海外でも大人気! 内側にも同じ模様が...奥深い「練り込み」の世界:世界!ニッポン行きたい人応援団

文化

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(テレビ東京系列/毎週月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回ご紹介するのは、ロシア・サンクトペテルブルクに住むアレクサンドラさん(39歳)。

アレクサンドラさんは、1人息子のワシュリ君とご主人の3人暮らし。彼女が愛してやまないニッポンのものは「練上」です。「練上」とは、1300年以上にわたって培われた陶芸の技法で、ニッポンでは「練り込み」と呼ばれることも。一般的に陶芸は形を作った後に模様を描きますが、練り込みは色が違う粘土を組み合わせて模様を作り、それを器の形にするのが特徴です。複雑な模様を作ることも可能で、前衛的な作品からポップな作品まで、様々な種類が存在します。

近年海外でも大人気。「ロシアで手に入る練り込みの情報は本当に少なくて」と話すアレクサンドラさんは自己流で取り組んできたとのこと。

こちらがアレクサンドラさんの作ったお皿。「私のやり方は完全に我流で、最後までどんな模様になるか分かりませんが、本当は自分が意図した通りの模様が作れるはずなんです。ニッポンの練り込み陶芸作家の方から技法を学びたいです」とのことで、そんなアレクサンドラさんをニッポンにご招待!

アレクサンドラさんが作ったお皿
アレクサンドラさんが作ったお皿

まずアレクサンドラさんが向かったのは茨城県笠間市。「もしニッポンに行けたら松井康成先生の作品が見てみたいです」と話していたアレクサンドラさん。笠間市の月崇寺で住職を務めながら人間国宝にまで上りつめた陶芸家・松井康成。茨城県陶芸美術館には、松井先生の作品が常設展示されており、アレクサンドラさん、念願の作品を見ることができました。

茨城県陶芸美術館所蔵
茨城県陶芸美術館所蔵

「素晴らしいです。本当に感動しています。一体どうやって作っているのでしょう」とアレクサンドラさん。この後アレクサンドラさんは、独学では分からなかった練り込みの技法を学ぶため、平安時代から1000年以上続く日本有数の焼き物の産地、愛知県瀬戸市に向かいます。彼女の熱意を伝えたところ、練り込み陶芸の第一人者である水野教雄さん(69歳)から、練り込みの技法を教えて頂けることに。

練り込みに携わり半世紀。瀬戸市の無形文化財に認定されている水野さんは、「日展」に40回以上入選するなど、その独創性と卓越した技術が高く評価されています。

粘土の色の違いだけで模様を作り、土そのものの素朴な味わいが楽しめる練り込み。筆を使わずここまで細かい模様を作る陶芸は、世界でも類を見ないと言われています。内側にも同じ模様が現れるのが、練り込みならではの面白さ。「私も細かい模様に挑戦したことがありますが、失敗してしまいました。このような模様になると作り方は想像もできません」と驚きを隠せないアレクサンドラさんに対して、「大丈夫! いろんなものを日本で見て頂いて、アレクサンドラさんの練り込みができるといいなと思っています」と優しく微笑む水野さん。

練り込み陶芸の第一人者、水野教雄さん
練り込み陶芸の第一人者、水野教雄さん

東洋の不完全さの中にある美に心を動かされたアレクサンドラさん

いよいよ工房で水野さんの技を見せて頂くことに。まず取り出したのは瀬戸産の粘土。「菊練り」という独特の練り方で粘土の中の空気の粒を抜きます。練り方が甘いと、焼いた時に中の空気が膨張し、壊れる原因になるそう。練った粘土を平たい板状にしたところで、アレクサンドラさんに硬さを確認してもらいます。「この感触を忘れないようにします」水野さんが教えて下さることをすべて吸収しようとするアレクサンドラさん。次に水野さんが取り出したのはたくさんの薄い板。「これを瀬戸では"たたら"と言います」。

「これを瀬戸では“たたら”と言います」(水野さん)
「これを瀬戸では“たたら”と言います」(水野さん)

続いて「しっぴき」という道具で、「たたら」に沿って粘土を薄く切っていきます。

「たたら」に沿って粘土を薄く切る
「たたら」に沿って粘土を薄く切る

たたらを一枚ずつはずして切ることで、粘土を均等に厚さ3ミリの薄い板状に切っていくことができるのです。

初めてたたらを見たアレクサンドラさんは「たたらがあるのはすごく便利ですね。ロシアに帰ったらすぐに作ります」と熱心にメモ。続いて水野さんは、焼くと白くなる粘土と茶色くなる粘土、その中間色の粘土の3種類を準備。丸い棒状にこねた別の粘土に、接着面に刷毛で水を塗り、先程の3色の粘土を巻きつけていきます。

何層も重ね、細長く伸ばした棒を切ると、断面はこのようになっていました。

何層も重ね、細長く伸ばした棒を切った断面
何層も重ね、細長く伸ばした棒を切った断面

これを上下、半円になるように「しっぴき」でカット。半円の角と角を指でくっつけ、長さを5等分したものを細長い粘土の周りに水でつけていくと...。

花の模様が完成!
花の模様が完成!

かわいらしい花の模様が出来上がりました! そして花びらと花びらの間の隙間を三角形のパーツ作り、刷毛で水を塗りながら、くっつけて埋めます。「水はくっつけるところには必ずつけます。忘れるとそこが焼いた時に切れる」と水野さんはアレクサンドラさんが知らなかった大切なポイントを教えてくださいました。「私が失敗した原因の1つだと思います」と納得した様子のアレクサンドラさん。粘土で囲った花模様を切るとこんな感じに。

熟練のワザ!
熟練のワザ!

「とても綺麗です!」とアレクサンドラさん。写真が止まりません。

「花びらの輪郭が綺麗な曲線ではなく、角が出ているのが魅力的です。」と、西洋の完成された美とは違った東洋の不完全さの中にある美に心を動かされた様子。「綺麗な丸なら手で描いた方が早いんです。僕は粘土が動いて出る不自然な模様が好きで練り込みをやっている。」と語る水野さん。練り込みの美学がアレクサンドラさんにも伝わったようです。

続いては、模様を組むために花を小さくしていく工程です。中の模様がズレないように粘土を伸ばすには熟練の技が必要。それぞれの面に均等に圧をかけ、9センチ角だったものを1.5センチ角にまで伸ばしていきます。細くなった粘土を切ると、その断面はしっかり花模様のまま! 驚きの技です。

さらに、花の周りを茶色い粘土で囲った色違いのパーツを同じ数作り、先程の花の周りが白いパーツと茶色いパーツを交互に半月の形に積み上げて市松模様を組んでいきます。角の部分は丸くなるように削り、しっぴきで半分に切ってできた2つの半月を合体。円形になった粘土の断面は見事な市松模様になっていました。

見事な市松模様に感激のアレクサンドラさん

魔法のように現れた美しい模様に、アレクサンドラさんも思わず日本語で「スゴ~イ!」。

練り込みならではの、1つ1つ味わいがある独特の花模様。これをお椀に成型していきます。水野さんはアレクサンドラさんが参考にしやすいようにと、今回は型を使う方法を教えてくれました。厚さ7.5ミリにカットして、表面が汚れないようにガーゼで挟んで型にのせ、ろくろを回転させながら形を整えます。つなぎ目の部分が開かないように丁寧で手でおさえるのがポイント。

この後は2日間乾燥させ、仕上がりを決める削りの工程に
この後は2日間乾燥させ、仕上がりを決める削りの工程に

お椀の底になるよう台をつけて今日の作業は終了。この後は2日間乾燥させ、仕上がりを決める削りの工程に入るのだといいます。「質問したいことが山ほどありましたが、おかげでここまではすべて解決しました」とアレクサンドラさん。その夜、水野さんのお宅に招かれたアレクサンドラさん。そこには長女のこのみさんが。

このみさんは「陶磁胎七宝(とうじたいしっぽう)」という特別な作り方の陶芸を仕事にしており、ステキな作品を見せてくださいました。

「幻の七宝」
「幻の七宝」

陶磁胎七宝とは江戸時代から明治初期まで日本で作られていたもので、幅わずか1ミリの純銀のリボンをピンセットで曲げて模様を作り、色のついた釉薬を流し込むという七宝焼きの一種。今は失われてしまった作り方なので、「幻の七宝」と呼ばれているそう。

そして食卓に目を移すと、水野さんの奥様・充枝さんが腕によりをかけたご馳走の数々が。なんとスタッフの分まで作ってくださり、テーブルにのりきらない程の料理を練り込みの器に盛りつけてくださいました。

「素敵な練り込みの器でお料理を頂けるなんて幸せです」と感動するアレクサンドラさんに、水野さんは「うちはこの練り込みの器しかないんです」と笑いながら答えます。ビールも練り込みの器で...。窯焼き職人の栄養の源だったという五目ご飯を食べたアレクサンドラさんは「トテモオイシイ」と嬉しそう。

別の日、水野さんは成型の仕上げ、削りの作業に入ります。ろくろを回転させながら「まがり」というL字型の道具で、いびつだった縁を削って整えます。お椀の内側の湾曲は「かきべら」で削って整え、底の部分や外側の湾曲は再び「まがり」で削り、使いやすく美しい器に仕上げていきます。

1週間乾燥させたら内側と外側にサンドペーパーをかけて、透明の釉薬をかけて窯で焼きます。すると粘土の色が変化して...完成した作品がこちら!

絵では出すことができない練り込み独特の味わいが! ここで陶芸の技術を見込み、アレクサンドラさんも練り込みに挑戦させて頂けることに。「練り込みでは伝統的で古くからある模様で、これができたらいろんなパターンができる」と水野さんが話すのは「鶉手(うずらで)」。鶉の羽に似ていることからその名前がついたニッポンの伝統的な模様です。

鶉の羽に似ていることからその名前がついたそう
鶉の羽に似ていることからその名前がついたそう

初めて本格的な練り込みに挑戦するアレクサンドラさん。果たして綺麗な模様はできるでしょうか。

小花模様と違い、こちらは薄い粘土の板を何層にも重ねていきます。それをしっぴきで細長く切って両手で丁寧に湾曲させます。こうして出来たパーツを24個放射上に並べて隙間や周りを粘土で固めたものを切ってみると、美しい鶉手模様が現れました!

初めての挑戦で綺麗な模様が。大成功です!
初めての挑戦で綺麗な模様が。大成功です!

これを先程の花模様のお椀と同様に型を使って、平らな皿とお椀に成型します。このあとは仕上げと焼く作業で2週間かかるのですが、あと2日しか滞在できないアレクサンドラさんのために、残りは水野さんが仕上げてロシアまで送って下さることに。「先生に仕上げていただけるなんて本当に幸せです」と感謝しきりのアレクサンドラさんです。

3日間お世話になった水野さんと別れの時。「夢だった初めてのニッポンで先生とご家族のみなさんに出会えて、私は本当に幸せです。みなさんの優しさは一生忘れません。」とアレクサンドラさん。

「これからロシアに帰ってどんな物を作られるかな、と楽しみです。頑張って下さい。」と水野さん。

アレクサンドラがお礼にサンクトペテルブルクのマトリョーシカを手渡すと、水野さんは小花模様の器としっぴき、お嬢さんのこのみさんからはロシアの国の花であるひまわりをかたどった陶磁胎七宝のネックレスをプレゼントしてくださいました。

思いがけない贈り物に感無量のアレクサンドラさんは「ハグしてもいいですか」と、水野さんたちを抱きしめ、「また必ず来ます」とロシアに帰っていきました。

2週間後。ロシアのアレクサンドラさんに、水野さんが仕上げてくださった練り込みの器が届きました。

2週間後、完成品がアレクサンドラさんのもとに
2週間後、完成品がアレクサンドラさんのもとに

「自分が作ったなんて信じられません。教えて頂いたたくさんのことを糧にロシアで練り込みの創作に励みます」とアレクサンドラさんは送られてきた器に感激していました!

アレクサンドラさん、またのご来日お待ちしています! そして今回取材にご協力くださったみなさま、本当にありがとうございました。

(テレビ東京系列「世界!ニッポン行きたい人応援団」より。「テレ東プラス」2019年12月9日掲載。元記事はこちら

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