巨大な山車灯籠で300年の歴史伝える弘前市「津軽藩ねぷた村」:津軽三味線や伝統工芸も体感

文化

300年祭を迎える「弘前ねぷたまつり」の歴史や特徴に加え、津軽地方の伝統芸能や工芸品を紹介する「津軽藩ねぷた村」。実物大の山車灯籠(だしとうろう)の展示、ねぷた囃子(ばやし)や津軽三味線の実演など見どころ満載の観光施設だ。

青森の夏の風物詩「ねぶた」や「ねぷた」。笛や太鼓、勇壮な掛け声が響く中、武者絵で飾られた山車灯籠を引いて練り歩く、盛大な祭りだ。青森市の「青森ねぶた祭」が抜群の知名度を誇るが、長い歴史を持つのは津軽藩の城下町で繰り広げられる「弘前ねぷたまつり」。江戸時代には藩主も見物したと伝わり、文献に残る最も古い記載の1722年から数えて、2022年夏で300年祭を迎える。

高さ10メートルの山車灯籠の展示を目玉に、弘前ねぷたの魅力を発信するのが「津軽藩ねぷた村」(弘前市亀甲町)。津軽三味線の生演奏を聴いたり、伝統工芸品の製造風景を眺めたりできる体感型施設だ。

津軽藩ねぷた村には有料の見学エリアの他、土産物がそろう売店やJAの直売所、郷土料理店などが入る
津軽藩ねぷた村には有料の見学エリアの他、土産物がそろう売店やJAの直売所、郷土料理店などが入る

展示の目玉、実物大の山車灯籠。周りを回遊できるように展示してある
展示の目玉、実物大の山車灯籠。周りを回遊できるように展示してある

“ねぷた”と“ねぶた”の違い

見学エリアは「弘前ねぷたの館(やかた)」からスタート。最初に係員が、弘前ねぷたの歴史や特徴を解説し、笛と太鼓で祭り囃子を実演してくれる。

「ねぷた」や「ねぶた」の起源は、七夕の灯籠流しの変形で、東北地方で盛んだった「眠り流し(ねむた流し)」。元々は農家にとって繁忙期の夏、仕事の妨げになる睡魔を追い払うため、灯籠や笹竹を川や海に浮かべて流した。本州最北端に位置し、夏の短い青森では特に大切な行事で、地域ごとに独自性を帯びて発展してきたという。

祭りの名は、眠気を表す「ねむた」が転訛(てんか)したもの。城下町の弘前や五所川原など内陸部では、やわらかい響きの「ねぷた」と呼び、青森市など沿岸部は威勢のいい漁師言葉の影響で「ねぶた」と濁ったなどと考えられている。

弘前ねぷたの館の入場口
弘前ねぷたの館の入場口

係員が随時、弘前ねぷたの歴史や特徴を、実演も交えて楽しく解説してくれる
係員が随時、弘前ねぷたの歴史や特徴を、ねぷた囃子の実演も交えて楽しく解説してくれる

地域ごとに特徴がある山車灯籠

祭りの主役・山車灯籠も、地域ごとに形が違う。元々は四角く簡素だった灯籠が徐々に大型化し、江戸時代後期に人形型(人形ねぶた、組みねぷた)が作られるようになり、明治半ばからは扇形(扇ねぷた)が増え始めた。今では弘前が扇型、青森ねぶたは横広の人形型で、五所川原は縦長の「立佞武多(たちねぷた)」が特徴と知れ渡っている。

弘前の扇形は、綱を引くと裏表が回転する仕組み。正面の「鏡絵(かがみえ)」は、中国の三国志や水滸伝(すいこでん)、日本の戦国武将の逸話などを題材とし、躍動感あふれるものだ。裏面は一転、中央に「見返り絵」という美人画が描かれ、“静”の印象を与える。

江戸初期からの灯籠の変遷をうかがい知れる古典ねぷたの展示
江戸初期からの灯籠の変遷がよく分かる古典ねぷたの展示

回転中の扇ねぷた。裏面の美女も、鏡絵の題材と関連する人物が選ばれる
回転中の扇ねぷた。裏面の美女も、鏡絵の題材と関連する人物が選ばれる

弘前ねぷたにも、少数ながら人形型が登場する。台座にある「雲漢(うんかん)」の文字は「天の川」のことで、七夕祭りの名残だという
弘前ねぷたにも、少数ではあるが人形型が登場する。台座にある「雲漢(うんかん)」の文字は「天の川」のことで、七夕祭りの名残だという

弘前で扇形が大半を占めるようになったのには、手間や費用面の理由が大きい。青森ねぶたは山車にスポンサーが付き、毎年1基当たり約2000万円を費やす。ねぶた作りを職業とする「ねぶた師」が構想を練り、骨組みから3カ月かけて作り上げる。

対して弘前では、昔ながらの町会やグループ単位で参加。フレームを使い回すことが可能な扇形で、手間や経費を抑えている。そのため、「ねぷた絵師」は皆本職を持っており、“地域の祭り”の風情がより色濃く残っているという。

灯籠内部をのぞけるように展示してある。骨組みは津軽特産のヒバ材を使用
灯籠内部ものぞけるように展示してある。骨組みは津軽特産のヒバ材を使用

扇ねぷたの骨組みの模型
扇ねぷたの骨組みの模型

ねぷた絵師を紹介する展示。プロフィル欄に、それぞれの本業が書かれているのが面白い
ねぷた絵師を紹介する展示。プロフィル欄に、それぞれの本業が書かれているのが面白い

「ヤーヤドー」の掛け声や金魚ねぶたの由来

弘前ねぷたの館の次は、貴重な資料を展示し、金魚ねぷた作りの実演コーナーもある「ヤーヤ堂」へと順路は続く。

青森ねぶたの掛け声「ラッセラー」のように、弘前ねぷたでは「ヤーヤドー」と声を上げる。古いねぷた歌の「いやいやいやよ」が変化したという説と、けんかの怒声「ヤー! ヤァ!」を語源とする説があるが、五所川原の「ヤッテマレ」が「やってしまえ」の意であるように、ねぷたにはけんかが付き物。他の山車を威嚇する怒声説が有力なようだ。

金魚ねぷたは、津軽藩主が大切に育てた「津軽錦」という金魚をかたどったもの。当時は交易品として藩の財政を支えることが期待されたらしいが、繁殖に失敗し、品種は江戸時代に途絶えた。殿様が愛した金魚は、灯籠に姿を変えて残り、祭りの日には子どもたちがちょうちんのようにぶら下げて歩く。

貴重な文献やねぷたの下絵などが展示してあるヤーヤ堂
貴重な文献やねぷたの下絵などが展示してあるヤーヤ堂。右に見えるのが金魚ねぶたの製造実演コーナー

地元の高校生が作成した、ねぷた運行の隊列の模型
地元の高校生が作成した、ねぷた運行の隊列の模型

子どもに人気の金魚ねぷた。干支をかたどったものなど、発展型も多い
子どもたちに人気の金魚ねぷた。干支をモチーフにしたものなど発展型も多い

伝統工芸や津軽三味線など地域文化も発信

伝統工芸や津軽三味線も体感できる。津軽蔵工房「たくみ」では「津軽塗」や「津軽焼」、刺しゅうの「こぎん刺し」などの職人の仕事を眺め、実際に製作体験することも可能だ。

その奥にある「山絃堂(さんげんどう)」では、津軽三味線の資料を展示する。津軽藩ねぷた村では毎日生演奏を開催しており、出演者は一流ぞろいで、マイクを通さない音色は迫力満点だ。

津軽蔵工房「たくみ」では、伝統工芸品の逸品も購入できる
津軽蔵工房「たくみ」では、伝統工芸品の逸品も購入できる

漆を塗っては研ぎ、模様を浮きあがらせる津軽塗の作業風景。職人さんに声を掛けると、質問などに答えてくれる
漆を塗っては研ぎ、模様を浮き上がらせる津軽塗の作業風景。職人さんに声を掛けると、質問などに答えてくれる

現在は、ねぷたの館で開催している津軽三味線の生演奏。写真の山田里千美(さちみ)さんは、津軽三味線全国大会の女性部門で2連覇を達成した名手だ
津軽三味線の生演奏。写真の山田里千美(さちみ)さんは、津軽三味線全国大会の女性部門で2連覇を達成した名手だ

見学エリアは日本庭園「揚亀園(ようきえん)」で終了となるが、土産物がそろう売店や直売所、かまど炊きのご飯で郷土料理が堪能できる食堂「旨米屋」も人気。弘前ねぷたに加え、津軽地方の文化まで深く知ることができる津軽藩ねぷた村は、青森観光に欠かせないスポットだろう。

揚亀園は津軽独特の大石武学流庭園で、国の登録記念物
揚亀園は津軽独特の大石武学流庭園で、国の登録記念物

庭園内にある弘前市指定文化財の茶室「揚亀庵」
庭園内にある弘前市指定文化財の茶室「揚亀庵」

津軽藩ねぷた村

  • 住所:青森県弘前市亀甲町61
  • 営業時間:午前9時~午後5時(閉館は午後5時30分)
  • 休館日:年中無休
  • 入村料金:一般550円、中高生350円、小学生220円、幼児(3歳以上)110円
  • アクセス:JR「弘前」駅から、弘南バス・ためのぶ号で15分の「津軽藩ねぷた村」下車すぐ

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

観光 青森 弘前市 祭り 青森市 伝統工芸 青森ねぶた祭 祭り・行事・歳時記 ねぶた祭り 三味線 ねぷた