Gゼロの時代へと向かうのか? : 米中経済と世界の行方

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中国は、誰が次期大統領になろうと、米国は中国の発展を妨害し続けるだろうと結論を下し、長期闘争に入る決心を固めた風だ。しかし、その中国とて、長期的には深刻な経済不振に見舞われる可能性が高い。そんな「Gゼロ」に向かう世界で、日本がなすべきことは何なのか――。

2019年までの米中対立は、トランプが主導する貿易戦争と超党派の対中タカ派が進めるハイテク冷戦という別々の劇が同時進行する気配だった。2020年になって、コロナ禍の蔓延(まんえん)という3つめの劇が加わって、全面的な対立へと発展してしまった。

米国は国務長官ポンペオらが「中国共産党を打倒せよ」と言わんばかりになってきた。中国は「誰が次期大統領になろうと、米国は中国の発展を妨害し続けるだろう」と結論を下して持久戦に入る決心を固めた風だ。

米国との持久戦を覚悟した中国

とは言え、いますぐ米国と戦って勝てるはずはないし、再選を焦るトランプにさらに過激な対中制裁を科す口実を与えてもまずいから、殊更な挑発姿勢は採らないようにしてきた。2019年末に合意してトランプが自画自賛した米中貿易協議「フェーズワン・ディール」の輸入目標の達成は絶望的だが、それでも達成に努力するポーズを採ってきたのは、その表れだ。

その一方で、中国は米中対立を持久戦に持ち込む用意を進めており、最近は「国内大循環」という新しい経済スローガンを標榜(ひょうぼう)し始めた。内向き経済になるわけではないが、外需、特に米国への輸出に依存しすぎる経済構造を変える必要があると見ているのだろう。

対米依存脱却が特に必要な具体課題が2つある。1つは米国のハイテク冷戦政策への対応だ。この政策は今年いよいよ過激さを増して、米国や日本のIT産業にも大きな影響を及ぼしつつある。半導体チップ兵糧攻めに危機感を抱いた中国は「準戦時体制」と評されるほどの力の入れ方で半導体国産化を推進し始めた。道のりは遠いが、中国が技術的に追い付いてくると、西側半導体産業の存立が脅かされるだろう。

もう1つの課題はドル依存からの脱却だ。中国は米国が中国金融機関に対してドル制裁といった強硬措置を採ることを懸念し始めた。大規模ドル制裁は「経済核兵器」の呼び名があるくらいで、下手をすれば世界中の対中貿易をストップさせ、世界経済に激震をもたらす措置なので、米国も容易に発動できないが、万が一発動されれば、中国は対応に窮する。

最近はよく対応策として「デジタル人民元」が取り沙汰されるが、何をするにしても、決済の仕組みについて、相手国の金融機関といちいち取り決めを結ばなければならない。ドル基軸体制が持つインフラ性を一昼夜で代替する名案はないのだ。しかし、「中国との輸出入を維持するために他に方法がない」となれば、その仕組みが普及し始める可能性はある。中国は一部の国とは内密に対策の協議を始めているのではないか。

「戦狼外交」にはやや反省も?

今年中国は、「マスクを供与するから、メディアに中国批判をさせるな」と恫喝(どうかつ)的に要求する「戦狼外交」と香港における国家安全法の強硬制定で、世界中で評判を落とした。過去、国際的孤立を病的に嫌ってきた中国外交からすれば極めて奇異なことだ。

途上国世界では中国に味方する国も多いので、中国はわれわれが想像するほど「孤立」していると感じないのかもしれないが、最近国民の間に「中国体制優越論」が広がっていることも原因の一つではないか、が気になる。

きっかけは、コロナ対策の巧拙の対照だ。政府の果断な措置でコロナ禍を短期間に制圧できた中国からみると、コロナ感染防止と経済回復の要請の板挟みに苦しむ西側先進国は後れていると見えるのだ。西側も中国の対策から学ぶべき点があるとは思うが、中国に「落ち目の西側に嫌われても気にならない」驕(おご)りのムードが生まれているなら、将来きっと後悔するだろう。

一方、中国批判が世界に広がったのをまずいと考える向きも出てきたようだ。さる9月の国連一般演説で習近平が「2060年までに二酸化炭素の(純)排出量をゼロにする」と約束したと聞いて、そう感じた。パリ協定から脱退したトランプに当てつける意図は明確だが、同時に気候変動問題を憂慮する欧州などでのイメージ回復の狙いも透けて見える。

「発生源は中国だ」と非難を浴びたコロナ禍に関しては、ワクチン開発の成否が注目される。中国製ワクチンが成功すれば、来年われわれは途上国の支持を得ようとする「ワクチン外交」を目の当たりにすることになるだろう。

米国との持久戦を恐れないのはなぜか

米国から想像を上回る攻撃を受けて、中国は身を固くしているが、だからと言って、米国にわびを入れよう、頭を下げようとは考えない。そこには2つの理由があると思われる。

第1は「外敵に妥協せず徹底抗戦する」中国の伝統だ。義和団事件や抗日戦争など虐げられた時代によく見られ、中国人の考え方や行動を縛ってきた考え方だ。中国の国力が増してからは鳴りを潜めていたが、米国の攻撃で再び「徹底抗戦」のスイッチが入ったようだ。

第2は、中国が「米国は衰退しつつある」と見ていることだ。国の分断が深刻化してコンセンサスが作れなくなった結果、政治体制は混乱の極み、金融を緩和させて国債を発行しまくる経済政策は持続可能性が乏しい、そんな国に未来があるとは思えないと見ているのだろう。

確かに、米国大統領選挙はいよいよ視界不透明になってきた。トランプはバイデン勝利の結果が出ても負けを認めず、次期大統領がすんなり決まらない恐れが取り沙汰され始めた。いずれにせよ来年、米国の分断はさらに進行するだろう。米国のそんな有様を見る中国は「屈服しなければ、時間は中国に味方するはずだ」という思いを強くしているのではないか。

「時間は中国に味方する」とは限らない

しかし、時間が中国に味方するとは限らない。

過去10年あまり中国は借金とその金に基づく投資に頼った経済成長をやり過ぎた。そのせいで、収益や経済効果を生まない疑問資産が積み上がって経済の効率を損ねている。

しかし、一方で中国は政府が強大な経済権力を握る国だ。その力を利用して政府が官民の資金調達に「隠れた政府保証」を提供しているおかげで、借金を収益で償還することができなくても借り換えを続けることはできる。ゆえに短期的にはバブル崩壊だ、不良債権だといった症状が顕現することはないが、経済効果を生まない不良資産と、償還できずに借り換えを続けるしかない不良債務がますます蓄積していく。

問題は2つの場所で発現するだろう。

第1の問題は国家財政に起きつつある。中国の国家財政は、今年従来のレッドラインを大きく踏み越える赤字予算を組んだが、かなりの部分は暦年の過剰投資のせいで深刻な財政難に見舞われている地方財政の穴埋めに投ぜられている。また、年金を始めとする社会保障財政は、10年前までは「2020年代は黒字基調を維持できる」と言われていたが、既にGDP比1.5%の財政補填(ほてん)を仰ぐようになった。

財政赤字の深刻化を防ぐ有効策は成長率を維持することだが、それは借金で投資をかさ上げして達成する見せかけの成長でなく、生産性の向上をもたらす民営セクターのさらなる成長と発展でなければならない。しかし、いまの習近平政権は財政難に直面して、民間への収奪を強める、出来の良い民間企業への党と政府による介入を強化していくのではないか。

もう1つの問題は、不良債権処理の先送りが国進民退や貧富格差の拡大など中国経済の問題をさらに悪化させることだ。不良債権に利息を払い続けるのは、実は支払いを受ける資格のない債権者に富を移転し続けるのと同じだ。いまや金融資産残高が300兆元に及ぶ中国において、そういった富の移転の規模は年間数兆元レベルに達すると思われるが、そこで不正当な受益者になっているのは金融を支配する国有セクターと富裕層なのだ。この構造をそのまま放置して中国経済が発展し続けられるとは思えない。

世界の行方

「米国の覇権は解体しつつある」という中国の見方は当たっているかもしれないが、そうみる中国とて、長期的には深刻な経済不振に見舞われる可能性が高い。世界の二大大国の対立がこれ以上深刻化するのは怖ろしいが、長期的にみて、両国がともに衰えて国際問題に対処する力を失う…世界がそんな「Gゼロ」に向かうとしたら、米中以外のほとんど全ての国にとって、これまた極めて生きづらい時代になるであろう。

そういう時代に備えて、日本は中小国同士の連携を強めるべきだ。そのために「プリンシプルの筏(いかだ)につかまって、波にさらわれないようにしよう」と提唱するべきだ。プリンシプルとは、自由・民主・人権といった西側価値や市場経済・自由貿易の原理だ。それで必要十分条件にはならないが、プリンシプルがなければ、世界の混乱に翻弄されるばかりになる。

そういうイニシアティブを日本も取ってほしいと期待する国は意外と多いのではないか。だって、他に期待できそうな国があまり思い付かない昨今だから。

バナー写真 : G20大阪サミットに合わせて開かれた首脳会談に出席する、米国のトランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席=2019年6月29日、大阪市(ロイター=共同)

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