岡山「備中松山城」と城下町を巡る:石火矢町ふるさと村の武家屋敷、頼久寺庭園

歴史

9月下旬から4月上旬まで、朝霧に包まれて、“天空の城”と化すことで知られる「備中松山城」(岡山県高梁市)。江戸時代の天守が現存する貴重な山城で、近年は愛らしい「猫城主・さんじゅーろー」の人気もあり、年間を通じて多くの観光客が訪れている。

現存天守「備中松山城」は、4つの頂を持つ臥牛山(がぎゅうざん)の小松山山頂(標高430メートル)にある。入城するまでには移動や登山で時間を要する上に、天空の山城の全貌を眺められる「雲海展望台」は北側の別の山にあり、南西の麓にある城下町も離れている。訪れる際には、どのような順番で巡るかを事前に練っておいた方が良い。

雲海シーズンには、早朝に展望台で雲海に浮かぶ天守を眺めた後、臥牛山を登って城郭を眺めたり、城下町を散策したりするのが定番コース。春から秋にかけては、展望台近くの駐車場から城郭まで、臥牛山を縦走する遊歩道も人気だという。

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二の丸から江戸時代の姿を残す天守を見上げる
二の丸から江戸時代の姿を残す天守を見上げる

雲海が出ていなくても、展望台からの山頂にたたずむ備中松山城の姿は必見
展望台からの山頂にたたずむ備中松山城の姿は、雲海が出ていなくても必見

山道を登って、備中松山城の現存天守へ

備中松山城へ向かうには、8合目の「ふいご峠」から約700メートル、所要時間20分ほどの遊歩道を登るのが基本。ふいご峠までは、JR伯備線「備中高梁」駅から観光乗合タクシーなどを利用すれば直接行けるが、自家用車の場合は5合目の「城見橋公園駐車場(しろまちステーション)」で「登城整理バス」(往復400円、小学生以下無料)に乗り換えて移動する。

ふいご峠の遊歩道入り口。ここから約700メートルの山道を登る
ふいご峠の遊歩道入り口。ここから約700メートルの山道を登る

山道は整備してあるが、滑りやすい場所も多いので、歩きやすい靴で出掛けよう。道中には、城下町との情報伝達のために使用したという「中太鼓櫓(やぐら)跡」などがあるので、小休止して眺望を楽しむのにちょうど良い。

往路の登り坂は少しきついが、景色を楽しみながら歩けばあっという間
往路の登り坂は少しきついが、景色を楽しみながら歩けばあっという間

太鼓櫓跡から雲海に包まれた高梁の市街地を望む
中太鼓櫓跡から雲海に包まれた高梁の市街地を望む

大手門跡から三の丸、二の丸は自由に散策でき、本丸に入る際に入城料(大人500円、小中学生200円)を支払う。券売所を抜けると、現存天守を間近に見上げ、猫城主さんじゅーろーに拝謁(はいえつ)することもできる。天守内部に入ると、江戸時代のままの建築構造を眺められ、備中松山城の歴史を解説するパネルや貴重な史料も展示してある。

岸壁の上に立つ威厳ある天守。開城時間は午前9時からで、閉城は4〜9月は午後5時30分、10~3月は午後4時30分。
岩盤の上に立つ威厳ある天守。開城時間は午前9時からで、閉城は4〜9月は午後5時30分、10~3月は午後4時30分。

迷い猫から城主に出世したさんじゅーろー様がお出迎え
迷い猫から城主に出世したさんじゅーろー様がお出迎え

四季を通じて絶景が拝める雲海展望台

雲の上に浮かぶような「天空の山城」の写真は、備中松山城の建つ臥牛山と峰続きにある雲海展望台から撮影されたものだ。山頂にたたずむ現存天守を望み、江戸時代に思いをはせることができる貴重な場所なので、雲海シーズンに限らず、四季を通じて人気のスポットだ。

雲海展望台から撮影した備中松山城。まさに天空の城
雲海展望台から撮影した備中松山城は、まさに雲の上に浮かんでいるようだ

雲海展望台に至る市道楢井松山城線の入り口は、高梁市中心部と岡山自動車道・賀陽インターチェンジを結ぶ国道484号の中間地点にある。写真入りの案内板は設置してあるが、近くに目印になる建物などは少なく、見逃しやすい。特に雲海シーズンの早朝は薄暗い上に霧で視界が悪いので、カーナビに地点登録しておくことをお勧めする。展望台近くの小さな駐車スペースはすぐに埋まってしまうが、500メートル先の市道終点に駐車場があるので、徒歩5分ほどで戻ることができる。

木製2階建ての展望デッキは広々としているが、観光バスが来ると満員になることも。雲海シーズンに見通しの良い場所を確保したい人は、日の出時刻の30分から1時間前には現地に着いておきたい。市道や展望台周辺は真っ暗なので、懐中電灯を持参するように。

市道楢井松山城線にある雲海展望台入り口。向かいの駐車スペースには仮設トイレがある
市道楢井松山城線にある雲海展望台入り口。向かいの駐車スペースには仮設トイレがある

展望デッキ前面の木は伐採されている。混雑時にデッキへ上がれなくても、天守を眺めることは可能
展望デッキ前面の木は伐採されている。混雑時にデッキへ上がれなくても、天守を眺めることは可能

雲海が出る条件は、「前日の日中が暖かく、当日の早朝が冷え込む」こと。そのため、日々寒さが増していく中、昼間の暖かさがまだ残っている10月から11月がベストシーズンとなる。雨の日は出現せず、風が強すぎても霧が流されて薄くなってしまうので、天気予報を確認してから出掛けよう。

霧が多い日の未明は、天守まですっぽり雲海に覆われてしまう。太陽が昇るにつれて少しずつ雲海が低くなっていくので、城郭が浮かび上がった瞬間がシャッターチャンス。風向きによっても風情が変わるため、長時間眺めていたい人は防寒着を忘れないように。

雲海が低く、天守近くまで届かなかった日でも多くの人が訪れていた
雲海が低く、天守近くまで届かなかった日でも多くの人が訪れていた

日の出近くの時刻は、雲海に埋もれてしまうことも多い。少しずつ下がってくるので、我慢強くシャッターチャンスを待とう
日の出近くの時刻は、雲海に埋もれてしまうことも多い。少しずつ下がってくるので、我慢強くシャッターチャンスを待とう

市道終点にある駐車場からは、臥牛山の他の頂を経由して、備中松山城のある小松山へと至る自然歩道が続いている。天守までの距離は約1.5キロでアップダウンも厳しいが、道中には1240(延応2)年に築かれた大松山城跡や江戸時代末期の番所跡など史跡が点在しているので、歴史トレッキングを楽しむ人が増えているそうだ。

天守の裏側から雲海展望台の駐車場へと遊歩道が続いている
天守の裏側から雲海展望台の駐車場へと遊歩道が続いている

趣深い城下町をゆっくりと散策

山城はあくまでも戦の時に使用されるもの。備中松山藩の日常の政務は、臥牛山の南南西の麓にあった御殿「御根小屋」で執り行っていた。1873(明治6)年の廃城令で御根小屋は解体され、現在は県立高梁高校となっている。正門付近には御殿の名残ともいえる立派な石垣が残っているので、立ち寄ってみてほしい。ちなみに天守の方は、解体後の運搬費用がかさむために放置され、その後の修復・保存活動によって現存することができた。

県立高梁高校の正門付近には、石垣など御根小屋の遺構が残り、案内板も設置してある
県立高梁高校の正門付近には、石垣など御根小屋の遺構が残り、案内板も設置してある

城下町の面影を残すのが、高梁高校の南側に位置する「石火矢町(いしびやちょう)ふるさと村」。白壁の長屋門や土壁が続く町並みで、「旧折井家」と「旧埴原家」の2つの武家屋敷が保存公開されている。

幕末に備中松山藩は、漢学者の山田方谷(ほうこく)の指揮の下、藩政改革に取り組んだ。方谷はたった7年間で、10万両(現在の約300億円)に膨らんでいた藩の借財を返済し、さらに10万両の余剰金を生み出したという。両武家屋敷からは、その時の倹約政策の影響が見て取れる。

白壁と土塀が250メートル続く石火矢町ふるさと村
白壁と土塀が250メートル続く石火矢町ふるさと村

旧折井家は、家禄(かろく)160石の中級武士の屋敷。書院造りの母屋や中庭は美しいが、玄関と奥座敷だけが畳敷きで、他は板の間の上にむしろを敷いており、質素な生活がうかがえる。旧埴原家は、藩主・板倉勝政(1759-1821)の生母の実家。重臣を迎えることもあったので玄関は立派だが、こちらも建物内は控えめな造りだ。屋敷内には山田方谷資料室もある

無料駐車場の目の前にある旧折井家。入館するには旧埴原家との共通券(大人500円、小中学生250円)が必要
無料駐車場の目の前にある旧折井家。入館するには旧埴原家との共通券(大人500円、小中学生250円)が必要

旧折井家の玄関は畳の部屋だが、奥に見える部屋はむしろ敷き
旧折井家の玄関は畳の部屋だが、奥に見える部屋はむしろ敷き

旧埴原家の玄関は立派な造り。両家の開館時間は4~11月は午前10時から午後5時、12~3月は午後4時まで
旧埴原家の玄関は立派な造り。両家の開館時間は4~11月は午前10時から午後5時、12~3月は午後4時まで

武家屋敷街から少し南に行くと、1339年に足利尊氏が安国寺の一つとして創建した頼久寺(らいきゅうじ)がたたずむ。臨済宗の古刹(こさつ)で、小堀遠州作と伝わる蓬莱式枯れ山水の庭園は名高く、国の名勝に指定されている。 

頼久寺周辺には、備中松山城の外堀の役目を果たした「紺屋川美観地区」や岡山県最古の教会「高梁基督教会堂」などもあるので、ゆっくりと散策してみてほしい。

高台に建つ頼久寺。戦国時代の備中松山城主・上野頼久(1521年没)が改築したことから、その名を冠する
高台に建つ頼久寺。戦国時代の備中松山城主・上野頼久(1521年没)が改築したことから、その名を冠する

名庭園を眺めながら一休みするのはぜいたくな時間
名庭園を眺めながら一休みするのはぜいたくな時間

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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