東京「築地場外市場」に再びにぎわい:魚はもちろん、スイーツなど人気店がめじろ押し

築地市場が豊洲へと移転したことで、一時は行く末が心配された「築地場外市場」。商業施設「築地魚河岸」など新たな名所が加わった“場外”は、今も魅力にあふれている。

旧築地市場(中央区)に隣接し、共に繁栄してきた「築地場外市場」。2018年10月に“場内”の中央卸売市場が83年の歴史に幕を閉じ、豊洲(江東区)へと移転。取り残された“場外”のにぎわいも失われるのではないかと心配されたが、自慢の魚介をはじめ、すし店御用達の玉子焼き屋やプロの料理人が頼りにする包丁専門店など、“食の町・築地”は今なお健在だ。

場外市場は銀座や新橋から程近く、新大橋通りと晴海通りの交差点の南西エリアを中心におよそ450の商店が軒を連ねる。「市場」と名が付いているが、都が一体的に管理する場内とは異なり、営業は店ごとで商店街のようなもの。中央市場は原則プロ専用、つまり業務用の魚取引を行うためにあるが、場外はそうした制約はない。市場関係者であふれていた早朝の活気は減ったものの、プロの料理人でも一般消費者でも、誰でも自由に立ち寄り、買い物や食事が楽しめる。

晴海通りと新大橋通りがぶつかる築地4丁目交差点。ここから新大橋通り沿いに、築地場外市場の西端「もんぜき通り」が続く
晴海通りと新大橋通りがぶつかる築地4丁目交差点。ここから新大橋通り沿いに、築地場外市場の西端「もんぜき通り」が続く

波除神社から新大橋通りまで、場外南端を走る波除通り。運が良ければマグロの解体も見学できる
波除神社から新大橋通りまで、場外南端を走る波除通り。運が良ければマグロの解体も見学できる

豊洲の仲卸売り場と同レベルの商品がズラリ

築地場外市場のにぎわいに大きく貢献しているのが、新たな名所「築地魚河岸」だ。場内が移転した後もにぎわいを継続させようと地元・中央区が整備した生鮮市場で、豊洲に移転した仲卸が運営する小売店など約60軒が入居する。晴海通りに面した小田原橋棟と波除(なみよけ)通り沿いの海幸橋棟の2棟から成り、ともに1階が鮮魚や青果、精肉などを販売する店舗街だ。

晴海通り沿いの小田原橋棟。右の階段を上ると3階の「魚河岸食堂」へ直行できる
晴海通り沿いの小田原橋棟。右の階段を上ると3階の「魚河岸食堂」へ直行できる

波除神社前の海幸橋棟入り口。両棟は3階の連絡通路でつながっている
波除神社前の海幸橋棟入り口。両棟は3階の連絡通路でつながっている

魚介はもちろん、精肉や成果の店も充実
魚介はもちろん、精肉や青果の店も充実

築地時代は、一般客でも容易に場内の仲卸売り場に立ち入れたのが魅力の一つだった。近代的な密閉施設の豊洲では、仲卸売場棟での一般客の買い物は難しく、現在はコロナ禍によって警備がさらに厳重になっている。それが築地魚河岸では、仲卸が厳選した新鮮な魚介を手軽に購入できる。さらに「豊洲まで行くのは面倒」というプロの料理人にも重宝されているという。

晴海通りから小田原橋棟に入るとひときわ目を引くのが、本マグロを解体する様子。豊洲市場の仲卸でもある「キタニ水産」では、市場で毎日、質の高いマグロを目利きし、即座にさばいて販売する。すし店や料理店からの注文も多いが、もちろん一般向けのサクや中落ちなども店頭に並ぶ。一番人気は、青森県大間産など天然本マグロのブツ。大ぶりで1人前(3~4個、100グラム)が1000円で、1日30~40キロが売れるといい、日によっては300グラム買うと2000円以下になる破格のサービスも。

豊洲市場から直送した本マグロなどを販売する築地魚河岸のキタニ水産 写真=筆者提供
豊洲市場から直送した本マグロなどを販売する築地魚河岸のキタニ水産 写真=筆者提供

大間産本マグロのぶつ切りや中落ちを手ごろな値段で提供している
大間産本マグロのブツや中落ちを手ごろな値段で提供している

鮮魚以外も充実し、市場飯も楽しめる

波除通り方向に奥へと進むと、和食ブームで海外からも注目されている「だし」の専門店「築地三京」の品ぞろえに驚く。有名料理店が使用する高級だしを取り扱い、「節」の種類も多く、本ガツオのほかソウダガツオ、サバやイワシ節など、料理に応じて選ぶことができる。

同店のお薦めは、讃岐うどんに使われる最高級だし「伊吹いりこ」。同店を経営する清水義弘社長は「新型コロナウイルスの影響で、巣ごもり消費が盛んな今、自宅でじっくり本格的なだしで料理を作る人が増えている」と話す。

店員さんが「伊吹いりこ」や「宗田かつお」をアピール
店員さんが「伊吹いりこ」や「宗田かつお」をアピール

多彩な節の他、昆布やのりなども各地の名産品がそろう
多彩な節の他、昆布やのりなども各地の名産品がそろう

他には干物や練り物などの水産加工品や、マツタケなど旬な食材がそろう青果も充実。小田原橋棟3階にはフードコートの「魚河岸食堂」があり、「市場飯(いちばめし)」が堪能できる。

東京五輪の延期で市場跡地の利用は宙に浮いているが、仲卸など業者間での豊洲と築地の連携はかなり進んでいるといえる。

小田原橋棟3階の「魚河岸食堂」では、屋外でも市場飯が楽しめる
小田原橋棟3階の「魚河岸食堂」では、屋外でも市場飯が楽しめる

海幸橋棟の屋上からは、築地市場跡地が見下ろせる
海幸橋棟の屋上からは、築地市場跡地が見下ろせる

築地魚河岸

  • 住所:小田原橋棟=東京都中央区築地6-26-1、海幸橋棟=築地6-27-1
  • 営業時間:午前5時~午後3時 ※午前9時までは業務用向け販売。一般の買い物はそれ以降で
  • 休館日:日曜日、祝日、水曜日(不定期) ※原則として東京都中央卸売市場の休場日に準じる
  • 魚河岸食堂:午前9時~ ※営業時間は店ごとに異なる

案内所「ぷらっと築地」を上手に活用

場外市場は狭い路地の奥まで所狭しと店が並ぶ。お目当ての品が見つからなかったり、聞きたいことがあったりしたら、波除通りの総合案内所「ぷらっと築地」にぜひお立ち寄りを。山崎徳子マネージャーによると「中国をはじめとした訪日観光客や地方からのバスツアー客は以前よりかなり少ないが、周辺で務める会社員らを中心に、少しずつ場外へ立ち寄る人が増えてきた」そうだ。

この案内所では、営業時間内ならキャリーバッグやベビーカーを有料で預かってくれ、買い物途中の食事には便利なコインロッカーもある。持ちきれないほど買い過ぎた場合には、近くの配送サービスを利用可能。「築地」の文字が入ったTシャツや昔の場内の風景をモチーフにした「立体絵はがき」、ハローキティーのエコバッグなどオリジナル商品も販売しており、土産としても喜ばれそう。

波除通りの中心地にある「ぷらっと築地」。休憩所や喫煙スペースも併設する
波除通りの中心地にある「ぷらっと築地」。休憩所や喫煙スペースも併設する

築地場外は入り組んでいるので、まずは受け付けでマップを手に入れよう。左が山崎さん
築地場外は入り組んでいるので、まずは受け付けでマップを手に入れよう。左が山崎さん

場外市場のオリジナル製品も販売している
場外市場のオリジナル製品も販売している

総合案内所「ぷらっと築地」

  • 住所:東京都中央区築地4-16-2
  • 営業時間:平日・土曜日=午前8時~午後2時、日祝日・休市日=午前10時~午後2時
  • 休業日:年末年始
  • 公式ホームページ:https://www.tsukiji.or.jp/ordinary/plattsukiji/

食後のおやつも充実の築地場外

人気すし店や海鮮丼を楽しめる店を紹介していたらきりがないので、場外市場ならではの店や比較的新しいスポットをいくつか紹介したい。

ぷらっと築地の目の前にある「築地山長」は、10年ほど前に築地で初めて手軽な「串玉」(1本100円)を販売した玉子焼き専門店。こだわりのだしがうまみを引き出す玉子焼きは、定番商品と甘さ控えめ、さらにカニやエビ、ホタテ入りや、ネギ、コショウ入りなど種類は多い。選ぶ際はちょっぴり迷いそうだが、人気はやはり、すし店ご用達の江戸前タイプだ。

とにかく種類が豊富。お土産にぴったりなのが、4種類の串玉が入った「味くらべ」(820円)
とにかく種類が豊富。お土産にぴったりなのが、4種類の串玉が入った「味くらべ」(820円)

場外市場の食べ歩きと言えば「串玉」。コロナ禍なので、店頭で味わおう
場外市場の食べ歩きと言えば「串玉」。コロナ禍の現在は食べ歩き禁止なので、店頭で味わおう

食事を堪能した後は、築地ならではのスイーツを楽しもう。山長から新大橋通り方面に少し行くと、こだわりの卵を使ったバタークリーム専門店「La créme au beurre」から甘い香りが漂う。スイーツ1番人気はカラフルなマカロン。ミルフィーユもお薦めだ。

さらに新大橋通りに向かい、築地西通りを晴海通りの方向へ進むと、右側には「たい焼き」ならぬ「まぐろ焼き」で知られる「築地さのきや」が店を構える。「本マグロ」(220円)は薄くパリッと焼きあがった生地の中にあんこがたっぷり。「中トロ」(240円)は、通常あんことアンズ入りだが、今秋はアンズの不作により、ゆずかパインが使われている。カスタークリームが入った「キハダマグロ」(240円)も人気だとか。

場外市場では珍しいかわいらしい外観の「La créme au beurre」
場外市場では珍しいかわいらしい外観の「La créme au beurre」

ついつい目移りしてしまうカラフルなマカロン
ついつい目移りしてしまうカラフルなマカロン

「築地さのきや」のまぐろ焼き。下が「本マグロ」で、上は「中トロ」 写真=筆者提供
「築地さのきや」のまぐろ焼き。下が「本マグロ」で、上は「中トロ」 写真=筆者提供

火災跡地にも人気のまぐろステーキ店が誕生

食べ物だけでなく、プロの料理人が使う調理道具や包材などが手に入るのも場外市場の魅力。波除通りに入り口のある包丁専門店「子(ね)の日」は、2020年にリニューアルオープンしたばかり。和包丁を中心に、そば切りやふぐ引きなど豊富な品ぞろえで、路面館を抜けた路地先の「奥館」にあるプレミアム包丁や特注品は見もの。マグロの解体に使える日本刀のような特注品はなんと200万円もする。

有名玉子焼き店「丸武」の並びにある「子の日」路面館
有名玉子焼き店「丸武」の並びにある「子の日」路面館

特注品がそろう奥館で、日本刀のような長さの包丁を見せてもらった
特注品がそろう奥館で、日本刀のような長さの包丁を見せてもらった

豊洲移転前の2017年8月に発生したもんぜき通りの火事で、一時は場外市場の未来に暗雲が立ち込めたが、その跡地も有効活用されている。かつて大人気だったラーメン店「井上」跡には、レトロな雰囲気のキッチンカーで営業する「とんぼや」が出現。メニューは「マグロステーキ」(500円)のみ。串刺ししたマグロの尾の身などを鉄板で焼き、店先で食べられるほか、テイクアウトもできる。脂は乗っているが、見た目よりあっさりしていて、うま味たっぷり。

もんぜき通りで起きた火災の跡地で営業する「とんぼや」
もんぜき通りで起きた火災の跡地で営業する「とんぼや」

ガスバーナーであぶると脂がしたたり落ちる「マグロステーキ」
ガスバーナーであぶると脂がしたたり落ちる「マグロステーキ」

築地場外市場は年末、この時期がまさに書き入れ時。にぎわいが予想されるが、築地食のまちづくり協議会事務局長の鹿川賢吾さんは「極力3密を避けながら、マスクの着用や食べ歩きの禁止などのルールを守って場外を楽しんでほしい」と話している。

もんぜき通りは平日の昼間でも人通りが多い
もんぜき通りは平日の昼間でも人通りが多い

写真=ニッポンドットコム編集部(筆者提供以外)
バナー:波除通りでマグロの解体をするキタニ水産のスタッフ

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