤身やトロが7種並ぶ「マグロ食べ比べ」(2200円、税抜)で、上マグロを味わい尽くせるお値打ちメニューだ。

2020年1月、江戸前場下町のオープニングイベント後には、小池百合子都知事もマグロを堪能。右は鈴富社長の鈴木勉さん 写真:筆者提供
2020年1月、江戸前場下町のオープニングイベント後には、小池百合子都知事もマグロを堪能。右は鈴富社長の鈴木勉さん 写真:筆者提供

大トロの炙りまで味わえる「マグロ食べ比べ」。しょうゆが塗ってあるので、テラス席にも持って行きやすい
大トロの炙りまで味わえる「マグロ食べ比べ」。しょうゆが塗ってあるので、テラス席にも持って行きやすい

ラーメン店で、カレーやかき氷といったメニューも提供する「ねいろ屋」は、しょう油ベースのラーメンが定番。ほかには「瀬戸内レモンラーメン」「肉そば」なども人気で、新メニューの夏場限定「冷やし担担麺」(数量限定)も登場した。

ぜひ立ち寄りたいのが「みやげ処 豊洲ICHIBAN」。市場にふさわしい土産物をコンセプトに、出汁入りの調味料や総菜の瓶詰め、さらにエコバッグや「洗えるマスク」、扇子、箸などさまざまな商品が店頭に並ぶ。市場名物の小型運搬車「ターレー」のプラモデルまであり、見ているだけでも楽しくなる。

木のぬくもりがある江戸前城下町の内観。豊洲ICHIBANは入り口すぐにある
木のぬくもりがある江戸前城下町の内観。豊洲ICHIBANは入り口すぐにある

ターレーやマグロのプラモデルは精巧な仕上がり
ターレーやマグロのプラモデルは精巧な仕上がり

江戸前場下町の土産店スタッフによると、観光客は少しずつ増えているが、まだ売り上げはオープン当初の半分に満たないという。7月に入って3日連続で新規感染者数が100人超を記録し、「また自粛ムードが高まるのではないかと」(仲卸業者)といった声も出ているが、コロナ終息により順調に客足が伸びていくことを期待したい。

江戸前場下町

  • 住所:東京都江東区豊洲6-3-12
  • 営業日:豊洲市場開場日に準じる
  • 営業時間:午前9時~午後6時 ※新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、一部店舗は休業、営業時間短縮中
  • アクセス:新都市交通・ゆりかもめ「市場前」駅より徒歩1分

写真=筆者提供以外はニッポンドットコム編集部

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