縄文時代のイメージ覆した青森市「三内丸山遺跡」:野球場建設予定地だった世界遺産の大規模集落跡

歴史

2021年7月、ユネスコの世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」。構成資産で代表格といえるのが、青森市にある大規模集落跡「三内丸山遺跡」だ。縄文ロマンを感じさせる遺跡の風景や出土品と共に、併設する「縄文時遊館」の展示も紹介する。

本格調査開始から30年で世界遺産に

縄文時代は、日本独自の時代区分。紀元前1万3000年から、稲作が広まる弥生時代(前3世紀-後3世紀)までの1万年以上にわたる。世界の他の地域では、農耕や牧畜と共に定住を開始したのに対し、その期間の日本では狩猟や採集、漁労を基盤として集落を築いた。土器や弓矢を使い、遠く離れた集落と交易しながら、祭祀(さいし)・儀礼などを通じて精神世界も共有したという。

日本固有の文化を伝える集落跡や共同墓地は2021年7月、「北海道・北東北の縄文遺跡群」としてユネスコの世界文化遺産に登録された。17の構成資産の中で、最も知られるのが青森の「三内丸山遺跡」(青森市大字三内字丸山)。沖館川沿いの高台に広がる42ヘクタールの大規模集落跡で、約5900年前から4200年前まで定住生活が営まれていたと推測される。

広大な三内丸山遺跡を高台から撮影。集落の幹線道路は、幅12メートルもあったという
広大な三内丸山遺跡を高台から撮影。集落の幹線道路は、幅12メートルもあったという

三内丸山のシンボル・大型掘立柱建物(左)と大型竪穴建物(右)
三内丸山のシンボル・大型掘立柱建物(左)と大型竪穴建物(右)

現在は、竪穴式住居や大型掘立柱建物を復元した遺跡に、展示施設・さんまるミュージアムや、発掘した土器の接合や復元をする整理作業室、ショップ、レストランなどが入る「縄文時遊館」が併設する。青森駅から南西に約3キロとアクセスも良く、今では県を代表する観光スポットだが、本格的な発掘調査が始まったのは1992(平成4)年からと歴史は浅い。しかも、調査終了後には県営野球場を建設する予定だったという。

三内丸山遺跡のエントランス。右奥に見えるのが縄文時遊館
三内丸山遺跡の入場口。右奥に見えるのが縄文時遊館

縄文時遊館内にある敷地のジオラマ。右奥の時遊トンネルを抜けると、遺跡が広がっている
縄文時遊館内にある敷地のジオラマ。右奥の時遊トンネルを抜けると、遺跡が広がっている

縄文文化のイメージを塗り替えた発見の数々

この土地に遺跡があることは、古くから知られていた。江戸時代初期の『永禄日記(館野越本)』にも、「三内村から大小の土器や、土偶が出土した」と記述が残るが、あまり重要視されることはなく、20世紀の終わりには青森県総合運動公園の拡張事業に組み込まれていた。

発掘調査で見つかった遺構や出土品は、それまでの縄文観を覆すものだった。気候や狩猟など自然環境に左右されるばかりでなく、クリを栽培し、果実酒を造っていた形跡や、タイやブリ、サバなどの魚の骨も見つかり、自然の恵みを活用して定住生活を営んでいたことが分かったのだ。

さんまるミュージアムでは、原寸大の人形などで縄文時代の生活を再現している
さんまるミュージアムでは、原寸大の人形などで縄文時代の生活を再現している

ゴミ捨て場として使われていた「北の谷」。水分の多い低湿地のため、酸化しづらく、漆器などの木製品、木の実、動物や魚の骨などが残存していた
ゴミ捨て場として使われていた「北の谷」。水分の多い低湿地のために酸化しづらく、漆器などの木製品、木の実、動物や魚の骨などが残存していた

生活廃棄物が積み重ねられた「盛土(もりど)」。土器や石器などを時代順に発掘できた
生活廃棄物が積み重ねられた「盛土(もりど)」。時代順に土器や石器などを発掘できた

竪穴住居跡は約650棟もあり、長さ32メートル、幅9.8メートルの大型竪穴建物跡も発見。同時期に最大500人近くが生活していたとの説もある。集落のメイン道路は幅12メートルもあり、長さは420メートル以上。海辺まで続いていたと考えられ、その両側に並ぶ墓所には、矢尻やペンダントなどが副葬されていた。

出土品の中には、北海道や佐渡の黒曜石、新潟・糸魚川のヒスイ、岩手・久慈の琥珀(こはく)などがあり、広範な地域と交易があったことがうかがえる。

復元した竪穴建物。内部中央には炉が置かれていた
復元した竪穴建物。内部中央には炉が置かれていた

集落の中央付近で見つかった大型竪穴建物跡。集会所や共同作業所として使われたと推測される
集落の中央付近で見つかった大型竪穴建物跡。集会所や共同作業所として使用していたと推測される

掘立柱建物(復元)は内部をのぞけるようになっている
掘立柱建物(復元)は、内部をのぞけるようになっている

出土品の原産地を解説する展示。広範囲に散らばっているのが分かる
出土品の原産地を解説する展示。広範囲に散らばっているのが分かる

そして最大の発見は直径2メートル、深さ2メートルの6つの柱穴。4.2メートル間隔で3本×2列に整然と並ぶのは、測量技術が存在した証拠である。

穴の中からは、直径約1メートルあるクリの木柱の一部も見つかった。腐食を防ぐために周囲や底を焦がしており、そのおかげで残存したようだ。この大型掘立柱建物跡の正体には「高さ20メートル級の祭祀場」など諸説あるが、当時から高い建築技術を有したことは間違いない。

大型掘立柱建物跡はドーム状の建物内に保存してある。地下水が豊富なことも、クリの柱が残っていた一因だ
大型掘立柱建物跡はドーム状の建物内に保存してある。地下水が豊富なことも、クリの柱が残っていた一因だ

復元した大型掘立柱建物と、柱穴を保存しているドーム
復元した大型掘立柱建物と、柱穴を保存しているドーム

1994年7月、大型掘立柱建物跡の発見が一斉に報じられると、全国で縄文文化への関心が一気に高まる。当時の青森県知事・北村正哉氏はわずか1カ月で、野球場建設を中止し、遺跡を保存・活用していくという英断を下した。

三内丸山遺跡は2000年に国の特別史跡となり、3年後には約2000点もの出土品が重要文化財に指定され、世界遺産登録に大きく貢献した。

重要文化財がズラリと並ぶ、さんまるミュージアム内の「縄文人のこころ」コーナー
重要文化財がズラリと並ぶ、さんまるミュージアム内の「縄文人のこころ」コーナー

三内丸山遺跡の出土品の中で、特に有名な大型板状土偶(重要文化財)
三内丸山遺跡の出土品の中で、特に有名な大型板状土偶(重要文化財)

縄文ロマンをかき立て続ける大規模遺跡

広大な遺跡を効率的に巡るには、無料のガイドツアーに参加するのがおすすめ。所要時間は1時間ほどで、ボランティアガイドが縄文時代の暮らしや発掘調査当時の様子などを詳しく解説してくれる。

ツアー参加者からは「こんな貴重な遺跡の上に、野球場を造ろうとしていたなんて」といった声も聞かれたが、公園拡張計画が幸いした面もあるという。通常の遺跡調査はもっと面積を絞って発掘するため、全貌をつかむのは難しく、時間も要する。野球場を含む広大な建設予定地だったため、これだけ大規模な集落跡や数多くの文化財を短期間で発見できたのだ。

三内丸山遺跡の発掘調査は、現在進行形。ボランティアガイドは「自分が案内を始めてからも、新しい発見がどんどん増え続けている。この遺跡は縄文ロマンをかき立て続けるので、ぜひ再訪してほしい」とツアーを締めくくっていた。

ボランティアガイドの中には発掘作業に携わる人もおり、貴重なエピソードを交えて解説してくれる
ボランティアガイドの中には発掘作業に携わる人もおり、貴重なエピソードを交えて解説してくれる

大型竪穴建物の内部。ボランティアガイドの巧みな話術で、縄文時代にタイムスリップ
大型竪穴建物の内部。ボランティアガイドの巧みな話術で、縄文時代にタイムスリップ

遺跡見学の後は、縄文時遊館をゆっくりと巡ろう。さんまるミュージアムは土器や土偶、石器など重要文化財500点を含む、約1700点の貴重な出土品を展示。パネル展示もデザイン性が高く、原寸大の人形を使った縄文人の生活を再現したコーナーは、子どもでも理解しやすい。

整理作業室はガラス張りなので、発掘品の修復や復元の様子を見学可能。同じ一角にある高さ6メートルの「縄文ビッグウォール」は、5120個もの土器のかけらが埋め込まれていて壮観だ。

展示品の一部には、QRコードが設置してある。スマートフォンで読み込むと、解説動画が視聴可能
展示品の一部には、QRコードが設置してある。スマートフォンで読み込むと、解説動画が視聴可能

貴重な出土品がめじろ押しの「土器ステージ」
貴重な出土品がめじろ押しの「土器ステージ」

美しく並べられたナイフ上の石製や石針などの展示
美しくレイアウトされたナイフ状の石器や石針など

整理作業室のガラス面で、発掘作業の手順を解説。左手で、出土品の修復作業をしている
整理作業室のガラス面では、発掘作業の手順をパネルで解説。左側に、出土品の修復作業をしているのが見える

大迫力の「縄文ビッグウォール」。整理作業室と地下の収蔵庫をつなぐ吹き抜けにある
大迫力の「縄文ビッグウォール」。整理作業室と地下の収蔵庫をつなぐ吹き抜けにある

ミニ土偶や勾玉(まがたま)を制作できる体験工房や、縄文グッズがそろうミュージアムショップは思い出づくりにうってつけ。「れすとらん 五千年の星」では、縄文人が食べていたであろう、栗やどんぐり、古代米などを用いたメニューが好評だ。

縄文ロマンにもっと浸りたい人は、車で20分ほどの小牧野遺跡へ。三内丸山遺跡にはない環状列石(ストーンサークル)を眺め、当時の暮らしや文化に思いをはせよう。

Tシャツや小物、文房具など三内丸山遺跡オリジナルグッズがそろうミュージアムショップ。土偶や勾玉作りの体験キットも販売している
Tシャツや小物、文房具など三内丸山遺跡オリジナルグッズがそろうミュージアムショップ。土偶や勾玉作りの体験キットも販売している

栗とどんぐり、長芋が練り込まれた「縄文うどん」と、古代米(赤米)を栗とホタテ、山菜で炊き上げた「縄文古代飯おにぎり」
栗とどんぐり、長芋が練り込まれた「縄文うどん」と、古代米(赤米)を栗とホタテ、山菜で炊き上げた「縄文古代飯おにぎり」

同じく世界遺産に登録される「小牧野遺跡」(青森市大字野沢字小牧野)
青森空港に程近い、世界遺産に登録される「小牧野遺跡」(青森市大字野沢字小牧野)

三内丸山遺跡

  • 住所:青森県青森市三内字丸山305
  • 営業時間:午前9時~午後5時、※GWと6月1日~9月30日は、午後6時閉館
  • 休館日:毎月第4月曜日、12月30日~1月1日
  • 観覧料:一般=410円、高校生・大学生=200円、中学生以下=無料
  • アクセス:JR「青森」駅から市営バス「三内丸山遺跡行き」で約30分。JR「新青森」駅から徒歩30分、シャトルバス「ねぶたん号」で約15分

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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