胸熱すぎて眠れないホテル 「MANGA ART HOTEL, TOKYO」の仕掛け人が目指す”優しい世界”<後編>

文化

世界中から日本に注目が集まる2020年。日々、日本そして東京ならではの文化や風土を生かした新しい宿泊体験を提供する宿が誕生しています。そんな中、約190もの書店が集まる世界最大の「本の街」と称される神保町に、一晩中漫画を楽しめるコンセプト型のカプセルホテル「MANGA ART HOTEL, TOKYO」が誕生。

後編では、そんな斬新なホテルを手がけられた株式会社dot 共同代表取締役の御子柴雅慶さんを直撃。アイデアの生まれた背景や、今後の展望などを伺いました。

グローバルな共通言語「MANGA」を通じて、世界の人をつなぐ場所をつくりたい

──はじめに、『MANGA ART HOTEL, TOKYO』を立ち上げるまでの背景を教えてください。

2014年に楽天株式会社から独立し、ECの運営支援を行う会社を立ち上げました。初期に寝具メーカーのコンサルをやっていた時に、試着や試食のように、布団も買う前にまず使ってもらってことが重要だと思い、ショールーム型のECを始めようと思いました。当時はAirbnbが日本上陸する直前だったのですが、海外で使った経験があったので、寝具を使って買ってもらえる民泊をはじめました。

はじめてみると、予想以上に宿泊費が儲かったこともあり、民泊経営にシフトすると、ちょうどインバウンドの波も一気にきました。

その後、クラウドファンディングでパリで最先端の民泊の法整備を実地調査に行きました。それがきっかけで、2015年にNHK「クローズアップ現代」に出演すると、各所から民泊を運営して欲しいという声が殺到し、現在の会社を設立しました。現在は、エリアは札幌から沖縄まで、宿泊形態も旅館から簡易宿泊所まで、幅広く運営しています。

──そんな中『MANGA ART HOTEL, TOKYO』のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

学生時代から、国際政治や紛争解決に強い関心がありました。そんな異なる国同士の争いの解決に一番重要なのは、相互不理解を解消するための「共通言語」と言われています。

たとえば海外の人と会話する時も、言語がどれだけできるかよりも、「ジャスティン・ビーバーが好き」とか「アーセナルのファンなんだ」のようなグローバルな「共通言語」があるとコミュニケーションしやすいですよね。世界的に「日本=アニメや漫画」のイメージが強いので、「MANGA」を共通言語として、世界中が繋がれる場所を作りたいと思いました。

「その漫画は、感情を揺さぶるか」選書の視点は、内容と装丁のアート性

──ホテルの名前には「漫画」と「アート」という、一見遠いイメージのある言葉が並んでいます。ここにはどんな想いが込められているのでしょうか?

私たちが「漫画」と聞くと、喫茶店や漫画喫茶で読まれているような娯楽的な消費のされ方が思い浮かびます。一方、現在大英博物館で「マンガ展」が開催されているように、海外の人にとっての「MANGA」はアートに近い存在として捉えられているので、漫画をアートの次元まで昇華したいという想いがあります。

──作品をキュレーションする際のこだわりを教えてください。

「装丁のアート性」と「内容のアート性」を重視しています。

「装丁のアート性」は、フォントや色合い、背表紙のデザインで判断しています。海外からのお客さんで、長期滞在にも関わらず、漫画自体は1〜2冊しか読まなかったけれど、漫画に囲まれたこの空間が好きだからという理由で宿泊してくれる方も多いです。その話を聞くと、漫画のインテリア性や装丁のアート性が大事だと実感します。

「内容のアート性」は、その漫画がアートのように「感情を揺さぶるか・起因するか」を判断しています。というのも、感情を起因するポイントがたくさんある作品ほど、名作と呼ばれるからです。「ゴールデンカムイ」が名作と言われる理由は、美味しそう・笑える・続きが気になる・キャラがかわいいなど、起因する感情の数が多いからです。

それを把握するために、共同代表の吉玉(吉玉泰和氏)とともに半年間1日30〜50冊のペースで漫画を読み続け、その漫画がどんな感情を揺さぶるかを分析し、データベースとしてまとめました。そのデータをもとに、漫画の横に日英表記でそれぞれのおすすめ文も書いています。

──海外からのお客さんも多いと聞きました。どんな作品が人気なのでしょうか?

現在すでに50ヶ国からお客さんが訪れてくださっていることもあり、5000タイトルのうち、英訳付きの作品を1000冊置いています。一方で、日本語作品が読まれる確率も高いです。日本語を勉強中の人や、言葉がまったくわからなくても、アートブックや絵本のように楽しむ方も多くいらっしゃいます。

「一晩中漫画に没頭してほしい」"心地いいストイックさ"を実現する空間づくり

──カプセルルームの構造なども、独特ですよね。空間づくりにおけるこだわりを教えてください。

コンセプトの「漫泊=一晩中漫画体験」にもある通り、ホテルでありながらお客さんを寝させる気はありません。(笑)そのためにも、一晩中たっぷり漫画に時間をとってもらう工夫が詰まっています。まず、室内を白の壁色で統一することで、漫画が主役になる空間づくりを意識しています。

またドミトリー形式にすることで、友達との会話などが妨げにならないようにしています。

さらに、一般的なカプセルホテルは目の前の部屋と向き合う効率的な構造をしていますが、あえてランダムに配置して、秘密基地っぽくすることで、押入れの中で誰にも邪魔されずに漫画を読んでいた子どもの頃の原体験を思い出せる設計にしています。この空間すべてに理由があります。そのおかげで、一晩中漫画体験をすることで、ホテルで一睡もせずに、帰って寝るという声も聞きます。(笑)

──「MANGA ART HOTEL, TOKYO」でのオススメの過ごし方や漫画の選び方を教えてください。

とにかく、漫画漬けになっていただきたいです。平均10冊くらい読まれるお客さんが多いですが、過去には一晩で25〜28冊も読んだという方もいました。(笑)

どの漫画を読むか迷った時には、ぜひスタッフに声をかけてください。漫画ごとにどんな感情を揺さぶるかを分析したデータベースがあるので、「今どんな気分になりたいか」をお伺いして、その日の気分に合った漫画をおすすめすることができます。

──最後に、御子柴さんの今後の野望を教えてください。

『MANGA ART HOTEL, TOKYO』を増やしていくという話は進めています。
その他には、我々のホテルのフロントスタッフはたくさんの漫画を読んで、お客さんに合う一冊をオススメするという、いわば「漫画を読むという仕事」が生まれつつあります。ゆくゆくは、そんな「漫画を読んで、お金がもらえる」という新しい仕事を作ってみたいと考えています。

御子柴館長が選ぶ! ホテルオススメ漫画3選

1.『ニュクスの角灯』作者:高浜寛 出版社:リイド社

<推薦コメント>
1870年代の長崎を舞台に、戦争で両親を亡くして奉公に出た女の子の挑戦を追った作品です。海外交易が盛んな街で暮らす中で、渡仏を決心し、パリでさまざまな苦難を乗り越えていく姿に胸打たれます。当時の外国文化や海外から見た当時の日本の様子が鮮明に描かれており、ノンフィクションの良さも楽しめる一作です。

2.『第3のギデオン』作者:乃木坂太郎 出版社:小学館

<推薦コメント>
大衆側から語られることの多いフランス革命を、貴族や聖職者サイドからも描いた視点がユニークな作品です。そのため、度々悪者として登場するルイ16世も、本作では、国を想う王のような描かれ方をしています。8冊で完結しますし、絵もとても美しいので、おすすめです。

3.『有害都市』作者:筒井哲也 出版社:集英社

<推薦コメント>
上下巻2巻で完結する作品で、「健全図書法」という架空の法律が制定されることで、表現の自由を奪われた映画監督や漫画家が罰せられてしまう日本を憂いた漫画です。これは、実際に1950年代のアメリカで、アメコミが弾圧された事件によって、アメコミ文化が停滞してしまった話がもとになっており、フィクションでありながら、実際に起こりそうなハラハラ感のある一作です。

以上前編・後編にわたって、「MANGA ART HOTEL, TOKYO」の魅力をじっくりレポートしてまいりました。

せわしない毎日の中で、ふと学生時代のように「時間も気にせず漫画に浸りたい!」なんて気分になった時。スマホの電源をオフにして、思うままにお気に入りの漫画を選んで、自分だけのカプセルルームの中で一晩中漫画漬けになる。「MANGA ART HOTEL, TOKYO」には、そんな非日常体験が待っていました。

<ホテル情報>
「MANGA ART HOTEL, TOKYO」
住所:〒101-0054
   東京都千代田区神田錦町1-14-13 LANDPOOL KANDA TERRACE 4F・5F
時間:チェックイン 15:00〜00:00、チェックアウト 05:00〜11:00
URL:https://mangaarthotel.com/

※この情報は、2019年8月時点のものです。最新情報をご確認の上、お出かけください。

(「テレ東プラス」2019年8月31日掲載。元記事はこちら

https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/

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