GWの湘南は一転、人影まばら、「ステイホーム」浸透か-海岸道路の通行規制見送りでも

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新型コロナウイルスの感染が拡大する中、異例のゴールデンウイーク(GW)が幕を開けた。例年、全国から大勢の観光客を集める江の島や鎌倉といった湘南エリアは、人影もまばらで、すっかり静まり返った。大渋滞を引き起こす海岸道路(国道134号線)の通行規制は、法制上の問題から見送られたにもかかわらずだ。人々の間で「ステイホーム」の意識がようやく浸透してきたのか――。

10日間で激減

飛び石連休初日の4月29日は快晴に恵まれたが、江の島の西側に延びる鵠沼海岸沿いの134号線はガラガラだった。「横浜」「湘南」「相模」といった県内ナンバーが目立ち、県外からの車両はほとんど見当たらない。江の島入り口交差点から江の島大橋に目をやると、人波や車に邪魔されずに、一直線に島に目が届く。

江の島に向かう橋はガラガラ=4月29日
江の島に向かう橋はガラガラ=4月29日

わずか10日前の19日の日曜日、鵠沼海岸周辺の人出は感染被害発生以前の1、2月の休日平均と比べ、59.2%も増加していた(NTTドコモのモバイル空間統計調べ)。江の島より東に位置する県立鎌倉高校近くの交通量も19日、非常に多かったが、29日になると激減したのは一目瞭然だ。

(左)4月19日、(右)4月29日=江ノ電「鎌倉高校前」駅そばで
(左)4月19日、(右)4月29日=江ノ電「鎌倉高校前」駅そばで

海岸沿いの交通渋滞について、鎌倉市は「車から降りて公衆トイレや駐車場、コンビニ、飲食店などで人が集まれば『3密』(密閉・密集・密接)条件がそろい、感染源になる可能性がある」(観光課)として、警戒を強めていたが、渋滞はいったん収まった形だ。

「帰ってください」

この10日間で人の流れに変化が起きたのは、東京都の小池百合子知事の呼び掛けをきっかけに、自治体の間で「ステイホーム」運動が強まったことと関係がありそうだ。

GW直前の4月25日の週末、鎌倉市の松尾崇市長は有線放送で「市内では新型コロナウイルス感染者が増えています。観光でお越しの方は帰ってください」と強い口調で訴え、市内をパトロールした。神奈川県の黒岩祐治知事も「湘南にはどうぞ来ないで」とメディアを通じて呼び掛け、海岸への立ち入り自粛を求める看板を随所に設置した。

片瀬東浜海岸に設置された県の看板=4月29日
片瀬東浜海岸に設置された県の看板=4月29日

大きな観光スポットの一つ、鎌倉の大仏(高徳院)がある長谷に住む女性は、「こんなに人の少ないGWは初めて」と驚く。観光客目当てに数多くの飲食店が並んでいるが、「かなりの店が閉まっており、テークアウトだけの店も目立った」という。観光客が姿を消した理由について、女性は「コロナが怖いという思いが強いからでは」と話した。

鎌倉市の松尾市長は取材に対し「海岸は3密にならないとの認識からかえって人が集まってしまうことがあった」と振り返り、GW初日の状況について「さまざまな機会を通じて要請してきたことがメディアでも大きく取り上げられ、全体的にも外出自粛の意識が浸透してきたのでは」とコメントした。

国道閉鎖ならず

課題が残るとすれば、鎌倉など沿線11市町が黒岩知事に求めていた国道134号線の通行規制が実現しなかったことだ。「国道」という名が付くが、実は134号線の道路管理者は神奈川県。しかし、県は規制を見送った。

協議する松尾崇・鎌倉市長(手前中央)らと黒岩祐治・県知事
協議する松尾崇・鎌倉市長(手前中央)らと黒岩祐治・県知事

通行規制に関する法律は、管理者が関与する道路法と警察所管の道路交通法がある。規制する際の要件として、道路法は「道路の破損、欠壊、工事」などを、道交法は「危険防止、交通安全、損壊、火災」などをそれぞれ挙げる。大ざっぱに言えば、規制は物理的に道路が壊れるなどの緊急事態に限られるということだ。

「感染拡大阻止」という観点から通行規制を掛けることについて、県は「道路法ではできない」(道路管理課)と判断。さらに、行政機関に強力な権限を与える「新型コロナ対策特措法」についても、「道路閉鎖の規定はない」(総務危機管理室)としている。新型コロナウイルスの感染拡大という異例の事態を前にして、現在の法体系は対応できないということになる。

それでも、交通渋滞はなんとか回避された。日本気象協会の天気予報では、5月2日から始まる5連休は晴れの日と曇りの日が交錯する見通しだ。鎌倉市は「油断はできない」(新型コロナウイルス対策担当課の竹之内直美課長)と、なお気を引き締めている。

バナー写真:江の島を望む国道134号線(筆者撮影)

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