ノスタルジックな雰囲気漂う北九州市「門司港レトロ」:港町の歴史を物語る名建築を巡る

歴史

かつて貿易港として繁栄した北九州市の門司港。昭和の終わりから歴史的建造物が整備され、大正ロマン漂う観光地「門司港レトロ」に生まれ変わった。その歴史や見どころを紹介する。

九州の表玄関だった門司港

九州最北端に位置し、関門海峡に面する門司港。戦前は貿易港として栄え、神戸、横浜と並んで日本三大港に数えられた。明治から昭和初期の名建築が点在するノスタルジックな街並みは、昭和末から保存・整備が始まり、1995年に都市型観光拠点「門司港レトロ」としてオープン。夜景が美しいことでも知られ、コロナ禍前は年間200万人以上が訪れた人気スポットだ。

恋人の聖地に認定された歩行者専用跳ね橋「ブルーウィングもじ」。門司港レトロ地区のシンボルとして、1993年に完成した
恋人の聖地に認定された歩行者専用跳ね橋「ブルーウィングもじ」。門司港レトロ地区のシンボルとして、1993年に完成した

橋が跳ね上がるのは1日に6回。橋の上からは、対岸の下関や関門橋が見渡せる
橋が跳ね上がるのは1日に6回。橋の上からは、対岸の下関や関門橋が見渡せる

「門司港レトロ展望室」からの夕景。手前の建物は旧門司税関で、中央は門司港ホテル
「門司港レトロ展望室」からの夕景。手前の建物は旧門司税関で、中央は門司港ホテル

江戸時代、関門海峡の本州側・下関が北前船の寄港地としてにぎわっていたのに対し、門司側は塩田の広がる漁村だったという。渋沢栄一らによって門司築港会社が設立され、大規模な埋め立て工事が始まったのは1889(明治22)年から。

筑豊(福岡県中部)の石炭や米を積み出す特別輸出港の指定を受け、1891年には九州鉄道(現・JR鹿児島本線)が門司駅まで開通。九州鉄道の起点として本社も置かれ、陸海ともに九州の表玄関となったのだ。

国の重要文化財「JR門司港駅」は、1914年(大正3年)に門司駅として建築された
国の重要文化財「JR門司港駅」は、1914年(大正3年)に門司駅として建築された

門司港駅には「バナナの叩き売り発祥の地」の碑がある。台湾貿易も盛んだった
門司港駅には「バナナの叩き売り発祥の地」の碑がある。台湾貿易も盛んだった

門司港レトロ地区で最も古い1891(明治24)年完成の「旧九州鉄道本社」。現在は、九州鉄道記念館の本館になっている
門司港レトロ地区で最も古い1891(明治24)年完成の「旧九州鉄道本社」。現在は、九州鉄道記念館の本館になっている

2003年に開館した「九州鉄道記念館」の車両展示場。親子連れに人気のミニ鉄道公園もある
2003年に開館した「九州鉄道記念館」の車両展示場。親子連れに人気のミニ鉄道公園もある

大陸貿易で繁栄するが戦後に衰退、観光地化へ

中国大陸や朝鮮半島に近いため、日清戦争や日露戦争などを契機に商業が急発展。海運会社や商社、銀行などの支店が立ち並んだ。

1899(明治32)年の開港後、入港隻数では3年連続全国1位になるなど、神戸とトップ争いを続けていく。輸出入額も順調に伸び、明治後期から横浜、神戸、大阪に次ぐ第4位の貿易港に成長。第1次世界大戦後には青島航路が開かれ、1932(昭和7)年には満州・大連との間で定期便が就航した。

1912(明治45)年築の「旧門司税関」。左後ろに見えるのは「大連友好記念館」
1912(明治45)年築の「旧門司税関」。左後ろに見えるのは「大連友好記念館」

八角形の塔屋が美しい「旧大阪商船」は1917(大正6)年の建物。1階には「わたせせいぞうギャラリー」が入る
八角形の塔屋が美しい「旧大阪商船」は1917(大正6)年の建物。1階には「わたせせいぞうギャラリー」が入る

1929(昭和4)年完成の日満連絡船の発着所「旧大連航路上屋」
1929(昭和4)年完成の日満連絡船の発着所「旧大連航路上屋」

第2次世界大戦が近づくと、門司の繁栄にも陰りが見え始める。貿易は中国大陸に偏るようになり、戦況悪化とともに急速に衰えていく。1942(昭和17)年には、門司港から約5キロ南の大里町(だいりまち)付近に関門鉄道トンネルが開通。大里駅が門司駅に改称され、九州における陸路の玄関口となる。元の門司駅は門司港駅に変わり、鉄道路線における重要度は低下してしまう。

戦後は進駐軍に埠頭(ふとう)の一部を接収され、朝鮮戦争(1950~53)特需の恩恵にもあずかれなかった。石炭の輸出量も減少する中、近くにはコンテナ化に対応した新たな埠頭が完成し、貿易港としての役割は次第に失われていった。

1988(昭和63)年から、歴史的建造物を保存活用する「門司港レトロ」の整備事業を開始。跳ね橋のブルーウィングもじや、街を見下ろす和布刈(めかり)公園第二展望台なども新設する。その後も、九州鉄道記念館や海峡プラザ、レトロ展望室といった観光施設が増え、九州北部の人気スポットへと生まれ変わった。夜間はライトアップで、よりノスタルジックな雰囲気に包まれる。

レストランやカフェ、土産物屋が入る複合商業施設「海峡プラザ」。門司港レトロクルーズの発着所にもなっている
レストランやカフェ、土産物屋が入る複合商業施設「海峡プラザ」。門司港レトロクルーズの発着所にもなっている

門司港の名物グルメは「焼きカレー」。チーズの下に半熟卵が隠れているので、香ばしくもまろやかな味だ
門司港の名物グルメは「焼きカレー」。チーズの下に半熟卵が隠れているので、香ばしくもまろやかな味だ

日本を代表す建築家・黒川紀章設計の高層マンション「門司港レトロハイマート」。最上階を北九州市が買い取って「門司港レトロ展望室」としている
日本を代表する建築家・黒川紀章設計の高層マンション「門司港レトロハイマート」。最上階を北九州市が買い取って「門司港レトロ展望室」としている

旧門司三井倶楽部(くらぶ、1921年築)は、物理学者アインシュタインが宿泊したことでも知られる
旧門司三井倶楽部(くらぶ、1921年築)は、物理学者アインシュタインが宿泊したことでも知られる

トロッコ列車で関門橋方面へ、周辺観光も魅力的

週末や夏休み中は、九州鉄道記念館の前から関門橋が架かる和布刈地区まで、トロッコ列車「潮風号」が走っている。この「門司港レトロ観光線」は片道2.1キロ、所要時間約10分で駅は4つだけだが、それぞれに見どころがある。

「九州鉄道記念館」駅の次は「出光美術館」駅。門司港は石油元売り大手・出光興産の始まりの地で、出光美術館(門司)では創業者が収集した書画や陶磁器を中心に展示している。

レトロな内外装で鉄道ファンや子どもに人気の潮風号。大人片道300円、小児150円で、1日乗車券などもある
レトロな内外装で鉄道ファンや子どもに人気の潮風号。大人片道300円、小児150円で、1日乗車券などもある

創業者・出光佐三の貴重なコレクションを公開する出光美術館。石炭積出港として栄えた門司で、日本を代表する石油企業が誕生したのだ
創業者・出光佐三の貴重なコレクションを公開する出光美術館。石炭積出港として栄えた門司で、日本を代表する石油企業が誕生したのだ

その隣は、北九州市と姉妹都市を結ぶ米国バージニア州の港湾都市にちなむ「ノーフォーク広場」駅。巨大ないかりのオブジェ越しに、関門橋と行き交う船を間近に眺められる。この広場から終点の「関門海峡めかり」駅近くまで、海沿いには「めかり観潮遊歩道」が続く。関門橋の下をくぐり抜けてから和布刈公園でのんびりし、帰りは潮風号で一気に戻るのがおすすめだ。

和布刈公園の第二展望台は、関門橋の一番のビューポイント。その傍らにある、平家の終焉(しゅうえん)を描いた巨大壁画「源平壇ノ浦合戦絵巻」も見ものだ。

ノーフォーク広場は人気の写真スポット。関門海峡を通過する巨大な船が目の前に
ノーフォーク広場は人気の写真スポット。関門海峡を通過する巨大な船が目の前に

関門橋の下を通り抜けることができる、めかり観潮遊歩道。対岸に見える建物群は、壇ノ浦古戦場跡がある下関市みもすそ川町
関門橋の下を通り抜けることができる、めかり観潮遊歩道。対岸は壇ノ浦古戦場跡がある下関市みもすそ川町

和布刈公園第二展望台の背面には、壇ノ浦の戦いを描いた巨大壁画がある
和布刈公園第二展望台には、壇ノ浦の戦いを描いた有田焼の巨大壁画がある

関門橋の向こう側に下関市街地が広がる
関門橋の向こう側に下関市街地が広がる

和布刈公園第二展望台からの門司港の夜景
和布刈公園第二展望台からの門司港の夜景

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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