サーモンと共に日本に浸透するノルウェー産サバ:かつて酷評も、質の良さで人気獲得

暮らし

日本で人気のノルウェー産の魚といえばサーモンだが、実は輸入量はサバの方が断然多い。流通当初は不評だったにもかかわらず、今では国産を凌駕する勢いだ。ノルウェーサバの特徴や需要拡大までの経緯を、現地取材したばかりの筆者が解説する。

輸入量でサーモンを上回るノルウェーサバ

世界3大漁場の1つ、北東大西洋に面するノルウェーは、サーモンをはじめとするさまざまな魚を海外へ供給する水産輸出大国だ。日本も多くの魚を輸入しており、依存度は年々高まっている。回転ずしでおなじみのサーモンは、今やマグロをしのぐほどの人気で、スーパーで目にする機会も増えた。

実はサーモン以上に日本に浸透しているノルウェー産の魚があるのを、ご存じだろうか? 秋から冬に旬を迎える「サバ」だ。ノルウェー水産物審議会(NSC)によると、2021年の日本への輸出量は5.4万トンで、サーモンの3.8万トンを大きく上回る。中国やベトナムで三枚おろし(フィレ)にしたものなど、第三国経由の加工品を含めれば、「実数は20万トンに近く、日本で消費するサバの約半分に当たる」とも言われている。比較的単価が安く、定食や弁当のおかずなど日常食として消費する場合がほとんどで、原産国を意識することは少ない。すしネタのサーモンほど目立つ存在ではないが、日本人の食生活に欠かせないものになっている。

日本が大量に輸入するノルウェーサバのフィレ 写真:筆者提供
日本が大量に輸入するノルウェーサバのフィレ 写真:筆者提供

当初は市場から拒絶

1990年ごろ、流通し始めたばかりのノルウェーサーモンは、築地市場で大苦戦したことが知られている。バブル景気で沸いた高級すし店では、“国産・天然・生”のいわゆる「上もの鮮魚」がもてはやされ、「冷凍」「養殖もの」のサーモンは見向きもされなかった。元々、日本では寄生虫の危険性があるサケを生食する習慣がない。ベテランの豊洲・競り人が「養殖で生食できるサーモンと聞いても、口に運ぶ気にはならなかった」というように、「邪道」と受け取られたのだ。

関連記事>サーモンがマグロ超え、不動の人気確立:豊洲・銀座のすし店にも浸透

ノルウェーのサーモン加工場での骨抜き作業 写真:筆者提供
ノルウェーのサーモン加工場での骨抜き作業 写真:筆者提供

同時期に輸入が始まったサバも、サーモン同様に評価は極めて低かった。ノルウェー産はタイセイヨウサバで、国産のマサバやゴマサバと味も見た目も違う。

当時、市場関係者は「脂がきつく、魚体のしま模様が目立つのも見慣れない」と、消費者の拒否反応を懸念。大手スーパーの元チーフバイヤーも、「国産の調達が難しい時期に取り扱うことを検討したことが、店舗の担当者と話をしても、否定的な意見しか出なかった」と振り返る。

日本に送られる新鮮なノルウェー産サバ。くっきりとしたしま模様が特徴だ 写真:ノルウェー水産審議会提供
日本に送られる新鮮なノルウェー産サバ。くっきりとしたしま模様が特徴だ 写真:ノルウェー水産審議会提供

国産サバ、小さく脂薄が顕著に

サーモンはバブル景気の崩壊で、1皿100円を売りにする回転ずしブームが到来し、追い風となった。サバには大きな転換期があったわけではないが、気が付けば日本の食生活に深く入り込んでいた。「サケを生で食べる」というハードルに比べれば、塩サバやみそ煮など加熱調理が前提のため、受け入れやすかったのかもしれない。

国産の方は1980年代から90年代にかけて、100万トン近くを記録する年もあり、漁港はサバラッシュに沸いた。大型で脂が乗ったサバも多く、国産だけで十分に消費を賄えていたのだ。ところが、水揚げ量は徐々に勢いを失い、近年は40万トン前後。「小ぶりで脂乗りも悪い。塩焼きに適した大型は極端に少なくなった」と、水産関係者は口をそろえる。

一方、ノルウェーでは厳しい資源管理の下、旬の秋に沿岸部で集中的に漁獲するので、サイズも国産に比べて大きい。9月下旬に視察でノルウェー南部西岸のオーレスンを訪れると、今年もサバがは順調に水揚げされていた。水産加工場では、買い付けに来ていた日本の業者が「日本で需要のある500グラム以上の大型魚の割合が3割ほどで、国産(およそ1割)よりもかなり多い」と満足気だった。

大西洋でサバを漁獲するノルウェーの大型巻き網漁船 写真:筆者提供
大西洋でサバを漁獲するノルウェーの大型巻き網漁船 写真:筆者提供

かつては「きつ過ぎる」と不評だった脂について聞くと、「初期の頃は、鮮度保持技術が十分ではなかったと思う。ノルウェーにとって上客の日本のニーズに合わせて、新鮮な状態で空輸されるようになったので、断然おいしくなった」と分析していた。加工会社の幹部も「日本の水産関係者から、厳しい意見と共に、細かなアドバイスをもらったのが大きい。特に鮮度管理の改善には最大の努力を重ねてきた」という。

鮮度の維持は漁船の上から始まっており、「漁獲後すぐにマイナス2度から0度の『クーリングタンク』に入れ、死後硬直状態をキープする。加工場の作業の流れも無駄をなくし、飛躍的に品質がアップした」そうだ。

オーレスンの水産加工場で、素早く処理されるサバ 写真:筆者提供
オーレスンの水産加工場で、素早く処理されるサバ 写真:筆者提供

国産魚との共存も必要-消費者団体

いまや外食業界からの信頼も厚い。定食屋チェーンの「大戸屋ごはん処」では、不動の人気を誇る「さば炭火焼き定食」「さばの味噌煮定食」で主にノルウェーサバを使う。マーケティング本部は、「大型魚で脂が乗っている。鮮度がよく、品質が均一」とお墨付きを与える。

関東と関西を中心に500店舗以上を展開する「オリジン弁当」のサバの塩焼きは、20年近く前からノルウェー産が主体。「国産を使うこともあったが、近年はお客さまがノルウェー産の脂の乗りに慣れている」(オリジン東秀)と、日本人の嗜好(しこう)の変化を指摘。「Hotto Motto(ほっともっと)」でも、総菜のサバの塩焼きは「ずいぶん前からほとんどがノルウェー産」(運営するプラナスの広報担当者)という。

こうなると、国産サバの方が心配になる。近年は日本国内であまり消費されず、輸出に回される割合が急増中だ。サバの消費者団体「全日本さば連合会」の幹部は、「国産サバの多くが小さく、脂の乗りも良くない面は否定できないが、各地にはおいしいサバ料理がある。今後はノルウェー産を食べながら、国産の有効利用も同時に考えなくてはならない」と話している。

ノルウェーサバの塩焼き 写真:筆者提供
ノルウェーサバの塩焼き 写真:筆者提供

バナー:大西洋で大型巻き網漁船によって漁獲され、水産加工場に運び込まれたノルウェー産のサバ ノルウェー水産審議会提供

食文化 食品 漁業 水産業 魚介類 輸入 サバ 水産物 魚食文化 サーモン 海産物