世界自然遺産・沖縄北部の景勝地「大石林山」:本島最北端の聖地で、やんばるの自然を満喫

沖縄は2022年5月、本土復帰から50年を迎える。その歴史や風土、独自の文化にあらためて関心が集まる中、世界自然遺産に登録されたばかりの沖縄本島北部は、最も注目度が高い地域。やんばるの自然を堪能できる大石林山(だいせきりんざん)を中心に、辺戸(へど)岬など周辺の絶景ポイントも紹介する。

世界遺産の自然を体感できる大石林山

沖縄本島の北部は、古くから「やんばる(山原)」と呼ばれる自然豊かな地。国立公園エリアを中心に、日本最大級の照葉樹林の森が広がり、ヤンバルクイナはじめ固有の動植物が多数存在する。2021年7月には、生物多様性の保全において極めて重要な地域との評価を受け、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」として国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産に登録された。

沖縄の観光スポットは那覇市を中心とする南部、リゾートホテルが点在する中部の西海岸沿いに集まっている。これまで観光客が足を延ばすのは、名護市の美ら海水族館辺りが北限というのが一般的だったが、世界自然遺産の登録地域は、さらに北に位置する国頭村(くにがみそん)と東村、大宜味村(おおぎみそん)。あまりなじみがない上に、やんばる国立公園は広大なため、どこを訪れるか悩んでしまう。

そこでおすすめしたいのが、沖縄本島の北端に位置する「大石林山」(国頭村)。切り立つ石灰岩が生み出す絶景に加え、巨大なガジュマルに出会える散策コースもあるので、やんばるの自然をたっぷり体感できる。

切り立った巨岩が生み出す、大石林山の絶景。亜熱帯カルスト地形としては、世界最北端に位置する
切り立った巨岩が生み出す、大石林山の絶景。亜熱帯カルスト地形としては、世界最北端に位置する

大石林山の美ら海展望台から見下ろした辺戸岬。水平線の右側にかすかに見えるのは鹿児島の与論島
大石林山の美ら海展望台から見下ろした辺戸岬。水平線の右側にかすかに見えるのは鹿児島の与論島

子どもや年配者でも聖地・安須社を巡れる

大石林山は、本島最北端・辺戸岬近くの辺戸岳にある。2億5000万年前まで海底にあった石灰岩が、地殻変動によって隆起。長年にわたって雨や風に浸食されたことで、切り立った巨岩が緑の中に林立し、個性的な風景を織りなす。

辺戸岳は琉球(りゅうきゅう)の祖神・アマミキヨが最初に定めた聖地の一つで、かつては「安須社(あすむい、あしむい)」と呼ばれた。現在も山全体に50カ所以上もの御願所(うがんじょ、拝所)が残っており、大石林山も神秘的な雰囲気をまとっている。

ヤンバルクイナ展望台から撮影した安須社。右側のひときわ高い峰が「イヘヤ嶽」で、その右奥に大石林山がある
ヤンバルクイナ展望台から撮影した安須社。右側のひときわ高い峰が「イヘヤ嶽」で、その右奥に大石林山がある

大石林山には、4つの散策コースがある。全ての起点となる「精気小屋」までは、チケット売り場の建物からシャトルバスに乗って移動する。

一番短い「バリアフリーコース」は長さ600メートルで、所要時間は約20分。舗装路やウッドデッキから、岩山を間近に眺めることができるので、年配者や小さな子ども連れでも安心だ。

沖縄石の文化博物館は入場無料。県内で集めた珍しい岩石標本や、石製の民具などを展示している
チケット売り場の建物内にある「沖縄石の文化博物館」。入場は無料で、県内で集めた珍しい岩石標本や、石製の民具などを展示している

各コースの起点となる精気小屋では、休憩や食事を取ることができる
各コースの起点となる精気小屋では、休憩や食事を取ることができる

バリアフリーコースでも、ガジュマルなど亜熱帯独特の樹木に出会える
バリアフリーコースでも、ガジュマルなど亜熱帯特有の樹木に出会える

奇岩が織りなす絶景も、間近でじっくりと観察できる
奇岩が織りなす絶景も、間近でじっくりと観察できる

特に人気なのが、岩が点在する森を進む「奇岩・巨石コース」と、青く澄んだ海や辺戸岬が見下ろせる「美ら海展望台コース」を組み合わせたルート。ここまでの3コースは精気小屋まで戻ってくるので、復路もバスに乗れるが、チケット売り場近くまで続く「ガジュマル・森林コース」を散策しながら帰るのがおすすめ。

奇岩・巨石コースと美ら海展望台コースは、終盤にバリアフリーコースと合流。精気小屋が終点となる
奇岩・巨石コースと美ら海展望台コースは、終盤にバリアフリーコースと合流。精気小屋が終点となる

精気小屋からの眺め。右の頂が大石林山のシンボル・悟空岩
精気小屋からの眺め。右の頂が大石林山のシンボル・悟空岩

奇岩を眺めながら、やんばるの自然の中を散策

奇岩・巨石コースは、森に点在する「イグアナ岩」「ラクダ岩」「縁結びの岩」といった巨石を眺めながら、やんばるの自然を堪能できる森林コース。距離は1キロで、所要時間は35分ほどだ。

森林浴を楽しみながら、カルスト地形が実感できる奇岩・巨石コース
森林浴を楽しみながら、カルスト地形が体感できる奇岩・巨石コース

動物に見立てた岩が多く、子どもたちが喜んで探していた。写真はラクダ岩で、他にサイやイグアナ、宇宙人などもある
動物に見立てた岩が多く、子どもたちが喜んで探していた。写真はラクダ岩で、他にサイやイグアナ、宇宙人などもある

右側が縁結びの岩。大石林山は子宝や良縁のパワースポットとしても知られている
右側が縁結びの岩。大石林山は子宝や良縁のパワースポットとしても知られている

林道を抜けると、大石林山のシンボル・悟空岩が出現。西遊記の孫悟空が生まれた中国・花果山に似ていることが由来という。

ここからさら尾根伝いに登って行くと、美ら海展望台コースに合流する。

悟空岩は一番のインスタ映えポイント。左に進むとバリアフリーコースに出る
悟空岩は一番のインスタ映えポイント。向かって左に進むと、精気小屋に戻る

向かって右手の階段を上り、美ら海展望台へと向かう
悟空岩の横にある階段を進めば、美ら海展望台に出られる

美ら海展望台コースは約900メートルで、所要時間は約30分。奇岩・巨石コースと重複部分があるので、2つを組み合わせた場合は50分ほどで回れる。

悟空岩から先には、「石林の壁」や「龍神岩」など信仰の場が集まっている。岩の間などに御願所が隠れているので、見逃さないように注意しよう。頂にある美ら海展望台からは、青く美しい海と辺戸岬が見下ろせ、快晴の日には約23キロも離れた鹿児島・与論島まで一望できる。

悟空岩のてっぺんに立つ龍神岩は、古くから信仰の対象だった
悟空岩のてっぺんに立つ龍神岩は、古くから信仰の対象だった

大石林山一のパワースポットといわれる石林の壁。朝日を浴びると神々しい姿となる
大石林山一のパワースポットといわれる石林の壁。朝日を浴びると神々しい姿となる

美ら海展望台からの眺め。右に見える岸壁の山がイヘヤ嶽で、左側で海に突き出しているのが辺戸岬
美ら海展望台からの眺め。右に見える岩壁の山がイヘヤ嶽で、左側で海に突き出しているのが辺戸岬

見落としてしまいそうだった石中の御願所
見落としてしまいそうだった石中の御願所

時間と体力に余裕がある人は、精気小屋で一休みしてから「ガジュマル・森林コース」へ。道のりは900メートルで、登り道は少なく、ゆっくり歩いても30分弱でチケット売り場に到着できる。

コース沿いには巨大なガジュマルが点在し、ソテツの群落も圧巻だ。終盤に現れる「御願(うがん)ガジュマル」は、大きく枝を広げ、樹冠の周囲は国内最大級だという。

“精霊の声が聞こえた”という報告もある「幸せのガジュマル」
“精霊の声が聞こえた”という報告もある「幸せのガジュマル」

大石林山には6万本ものソテツが自生する
大石林山には6万本ものソテツが自生する

朝日が差し込むように石が組まれた「東前(アガリメー)」と呼ばれる拝所
朝日が差し込むように石が組まれた「東前(アガリメー)」と呼ばれる拝所

チケット売り場近くの神木「御願(うがん)ガジュマル」
チケット売り場近くの神木・御願ガジュマル

辺戸岬や茅打バンタなど、周辺地域も魅力的

辺戸岬までは目と鼻の先で、車なら大石林山から5分ほど。高さ10メートルの断崖に、荒波がたたきつける光景は迫力満点だ。突端の傍らには「祖国復帰闘争碑」が立つ。2022年、沖縄は本土復帰50周年を迎えるので、訪れるのにふさわしい場所といえる。

辺戸岬近くのヤンバルクイナ展望台も隠れた人気スポット。かなり細い道を登らないとたどり着けないが、生い茂る木々の中から現れる巨大ヤンバルクイナは一見の価値あり。やんばるの自然や安須社、辺戸岬の雄大な景色が一望できる。

沖縄本島最北端にある辺戸岬。すぐ近くに、駐車場や観光案内所がある
沖縄本島最北端にある辺戸岬。すぐ近くに、駐車場や観光案内所がある

1976年に建立された祖国復帰闘争碑。辺戸岬と与論島でのろしを上げて、本土復帰を訴え続けたという
1976年に建立された祖国復帰闘争碑。この場所と対岸の与論島でのろしを上げ、本土復帰を訴え続けたという

高さ11.5メートルの巨大ヤンバルクイナ。その横に展望台の建物がある
高さ11.5メートルの巨大ヤンバルクイナ。その横に展望台の建物がある

ヤンバルクイナ展望台からの辺戸岬。手前にある沖縄最北端のビーチ・宇佐浜(うざはま)も人気スポット
ヤンバルクイナ展望台からの辺戸岬。手前にある沖縄最北端のビーチ・宇佐浜(うざはま)も人気スポット

大石林山から南西の海岸線に向かえば、すぐに「茅打(かやうち)バンタ」へと出る。バンタとは「崖」のことで、高さ約80メートルの断崖の上に展望台が設置してある。ここからの眺めは、沖縄の象徴的なパノラマといわれ、夕日が美しいことでも名高い。

今回は沖縄本島北端の名所を紹介したが、やんばるには他にも魅力的なスポットが盛りだくさん。沖縄を訪れる機会があれば、ぜひ北部まで足を延ばしてみてほしい。

新おきなわ観光名所100選にも指定される茅打バンタの絶景
新おきなわ観光名所100選にも指定される茅打バンタの絶景

大石林山の帰り道には、マングローブ林を抜けていく慶佐次川(国頭村)のカヌーや、ター滝(大宜味村)のリバートレッキングなどもおすすめ
大石林山の帰り道には、マングローブ林を抜けていく慶佐次川(東村)のカヌーや、ター滝(大宜味村)のリバートレッキングなどに立ち寄ろう

大石林山

  • 住所:沖縄県国頭郡国頭村宜名真1241
  • 定休日:なし
  • 受付時間:午前9時30分~午後4時30分(閉園午後5時30分)
  • 入山料金:大人(15歳以上)1200円、小人(4~14歳)550円、シニア(65歳以上)900円 ※障害者割引有り
  • アクセス:車で那覇から約2時間、美ら海水族館から約75分

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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