東京スカイツリー開業から10年(後編):時空を超えたランドマークへ、ライティングも進化

建築 地域

間もなく10周年を迎える東京スカイツリー。見る方向で趣が違う意匠や強化されたライティング、街並みの整備によって、より魅力的な観光スポットに成長している。

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見飽きることがなく、強度も兼ね備える

細身で近未来的なスカイツリーのデザインには当初、裾広がりで優雅なフォルムの東京タワーへの愛着からか違和感を持つ人もいたようだが、今ではすっかり首都の風景に溶け込んでいる。

浅草寺の仁王門越しのスカイツリー。日本の伝統的建築物とのコラボも見慣れてきた
浅草寺の宝蔵門越しにスカイツリーを望む。日本の伝統的建築物とのコラボも美しい

細身な構造は、敷地が東西に細長いという制約があるのが理由。土台部分を円形にした場合、直径で最大60メートルしかとれない。そこで、三角形にして一辺を70メートルに広げ、強度を出す方法を採用した。

ただ、電波を均等に発信し、展望エリアも360度見渡せるようにするには円形が望ましいため、土台の三角形を天望デッキまでに徐々に円形へと変化させた。その間には日本の伝統建築様式である日本刀のような“そり”、凸型に湾曲する“むくり”も加えている。

1階の団体フロアでは、三角形をした足元の頂点の一つ「西鼎(かなえ)」を間近に見られる。一番太い鉄骨は直径2.3メートルと大迫力
1階の団体フロアでは、三角形をした足元の頂点の一つ「西鼎(かなえ)」を間近に見られる。一番太い鉄骨は直径2.3メートルと大迫力

フロア340のガラス床から下をのぞくと、そりやむくり部分がよく分かる
天望デッキのフロア340にあるガラス床をのぞくと、写真中央部分の三角形の頂点にのびる鉄骨が徐々にそり返っていた。その左右には、緩やかに膨らむ「むくり」部分も見える

こうした複雑な形状のため、スカイツリーは眺める角度によって姿が違う。左右対称に見える方角もあれば、「休め」の姿勢のように片足を伸ばしてるように見えたり、傾いているように感じたりする場所もある。

一見シンプルだからこそ早くから東京の風景になじみ、実際は手の込んだデザインだからこそ見飽きることがない。設計コンセプトで掲げられていた「時空を超えたランドスケープ」を、幅の狭い土地で実現した名建築といえる。

(左)北十間川の柳島歩道橋からだと左右対称 (右)墨田区役所前からは左側の裾が広がっており、右に傾いているように錯覚する
(左)北十間川の柳島歩道橋からは左右対称 (右)墨田区役所前からは左側の裾が広がり、右に傾いているように錯覚する

世界初の制振技術も効果を発揮

折れてしまいそうな細長いフォルムを守る、耐震性能の肝となるのが世界初の「心柱(しんばしら)制振」技術。

スカイツリーはトラス構造の塔体の内側に、階段やエレベーターが入る鉄筋コンクリート製の円柱部分を持つ。その心柱は下部3分の1まで鋼材によって固定してあるが、上部3分の2は可動域としてオイルダンパーを介して塔体とつながれている。構造上の違いから心柱は塔体よりも少し遅れて揺れるため、互いの力を打ち消し合って揺れが軽減される仕組みだ。

2011年3月11日の東日本大震災では、東京でも震度5強の揺れを記録したが、建設中のスカイツリーに問題は一切発生しなかった。1週間後には避雷針を設置し、完成時の高さ634メートルに達したという実績がある。構造設計を担当した日建設計の小西厚夫氏は「(東日本大震災のような)大きな揺れの長周期地震動はもちろん、直下型地震動の小刻みな揺れに対しても制振効果があることが分かった」と胸を張る。

4階の正面エントランス前から見上げると、グレーの心柱部分がよく見える
4階の正面エントランス前から見上げると、グレーの心柱部分がよく見える

より輝きを増したLEDライティング

スカイツリーといえば、夜のライティングを忘れることはできない。建設当時、オールLED照明の大規模建造物は世界に類を見なかった。

従来の高輝度ランプの色表現は、フィルターを通して不要な波長領域をカットするため、光量が大幅に減少し、経年劣化で発色も変化していく。LEDの場合は、化合物の組み合わせで発光色を決められるので無駄がなく、光量が強い上に約4割の省エネルギー化にも成功している。

スカイツリー建設によって、発展途上だったLED照明技術が確立されたことで、ライティングをLED化する大型施設が一気に増えたことも大きな貢献だろう。

西鼎の周りに置かれているのがLED投光機器。かなり小型のため、設置場所にも融通が利く
西鼎の周りに置かれているのがLED投光機器。かなり小型のため、設置場所にも融通が利く

また、LEDによる省スペース化を生かし、建物のライティングでは珍しい下向きの投光、ライトアップならぬ“ライトダウン”も採用している。天望デッキや天望回廊の下に目立たないように投光器を設置することで、下に行くほど光が淡くなり、富士山の冠雪のような美しいグラデーションを描く。照明を担当した海宝幸一氏は「ライティングというより、建物を色で染め上げる」と語っていたが、江戸文化の香りが残る墨田区にぴったりの表現に感じられた。

スカイツリーほどの大型建造物になると、“光害”への配慮も必要だ。ここでも下向き投光器が一役買った。塔体は照らしても、なるべく敷地から光が漏れないようにコントロールしなければ近隣住民の迷惑となるが、敷地は幅が狭いという悪条件。下向きの光を組み合わせられたことで、光の広がりを抑えやすくなったという。

日没後の1時間は、白を基調としたシンプルな演出で、グラデーションの美しさが際立つ。電車が走る隅田川橋梁の下部分が「すみだリバーウォーク」で、タワー右の建物は墨田区役所
日没後の1時間は白を基調としたシンプルな演出で、グラデーションの美しさが際立つ。電車が走る隅田川橋梁の下部分は浅草との回遊ルートとなる歩道橋「すみだリバーウォーク」、タワー右の建物は墨田区役所

下から天望デッキを見上げても、照明機器は全く見つけられない
下から天望デッキを見上げても、照明機器は全く見つけられない。LEDは紫外線を出さないため、虫が集まる“虫害”も防ぐことができる

ライティングデザインは当初、淡いブルーを基調にした「粋(いき)」と、江戸紫に金箔(きんぱく)を織り交ぜたような「雅(みやび)」の2種類の日替わりで始まったが、開業5周年の17年から橘色(オレンジ)を基調にした「幟(のぼり)」が加わった。20年には照明機器の増強工事を実施し、通常ライティング3種もリニューアルされ、より輝きを増している。

開業から10年近く経過しても、スカイツリーは進化を続け、タワーのある街づくりも継続中だ。東京スカイツリータウンの広報担当者も「コロナ禍で観光客は激減したが、地元や沿線の方々に本当に支えられた。足元を大切にし、地域ぐるみの開発を続けてきて良かったと、より実感できた」と話す。

「一度行ったことがあるから」と思っている人には、もう一度スカイツリーを訪れ、周辺地域もゆっくりと散策してみてほしい。新しい発見や感動がきっとあるはずだ。

スカイツリーではライトアップではなく、ライティングと表現しているが、誕生までの経緯を考えると納得できる。浅草文化観光センターの展望テラスから撮影した「雅」
下向き投光器も設置するスカイツリーでは、ライトアップではなく「ライティング」と表現している。浅草文化観光センターの展望テラスから撮影した「雅」

正面エントランス内にある「隅田川デジタル絵巻」。スカイツリーは墨田区を中心とする下町観光の拠点として機能している
正面エントランス内にある「隅田川デジタル絵巻」。スカイツリーは墨田区を中心とする下町観光の拠点として機能している

写真=ニッポンドットコム編集部
バナー:江戸時代の美意識を表現したというライティング「雅」

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