バブルは「別の顔」でやって来るー超金融緩和のリスク

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主要国で進む超低金利の弊害は、インフレではない。問題は今またバブルの臭いが少しずつ漂ってきたことだ。

ニューヨーク株価は2018年10月から大きく崩れて年末には大底をつけた。ところが、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が1月初めから利上げ停止を示唆し始めると、急速にリバウンドが進む(図表1)。10月の下落前に接近するまでわずか2カ月半だった。こうした米株価のリバウンド過程で特徴的だったのは、米長期金利が低下したことである。株高と債券高が同時に起こったということだ。さらに、一時は為替もドル安に傾きつつあったが、逆に株高を好感するようにドル高へと切り返した。長期金利が低下するのにドル高というのは異様にみえた。「株高・債券高・ドル高」のトリプル高になった。これは典型的な金融相場、ドルのマネー拡張現象だと分かった。

リバウンドの大きさで言えば、上海総合指数の方が劇的だ(図表1)。18年中は下落する一方だったのが、1月初めをボトムにして3000ポイントを約2カ月で超えた。中国も19年に入ると、預金準備率の引き下げなど金融緩和に動く。

米中とも貿易戦争のダメージが実体経済に及ぶことを事前に計算して、即効性が見込める金融政策を緩和方向に柔軟化したのである。日本株はまだ半値戻しで、18年末の株価下落からの立ち直りが鈍い。しかし、注目すべきは、この反応が一時的なものではなく、日銀と欧州中央銀行(ECB)の金利正常化の路線に修正を迫ることである。米中貿易戦争のダメージは、長期化して、それが世界的な過剰流動性をさらに後押しする結果を引き起こすだろう。

次なるバブルの芽は、そうした周回遅れとなる日欧の金融緩和のさらなる延長、場合によっては追加緩和によって育てられるとみられる。ゼロ金利やマイナス金利の状態が続くということは、金などの商品や仮想通貨といった利息の付かない資産への投資が促進される。例えば、債券の利子が極端に低下すると、金や仮想通貨のような無利息資産との差がなくなる。むしろ、金や仮想通貨の方が値上がり益を見込める分、期待収益率が高くみえる。少ない元手で大きな取引が可能となるレバレッジを誘うことで、投機が起きやすくなるのである。

日銀への追加緩和圧力

米中貿易戦争の影響は、日銀の出口戦略をさらに遠いものにするだろう。1、2月の貿易統計は中国向け輸出が落ち込んだ。中国の旧正月(春節)の要因があって、2月の中国向け輸出は前年比プラスとなったが、1、2月を併せてみると、中国の景気減速感が色濃く表われている。

2018年7月に長期金利の変動幅(ゼロ%を挟んで上下0.1%)を2倍に拡大して、上下0.2%の変動を認めたことで、超低金利政策からの出口への一歩を踏み出したところだった。日銀は常にFRBやECBの様子を見てから恐る恐る巨大緩和からの修正を行う。長年、日銀の政策を分析している筆者からみると、金利正常化の失敗を繰り返したのではないかと、悔しい気持ちがする。そして、19年10月の消費税増税を前にして追加緩和に動く可能性も出てきたとみる。

19年1月は生産周りの経済統計が軒並み悪化して、内閣府の「景気動向指数」は景気後退リスクを示し始めた。10月に増税を控えた政府は、非常に厳しい立場に追い込まれた。筆者の読みでは、安倍政権は増税延期に動くのではなく、追加の経済政策を打ってでも増税の前後の景気をしっかり補強しようとするだろう。だから、日銀もそうした補強に一役買って追加緩和に動く可能性はあるとみる。

問題は、今の日銀にはもう有効な手段が残っていないことである。短期金利はマイナス0.1%、長期金利(10年)は0.0%という金利水準で、利回り曲線をコントロールする政策を探っている。これを短期金利マイナス0.2%へと深掘りして、長期金利のターゲットにも何らかの修正をするだろう。

さらにもう一つ、奇策を紹介したい。企業向け融資を増加させるために日銀が設けた貸出支援基金の枠組みを使って、融資に積極的な銀行に対して事実上の補助金を与える。具体的には、貸出残高を増やした銀行に日銀がマイナス金利の資金供給をすることで、その分の利息を日銀が銀行に支払うという金融緩和策だ。

不動産に向かうマネー

これによって増えそうな貸し出しは、不動産向けである。現在、新規貸し出しのうち設備資金に限ってみると、その6割が不動産向けと個人の住宅ローン向けによって占められている。貸出残高でみても18年末の不動産向け貸し出しは前年比5.3%の伸びである(全体は2.9%の伸び、図表2)。

巨大マネーが不動産に向かいやすい中、都市部を中心に地価は上昇している。日本不動産研究所の市街地価格指数では、商業地の指数が18年9月末は前年比8.1%と大きく伸びている。19年の公示地価でも商業地を中心とした上昇が目立つ。特徴は札幌・仙台・京都・広島・福岡といった地方中核都市でも商業地の上昇率が高まっていることだ。こうしたデータは、安易にバブルの再燃を指しているわけではないが、集計された不動産物件の中にはバブルを思わせるものもあるのではないかと思わせる。今後の緩和マネーが、再び不動産市場へと流れやすいことを示唆している。

不動産分野では、20年夏の東京五輪がここ数年間の大きなテーマとなってきた。いよいよその五輪は来年にやって来る。五輪の後は、大きな反動減になって、久方ぶりに地価が大きく下落するという観測は以前からあった。ところが、最近は五輪後でも都心の再開発が目白押しなので、五輪が終了するだけで需要の急減にはならないという見方が強まっている。19-24年の再開発計画は、品川・渋谷・虎ノ門・新宿・大手町など無数のプロジェクトが控えている。確かにこのところの不動産価格の上昇が五輪頼みでないことは事実だろう。だからこそ、緩和マネーは力強い実需に支えられて、さらに不動産市場に流入し、過熱化しやすくなっているとも言えよう。

マネー流入、FXや仮想通貨・絵画にも

バブルが再燃するとしても、当然ながら1980年代と同じバブルにはならない。地方経済ではなく、東京など大都市に限って資産価格の高騰が局所的に起こる。特徴は過去のバブルと似たようでいて、かなり違った形態で起こるということだ。筆者は、こうした性格を「バブルは別の顔をしてやってくる」と述べている。さらに言えば局所的バブルが起きたときには、必ず専門家のような人達の口から「今はバブルではない」といった都合のよいコメントが聞かれる。こうしたコメントはいわゆるポジショントークのようなもので、一般の人々がバブルにおびえる気持ちをまひさせる効果がある。

17年末までビットコイン価格が急上昇していたことがあった。その取引の主役は中国人など海外の人々ではなく、日本人だったとされる。筆者も20、30歳代の若者たちの間でビットコインなど仮想通貨がブームだったことを知っている。初めはネットの株取引でデイトレーダーが登場し、若者の投機熱は外国為替証拠金取引(FX)へと移っていった。その次が仮想通貨であった。次のバブルは、サイバー空間のもっと別のところから出現する可能性がある。

実は個人のバブル熱はアパート経営やマンション投資のところで数年前から膨んでいる。15年に相続税が強化されて相続対策への関心が高まった。一時タワーマンション投資が流行したのも背景には相続対策があった。しかし、こうしたアパート経営はすでに過剰であり、空家が増えているのに、次々とアパート・マンションが建設される。さまざまな不祥事も18年には明るみに出ている。これで、個人の節税ブームや相続対策熱が一巡するとは考えにくい。どこか多くの人が注目していない分野で、プチバブルが起こる可能性は十分にある。

一例を挙げると、美術品分野の変化がある。美術品市場では、世界の市場規模が18年は前年比6%増の674億ドル(約7兆4000億円)になったという推計がある(アートバーセルとUSBグループの調査)。これは、世界的なカネ余りのせいだという。実は日本でも美術品にかかる減価償却制度が見直されて、15年から1点当たりの取得価額100万円未満は原則として減価償却することが可能となった(従来20万円未満)。費用計上できる範囲が広がり、節税効果が増す結果、微妙に人々の節税意識に影響を与えて、美術品取引を活発化させるだろう。

今後、日本だけでなく、米国や中国などの海外マネーが日本の資産市場に流入して、新しいバブルの芽が育っていくことが予想される。

バナー写真:PIXTA(日本銀行本店)

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