カラフルな南部鉄器で世界的人気の盛岡「岩鋳」:“革新的な伝統工芸品”で活路、鉄器館も好評

伝統

岩手県盛岡が誇る伝統工芸品「南部鉄器」。市内の製造業者「岩鋳(いわちゅう)」は、黒い鉄瓶に代表される昔ながらの製品のほか、独自の技術で着色したカラフルな急須や小物も生産し、欧米や中国への海外進出を成功させている。

「南部鉄器」といえば、日本人は重厚な黒い鉄瓶をまず思い浮かべるだろう。しかし、海外ではカラフルな急須(ティーポット)が、“Nambu Ironware”や日本語のままの“Nanbu Tekki”として人気を博し、欧州の小売店では“IWACHU”の呼び名も浸透しているという。

南部鉄器の代名詞にもなっている「IWACHU」とは、1902(明治35)年に岩清水末吉が盛岡市で始めた鉄器工房「岩鋳」のこと。創業120年といえば立派な老舗だが、約400年の歴史を持つ南部鉄器の業界では後発であるがゆえに、「伝統と革新」を信条に挑戦を続けてきたメーカーだ。

1967(昭和42)年、業界初の工場のオートメーション化を実現。同時期に製造工程の見学をいち早く受け入れ、観光コースに組み込まれたことで、知名度と売り上げを同時にアップさせた。1990(平成2)年からは、色鮮やかに着色する南部鉄器の開発に着手。近年は海外展開にも力を注ぎ、カラフルな急須が欧州で大ヒットしている。

欧米を中心に人気の色鮮やかな南部鉄器。カラフルな香炉といった小物もある 写真提供:岩鋳
欧米を中心に人気の色鮮やかな南部鉄器。カラフルな香炉といった小物もある 写真提供:岩鋳

伝統的な南部鉄器の技を引き継ぐ岩鋳

現代的なデザインの製品、伝統工芸品メーカーとは思えない柔軟な経営で注目されることの多い岩鋳だが、代表取締役・岩清水弥生氏は「地域の歴史の中で蓄積された伝統こそが岩鋳の最大の財産」とする。

伝統工芸士に認定される1人を含めて6人の職人が在籍し、昔ながらの製法と技を受け継ぐ。盛岡市郊外の「岩鋳鉄器館(いわちゅうてっきかん)」では、南部鉄器の歴史や製法に加え、盛岡の風土や文化についても発信。製造に使用する道具や巨大な鉄瓶など貴重な品が展示され、併設の工房では熟練の職人技を実際に見ることもできる。

岩鋳鉄器館は国内外の観光客を受け入れるテーマパーク型の工場になっている 写真提供:岩鋳
岩鋳鉄器館は国内外の観光客を受け入れるテーマパーク型の工場になっている 写真提供:岩鋳

南部鉄器は江戸時代初頭に、盛岡藩主南部氏が京都や甲州(現・山梨県)の鋳物職人を召し抱えたことで始まった。18世紀に入り煎茶が流行すると、小ぶりで取っ手の付いた鉄瓶が広く庶民まで普及。これが現在も岩鋳で作られている“伝統的な鉄瓶 ”の原型となっている。

表面に並ぶ無数の粒を「あられ文様」という。鉄の厚みを出し保温効果を高める先人の知恵 写真提供:岩鋳
表面に並ぶ無数の粒を「あられ文様」という。鉄の厚みを出し保温効果を高める先人の知恵 写真提供:岩鋳

南部鉄器の鉄瓶は職人技を駆使した、使い勝手の良い実用品。例えば、高温の炭火で焼き上げる「釜焼き」という技法で、鉄瓶の内側に酸化皮膜を施してサビの発生を防ぐ。見た目は重厚だが、職人が手掛けたものは鉄を極力薄くしており、大量生産の鉄瓶よりも3割近く軽量化されている。そうした製造工程が約100以上もあることで、実用性が高く、見た目も美しい一生物の工芸品が生まれるのだ。

伝統的な「焼型(やきがた)製法」。粒子の細かい川砂と粘土で原型を作り、それに1500度に熱した鉄を流し込む 写真提供:岩鋳
伝統的な「焼型(やきがた)製法」。粒子の細かい川砂と粘土で原型を作り、それに1500度に熱した鉄を流し込む 写真提供:岩鋳

鋳型から鉄瓶を取り出し、加熱しながら漆を塗り塗装する。焼型製法では1つの型から5個程度しか製造できない 写真提供:岩鋳
鋳型から鉄瓶を取り出し、加熱しながら漆を塗り塗装する。焼型製法では1つの型から5個程度しか製造できない 写真提供:岩鋳

モダンな「IWACHU」で欧州に展開

鉄器館のショップスペースに足を踏み入れると、「伝統」の技に加えられた「革新」の部分に触れることができる。黒々とした鉄瓶のイメージとは異なる、色とりどりの急須や香炉などが美しくディスプレイされている。現在、岩鋳の売り上げの7割はこのカラフルな製品が占めるという。そして、総売上高の4割が欧米・アジアを中心とした海外市場というから、伝統産業らしからぬ数字だ。

2019 年 11 月にリニューアルオープンし、モダンなフロアに改装された販売スペース 写真提供:岩鋳
2019 年 11 月にリニューアルオープンし、モダンなフロアに改装された販売スペース 写真提供:岩鋳

色彩豊かな急須が生まれたのは、フランスの紅茶販売店から「フランス人好みのカラフルなティーポット(急須)」の製造を依頼されたことがきっかけだった。黒く重厚であることが南部鉄器の美であり、常識だったが、当時の社長の「お客さまが望むものを作ろう」「時代に合ったものを生み出そう」という方針の下に開発に着手。2年がかりで、塗料を焼き付けた上にカラー塗料を重ね、手作業で磨き上げることで独特の風合いを出すことに成功した。

外にカラフルな塗装、内側にホーロー加工を施した急須は7000円代からそろう。海外での価格は国内の2倍半ほどと決して安くはないが、熱烈なファンは多い 写真提供:岩鋳
外にカラフルな塗装、内側にホーロー加工を施した急須は7000円代からそろう。海外での価格は国内の2倍半ほどと決して安くはないが、熱烈なファンは多い 写真提供:岩鋳

開発当初は国内市場が好調だったため、海外への進出にさほど積極的ではなかったというが、1991(平成3)年にバブルが崩壊。伝統産業は軒並み窮地に追い込まれる中、岩鋳は95年頃からカラフルな南部鉄器を引っ提げて海外展開を本格化。欧米の小売店で「IWACHUが欲しい」といえば、南部鉄器のティーポットが出てくるまでに浸透させた。

鉄瓶や急須だけではなく、鍋やフライパンといったキッチンウエアも多数手がけ、年間約100万点という南部鉄器最大規模の生産力を誇っている。

一時入手困難になったほど人気のコーヒーポット/写真提供:岩鋳
一時入手困難になったほど人気のコーヒーポット 写真提供:岩鋳

調理鍋はIH対応の製品も開発 写真提供:岩鋳
調理鍋はIH対応の製品も開発 写真提供:岩鋳

中国では伝統的な黒い鉄瓶が人気

岩鋳では、市場に合わせて、技術と戦略を使い分けている。好みの色なども国や地域で変わるため、フランスや米国では明るめのもの、欧州のドイツ以北向けには暗めのものを中心に販売する。

工房での着色作業。鉄瓶を約250℃に加熱し、その表面に漆を焼き付ける/写真提供:岩鋳
工房での着色作業。鉄瓶を約250度に加熱し、その表面に漆を焼き付ける 写真提供:岩鋳

カラフルな急須の人気が欧米で高まる一方で、中国では伝統的な黒の南部鉄器が好評だ。2010(平成22)年の上海万博に出品した際に、鉄瓶で沸かした湯で淹れたプーアル茶をふるまったところ、味がまろやかになると話題になった。鉄分の補給ができるという点も健康志向の高い中国人に受け、順調に輸出が拡大した。

伝統的な南部鉄器は職人による手作業のため、1カ月に製造できるのはせいぜい160個。生産が追い付かない状況に陥っても、職人の技にこだわり、中国での岩鋳のブランドイメージを確固たるものにしている。

現在、伝統産業の生産額は、最盛期といえる1990年代の3分の1程度。そんな厳しい状況にあっても、しっかりと伝統を引き継ぎながら、革新的な製品と戦略で海外市場を開拓し、岩鋳は発展を続けている。成功の秘訣の一端に触れるために、鉄器館を訪れてみてはどうだろう。

1個の鉄瓶につき3千個ほど施されるあられ文様。岩鋳鉄器館で職人技を間近に見学したい 写真提供:岩鋳
1個の鉄瓶につき3千個ほど施されるあられ文様。岩鋳鉄器館で職人技を間近に見学したい 写真提供:岩鋳

岩鋳鉄器館

  • 住所:岩手県盛岡市南仙北2-23-9
  • アクセス:JR盛岡駅から車で15分
  • TEL:019-635-2505
  • 営業時間:午前8時30分〜午後5時30分
  • 定休日:火曜
  • 料金:入場無料

文=シュープレス
(バナー写真=内部にホーロー加工を施した使い勝手の良い岩鋳の急須。モダンなカラーとデザインのものが多い 写真:岩鋳)

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