ポスト・コロナのトレンドを占う:「家で過ごす」から「家を楽しむ」へ 進化する巣ごもり消費

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コロナ禍の巣ごもり消費に今、変化が生じている。よりオシャレに、よりぜいたくに、より快適に家にいる時間を楽しむための消費が伸びているのだ。不要不急の外出・営業自粛要請で仕方なしに始まった「家で過ごす」生活・消費スタイルが、積極的に「家を楽しむ」消費・生活スタイルへと進化しつつあると言ってもいい。「衣」「食」「住」の順番で見ていこう。

単調な自粛生活を華やかに彩る衣と食が需要急伸中

外出自粛下でもオンライン会議やオンライン飲み会など、人目に触れる機会は少なくない。巣ごもりが長びくにつれて、オンラインを通じて家にいる自分の充実ぶりをオシャレによって表現したい人が増えている。

スタイリストが選んだ服をネットで販売する三越伊勢丹ホールディングス子会社のDROBE(ドローブ、本社:東京・渋谷)では、緊急事態宣言が発令された4月の新規会員登録者数が1月の2倍以上に達している。

DROBEのネット販売は、入会時、好きなブランドや月額の予算、お気に入りの洋服の写真などを顧客に入力してもらい、スタイリストがAI(人工知能)を使って洋服を選択・配送、顧客は気に入った洋服だけを購入する。

在宅勤務など、テレワークの拡大でスーツやネクタイの需要は落ち込んでいるが、スタイリストが推薦するというDROBEの巧みな販売手法によって、自宅でオン・オフの場面ごとにオシャレを楽しむ新たな市場が立ち上がり始めたのだ。

DROBEの宅配セットサンプル
プロのスタイリストが選ぶDROBEの宅配セットサンプル(パーソナルスタイリングサービスDROBE提供)

輸入食材に強い成城石井や、高級食材の品ぞろえが豊富なフランテなどの高級スーパーが住宅街に数多く立地する名古屋市では、緊急事態宣言が発令されて以降、高額な食料品の売り上げが右肩上がりを続けている。

フランテを展開するヤマナカでは、4月21日から5月17日までのフランテ8店舗の売上高が前年同期比で2割伸びたという。とりわけ富裕層が多い市内地域の店舗では、伸びは3割強に達している。

高級食材の価格はレストランの休業やパーティー、接待の自粛で需要が減り、下落しているとはいえ、一般の食材に比べればずっと高い。売り上げ増の背景にあるのは、ハレの食事によって単調な自粛生活に彩りを添えたい意識の広がりだろう。

「家族と一緒にいる時間がせっかく……と言うと、少し語弊があるかもしれませんが、増えたのだから、時々は自宅の食卓を華やかにしたいじゃないですか。外食が減った分、お金が浮きましたしね」とは、名古屋市内の高級スーパーによく買い物に行くというビジネスパーソン(男性)の弁だ。

注目を集めるインフルエンザウイルス99.9%除去の空気清浄機

おしゃれで高性能な空気清浄機が注目されている。元シャープのエンジニアたちが起ち上げた家電スタートアップ企業のカルテック(本社:大阪市)が昨年12月に本格発売した壁掛け型の除菌・脱臭機、「ターンド・ケイ」はその代表例だ。

ターンド・ケイは光を照射して物質の化学反応を促進し、汚れを除去する光触媒技術によって、ウイルスやカビ菌などの有機物を水と二酸化炭素に分解する。北里環境科学センターでの試験ではインフルエンザウイルスを約5分で99.9%除去したという。

白を基調とした清楚なデザインも目を引く。縦44cm×横42cm×厚さ(奥行)8.8cmと小型で、スイッチ類も機器側面に控えめに配置されているので、その存在を過度に主張せず、リビングルームや書斎などの自宅空間にもしっくりなじむ。(下写真)

コロナ禍以前には空気清浄機の売れ筋は、吸着フィルターで汚れを除去する1万から3万円台の製品が中心で、花粉症対策を目的に購入する人が多かった。

これに対してターンド・ケイの市場価格は6万円前後(税別)と従来の売れ筋を上回るが、コロナ禍以降、売れ行きはさらに伸びている。カルテックはこの5月、引き合いの増加に応じて、月間の生産台数をそれまでの2~3倍の1万~1万5000台へと引き上げた。

カルテック社の壁掛け型除菌・脱臭機、ターンド・ケイ
カルテックの壁掛け型除菌・脱臭機、ターンド・ケイ(©2019 KALTECH CORPORATION)

よりおしゃれで高性能な空気清浄機を求める人の増加──「住」の分野にも生じている新たな消費トレンドは、コロナへの不安と巣ごもりの長期化で、家の中をより清潔・安全・快適にしたい意識が強まっているからにほかならない。

ポスト・コロナは「家を楽しむ」が消費トレンドのキーワード

では今後、コロナ禍で消費はどのように変わっていくのだろうか。

政府は5月25日、首都圏と北海道で続いていた新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を解除すると表明し、4月7日以来の緊急事態措置は約1カ月半ぶりに国内全域で解かれた。今後は不要不急の外出や営業自粛が段階的に緩和されていく。

結論を言えば、「家を楽しむ」消費・生活スタイルへの進化は止まらないだろう。

緊急事態宣言が解除されてもコロナへの不安は拭えない。第2波、第3波の襲来にも身構えていなければならない。好きな時に好きな場所へ行き、好きな仲間と集う消費スタイルはワクチンが行きわたるまで戻ってこないだろう。

一方でコロナ禍が強いた外出自粛はオンライン飲み会やテレワークなど、新たな楽しみや便利さを私たちに教えてくれた。家族の絆の大切さを改めて実感した人も少なくないだろう。人は一度覚えた楽しみや便利さをそう簡単には手放さない。巣ごもりからは解放されても、私たちは家を仕事・消費の拠点にし続けるだろう。

今後は高機能の家電製品やおしゃれな家具・照明などの需要にも火が点くかもしれない。自宅周辺でのレジャーを楽しむための自転車やスポーツ用具、アウトドア用品の消費もさらに盛り上がるのではないか。

加えて小売店や飲食店を含めたあらゆる企業が今後も「家を楽しむ」ための商品やサービスの提供を競うに違いない。不要不急の外出・営業自粛要請で外食やレジャーなどの消費は一気に落ち込んだが、それらを楽しみたい人々の思い、すなわち潜在需要自体が消えたわけではない。

そんな思いを家にいながら満足させられるような商品やサービスを提供できれば、潜在需要と供給のミスマッチ(すれ違い)を解消できる──そう気づいた企業はこれからも「家を楽しむ」ビジネスを深掘りするはずだ。

具体的には通信速度は従来の20倍、2時間の映画を3秒でダウンロードできる高速・大容量の5G(第5世代移動通信システム)を使ったコンサートやスポーツの動画配信が登場するだろう。ネットを使った教育や医療についての情報提供サービスも活発になるに違いない。

コロナ禍で変わる新たな消費トレンドは、コロナ後の消費の胎動(たいどう)でもあるのだ。

バナー写真:パソコンでオンライン飲み会を楽しむ若者たち。オンライン飲み会はコロナ禍で環境が激変する中、新たなムーブメントが起きる代表例の一つとなった(AFLO)

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